第21章 核化学

図21.1 | 核化学は、この陽電子放出断層撮影法(PET)のスキャン画像のように、医療における多くの有用な診断法や治療法の基礎を提供しています。左側のPET/コンピュータ断層撮影法のスキャン画像は筋肉の活動を示しています。中央の脳のスキャン画像は、中毒者と非中毒者の脳におけるドーパミンシグナル伝達の化学的な違いを示しています。右側の画像は、リンパ節転移を特定するためにPETスキャン画像を腫瘍学的に利用することを示しています。

この章の概要

21.1 核の構造と安定性
21.2 核反応式
21.3 放射性崩壊
21.4 変換と核エネルギー
21.5 放射性同位体の利用
21.6 放射線の生物学的影響

はじめに

私たちが以前の章で考えてきた化学反応は、対象となる種の電子構造が変化するもの、すなわち原子やイオン、分子の周りの電子の配置が変化するものでした。核の構造(対象となる原子の核の中の陽子と中性子の数)は、化学反応の間には変化しないままでした。

この章では、核化学のトピックについて紹介します。核化学は、1896年にフランスの物理学者アントワーヌ・ベクレルが放射能を発見したことに始まり、20世紀から21世紀にかけてその重要性が増し、エネルギー、医療、地質学および他の多くの分野に関連する多様な技術の基礎を提供しています。

21.1 核の構造と安定性

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•核の構造を陽子、中性子、電子の観点から記述する
•原子核の質量欠損と結合エネルギーを計算する
•原子核の相対的な安定性の傾向を説明する

核化学とは、核の構造の変化を伴う反応を研究するものです。原子、分子、およびイオンの章では、核の構造の基本的な考え方、すなわち原子の原子核は陽子と中性子(\(\rm _1^1H\)は例外)とで構成されているということを紹介しました。原子核に含まれる陽子の数をその元素の原子番号(Z)といい、陽子の数と中性子の数の和が質量数(A)であることを思い出してください。原子番号が同じで質量数が異なる原子は、同じ元素の同位体です。単一のタイプの原子核に言及するときには、私たちはしばしば「核種」という用語を使用し、「\(\rm _Z^A X\)」という表記法によって特定します。ここで、Xはその元素の記号、Aは質量数、Zは原子番号です(たとえば、\(\rm _6^{14}C\))。しばしば、核種は元素名の後にハイフンと質量数を続けることによって言及されます。たとえば、\(\rm _6^{14}C\)は「炭素-14」と呼ばれます。

陽子と中性子は総称して核子と呼ばれ、これらは原子核の中に稠密に詰まっています。原子核の半径は約10⁻¹⁵メートルであり、原子全体の半径が約10⁻¹⁰メートルであることに比べると、原子核は非常に小さいです。原子核は、物質に比べて非常に密度が高く、1立方センチメートルあたり平均1.8×10¹⁴グラムです。たとえば、水の密度は1立方センチメートルあたり1グラムであり、既知の最も密度の高い元素の1つであるイリジウムの密度は22.6g/cm³です。もし地球の密度が平均的な核の密度と同じだとすると、地球の半径は約200メートルだけということになってしまうでしょう(地球の実際の半径は約6.4×10⁶メートルで、その3万倍です)。例題21.1は、自然界の中で核密度がどれほど大きなものであるかを示しています。


例題21.1 中性子星の密度

中性子星は、非常に重い星の核が重力崩壊を起こし、超新星において星の外層が爆発してできた星です。中性子星は、ほぼ完全に中性子で構成されており、既知の宇宙で最も密度の高い星であり、その密度は原子核の平均密度に匹敵します。遠い銀河にある中性子星の質量は2.4太陽質量(1太陽質量 = M = 太陽の質量 = 1.99×10³⁰kg)であり、直径は26kmです。
(a)この中性子星の密度は何ですか?
(b)この中性子星の密度は、直径約15fm(1fm = 10⁻¹⁵m)のウラン原子核の密度と比べてどうでしょうか?

解法

私たちは、中性子星もU-235の核も球体として扱うことができます。すると、両方の密度は以下により与えられます:

\[ d =\frac{m}{V}\ そして\ V =\frac{4}{3} πr^3 \]

(a)この中性子星の半径は

\[ {\rm \frac{1}{2}× 26\ km =\frac{1}{2}× 2.6 × 10^4\ m = 1.3 × 10^4\ m} \]

よって、中性子性の密度は:

\[ d =\frac{m}{V}=\frac{m}{\frac{4}{3} πr^3}=\frac{\rm 2.4 (1.99 × 10^{30}\ kg)}{\rm \frac{4}{3} π(1.3 × 10^4\ m)^3}= \rm 5.2 × 10^{17}\ kg/m^3\\ \]

(b)U-235の原子核の半径は

\[ {\rm \frac{1}{2}×15 × 10^{−15}\ m = 7.5 × 10^{−15}\ m}\\ \]

よって、U-235の原子核の密度は:

\[ d =\frac{m}{V}=\frac{m}{\frac{4}{3} πr^3}=\frac{\rm 235\ amu \left(\frac{1.66 × 10^{-27}\ kg}{1\ amu}\right)}{\rm \frac{4}{3} π(7.5 × 10^{-15}\ m)^3}= \rm 2.2 × 10^{17}\ kg/m^3\\ \]

これらの値はかなり似ています(同じ桁数です)が、中性子星はU-235の原子核の2倍以上の密度を持っています。

学習内容の確認

質量が1.97太陽質量、直径が13kmの中性子星の密度を求め、直径1.75fm(1fm=1×10⁻¹⁵m)の水素原子核の密度と比較してください。

解答:中性子星の密度は3.4×10¹⁸kg/m³です。水素原子核の密度は6.0×10¹⁷kg/m³です。中性子星の密度は水素原子核の5.7倍です。


原子核の非常に小さな体積の中で正に帯電した陽子をまとめて保持するには、非常に強い引力が必要です。なぜなら、正に帯電した陽子は、このような短い距離では互いに強く反発するからです。この原子核をまとめて保持する引力は、強い核力です。(強い核力は、存在が知られている4つの基本的な力のうちの1つです。その他のものは、電磁力、重力、弱い核力です。) この力は、陽子の間、中性子の間、そして陽子と中性子の間に作用します。これは、正に帯電した原子核の周りに負に帯電した電子を保持する静電力(反対電荷間の引力)とは大きく異なります。原子核内の10⁻¹⁵メートル未満の距離では、強い核力は陽子間の静電的反発力よりもはるかに強いです。原子核の外のそれよりも大きな距離では、この力は実質的に存在しません。


学習へのリンク

4つの基本的な力のさらなる情報については、このウェブサイト(http://openstaxcollege.org/l/16fourfund)を見てください。


核の結合エネルギー

強い核力に伴うエネルギーの単純な例として、2つの陽子、2つの中性子、および2つの電子からなるヘリウム原子を考えてみましょう。これら6つの素粒子の合計質量は、以下のように計算できます:

\[ \begin{array}{ll} {\rm (2 × 1.0073\ amu) + (2 × 1.0087\ amu) + (2 × 0.00055\ amu) = 4.0331\ amu}\\ \hspace{35pt} 陽子 \hspace{65pt} 中性子 \hspace{65pt} 電子 \end{array} \]

しかしながら、質量分析の測定では \(\rm _2^4He\)原子の質量は4.0026 amuであることが判明しています。これは、構成要素の6つの素粒子の質量を合わせた値よりも小さいです。この計算された質量と実験的に測定された質量との差は、原子の質量欠損として知られています。ヘリウムの場合、その質量欠損は、4.0331 amu - 4.0026 amu = 0.0305 amuの質量の「損失」を意味します。陽子、中性子、および電子から原子を形成することに伴う質量の損失は、その質量が原子の形成の際に発生するエネルギーへと変換されることによるものです。核の結合エネルギーとは、原子の核子が結合したときに生じるエネルギーのことです。これは、原子核を、構成要素の陽子と中性子に分解するのに必要なエネルギーでもあります。化学結合エネルギーと比べると、核の結合エネルギーは非常に大きいです(私たちは、この節で学んでいきます)。その結果、核反応に伴うエネルギー変化は化学反応に伴うものと比べて非常に大きくなります。

質量とエネルギーとの間の変換は、アルバート・アインシュタインによって述べられたように、質量-エネルギーの等価式によって最も明確に表されます:

\[ E = mc^2 \]

ここで、Eはエネルギー、mは変換される物質の質量、cは真空中での光の速度です。この式を使って、物質がエネルギーに変換されたときに生じるエネルギー量を求めることができます。この質量-エネルギーの等価式を使用すると、例題21.2で示されているように、原子核における核の結合エネルギーを、その質量欠損から計算することができます。核の結合エネルギーについては、電子ボルト(eV)をはじめとするさまざまな単位が一般的に用いられています。1eVは、1つの電子の電荷が1ボルトの電位差を横切って移動するのに必要なエネルギー量に相当し、1 eV = 1.602 × 10⁻¹⁹Jとなります。


例題21.2 核の結合エネルギーの計算

\(\rm _2^4He\)という核種についての結合エネルギーを、以下の単位で決定してください:
(a)原子核1モルあたりのジュール
(b)原子核1つあたりのジュール
(c)原子核1つあたりのMeV

解法

\(\rm _2^4He\)原子核についての質量欠損は、先に示したように0.0305 amuです。質量-エネルギーの等価式を使用して、核種あたりの結合エネルギーをジュールで決定します。要求されているエネルギー単位に対応するために、質量欠損はキログラムで表さなければなりません(1 J = 1 kg m² /s²であることを思い出してください)。

(a)まず、質量欠損を g/mol で表します。これは、原子質量(amu)とモル質量(g/mol、これはamuとモル単位の定義に由来します)の数値的な等価性を考えれば簡単にできます(必要に応じて、原子、分子、およびイオンの章の以前の議論を参照してください)。したがって、質量欠損は0.0305 g/molとなります。質量-エネルギーの式の他の項の単位に対応するために、質量はkgで表現しなければなりません。なぜなら、1 J = 1 kg m²/s²だからです。グラムをキログラムに変換すると、3.05 × 10⁻⁵kg/molという質量欠損が得られます。この量を質量-エネルギーの等価式に代入すると、以下のようになります:

\[ \begin{eqnarray} E = mc^2 &=&\frac{\rm 3.05 × 10^{−5}\ kg}{\rm mol}×\left(\frac{\rm 2.998 × 10^8\ m}{\rm s}\right)^2\\ &=& \rm 2.74 × 10^{12}\ kg\ m^2\ s^{−2}\ mol^{−1}\\ &=& \rm 2.74 × 10^{12}\ J\ mol^{−1} = 2.74\ TJ\ mol^{−1}\\ \end{eqnarray} \]

この途方もないエネルギー量は、ごく少量の物質(約30mg、およそ典型的な水滴の質量に相当)の変換に伴うものであることに注意してください。

(b)単一の原子核についての結合エネルギーは、アボガドロ数を用いて1モルの結合エネルギーから計算されます:

\[ E = {\rm 2.74 × 10^{12}\ J\ mol^{−1} ×\frac{1\ mol}{6.022 × 10^{23}個の核}= 4.55 × 10^{−12}\ J = 4.55\ pJ}\\ \]

(c)1 eV = 1.602 × 10⁻¹⁹Jであることを思い出してください。設問(b)で計算された結合エネルギーを用いると:

\[ E = {\rm 4.55 × 10^{−12}\ J×\frac{1\ eV}{1.602 × 10^{−19}\ J}= 2.84 × 10^7\ eV = 28.4\ MeV}\\ \]

学習内容の確認

核種\(\rm _9^{19}F\)(原子質量:18.9984 amu)の結合エネルギーは、原子核1つあたり何MeVですか?

解答:148.4 MeV


結合を切断したり形成したりすることに伴うエネルギーの変化は、原子核を壊したり形成したりすることに伴うエネルギーの変化に比べて非常に小さいため、すべての通常の化学反応では質量の変化は実質的に検出できません。熱化学の章で述べたように、最もエネルギーの高い化学反応は数千kJ/molのオーダーのエンタルピーを示しますが、これはナノグラム(10⁻⁹g)の範囲の質量差に相当します。一方、核の結合エネルギーは通常では数十億kJ/molのオーダーであり、これはミリグラム(10⁻³g)の範囲の質量差に相当します。

核の安定性

原子核は、外部からエネルギーを加えなければ別の形に変換できないような場合には、安定しています。存在する数千個の核種のうち、約250の核種が安定です。安定な原子核の中性子数と陽子数をプロットしてみると、安定な同位体は狭い帯の中に収まっていることがわかります。この領域は安定性の帯(安定性のベルト、領域、谷とも呼ばれます)として知られています。図21.2の直線は、陽子と中性子の比率(n:p比率)が1:1の原子核を表しています。一般に、より軽い安定な原子核は、同じ数の陽子と中性子を持つことに注目してください。たとえば、窒素-14は7個の陽子と7個の中性子を持っています。しかしながら、より重い安定な原子核では、次第に陽子よりも中性子の数が多くなります。たとえば、鉄-56は30個の中性子と26個の陽子を持っており、n:p比率は1.15ですが、安定な核種の鉛-207は125個の中性子と82個の陽子を持っており、n:p比率は1.52になります。これは、大きな原子核ほど陽子-陽子の反発力が大きく、これらの静電反発力を克服して原子核をまとめて保持するための強い力を補償するために、より多くの中性子を必要とするからです。

図21.2 | このプロットは、存在することが知られている核種と安定な核種を示しています。安定な核種は青色で、不安定な核種は緑色で示されています。なお、原子番号が83よりも大きな元素の同位体はすべて不安定であることに注意してください。実線は、n = Zとなる線です。

安定性の帯の左側や右側にある原子核は不安定であり、放射能を示します。それらの原子核は、安定性の帯にあるか、あるいは安定性の帯により近い他の原子核へと自発的に変化(崩壊)します。このような核崩壊反応により、ある不安定な同位体(または放射性同位体)が別のより安定な同位体へと変化します。私たちは、この放射性崩壊の性質と生成物について、この章の後続の節で議論していきます。

原子核の安定性とその構造との間の関係性について、いくつかの観察を行うことができます。偶数個の陽子、中性子、またはその両方を持つ原子核は安定である可能性が高いです(表21.1参照)。魔法数(マジックナンバー)として知られる特定の数の核子を持つ原子核は、核崩壊に対して安定です。それらの数(2、8、20、28、50、82、および126)の陽子や中性子は、核内で完全な殻を構成します。これは、貴ガスで観測される安定な電子殻と考え方が似ています。\(\rm _2^4He\)\(\rm _8^{16} O\)\(\rm _{20}^{40} Ca\)\(\rm _{82}^{208} Pb\)のように、陽子と中性子の両方が魔法数である原子核は「ダブルマジック」と呼ばれ、特に安定です。このような核の安定性の傾向は、この教科書の前のほうで電子状態の記述に用いられたものと類似した、核エネルギー状態の量子力学的モデルを考慮することによって理屈づけることができるかもしれません。このモデルの詳細については、この章の範囲を超えています。

表21.1

原子核の相対的な安定性は、核子1個あたりの結合エネルギー(原子核の全体の結合エネルギーを、原子核の中の核子の数で割ったもの)と相関があります。たとえば、私たちは例題21.2で、\(\rm _2^4He\)の原子核の結合エネルギーは28.4 MeVであることを見ました。したがって、\(\rm _2^4He\)の原子核の核子1個あたりの結合エネルギーは、以下のようになります:

\[ {\rm \frac{28.4\ MeV}{4個の核子}= 7.10\ MeV/核子}\\ \]

例題21.3では、図21.3に示された曲線上の核種について、核子1個あたりの結合エネルギーを計算する方法を学びます。

図21.3 | 核子1個あたりの結合エネルギーは、質量数が約56の核種で最も大きいです。


例題21.3 核子1個あたりの結合エネルギーの計算

鉄の核種\(\rm _{26}^{56} Fe\)は、結合エネルギーの曲線(図21.3)の頂点付近に位置しており、最も安定な核種のうちの1つです。核種\(\rm _{26}^{56} Fe\)(原子質量 55.9349 amu)の核子1個あたりの結合エネルギーは(MeVで)何ですか?

解法

例題21.2と同様に、私たちはまず、この核種の質量欠損を求めます。これは、26個の陽子、30個の中性子、および26個の電子の質量と、観測された\(\rm _{26}^{56} Fe\)原子の質量との差です:

\[ \begin{eqnarray} 質量欠損 &=& \rm [(26 × 1.0073\ amu) + (30 ×1.0087\ amu) + (26 × 0.00055\ amu)] − 55.9349\ amu\\ &=& \rm 56.4651\ amu − 55.9349\ amu\\ &=& \rm 0.5302\ amu\\ \end{eqnarray} \]

私たちは次に、質量-エネルギーの等価式を用いて、質量欠損から1つの原子核についての結合エネルギーを計算します:

\[ \begin{eqnarray} E = mc^2 &=& \rm 0.5302\ amu×\frac{1.6605 × 10^{−27}\ kg}{1\ amu}×(2.998 × 10^8\ m/s)^2\\ &=& \rm 7.913 × 10^{−11}\ kg⋅m/s^2\\ &=& \rm 7.913 × 10^{−11}\ J\\ \end{eqnarray} \]

そして私たちは、原子核あたりのジュールで表された結合エネルギーを、核種あたりのMeVという単位に換算します:

\[ \rm 7.913 × 10^{−11}\ J×\frac{1\ MeV}{1.602 × 10^{−13}\ J}= 493.9\ MeV\\ \]

最後に、私たちは、全体の核の結合エネルギーを原子の中の核子の数で割ることにより、核子1個あたりの結合エネルギーを求めます:

\[ \rm 核子1個あたりの結合エネルギー =\frac{493.9\ MeV}{56}= 8.820\ MeV/核子\\ \]

これは、\(\rm _2^4He\)の核子1個あたりの結合エネルギーよりも25%近く大きいことに注意してください。

(また、これは例題21.1と同じプロセスですが、全体の核の結合エネルギーを核子の数で割るという追加のステップがあることにも注意してください。)

学習内容の確認

\(\rm _9^{19}F\)(原子質量18.9984 amu)の核子1個あたりの結合エネルギーは何ですか?

解答:7.810 MeV/核子


21.2 核反応式

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•核反応に関与する一般的な粒子とエネルギーを特定する
•核反応式を書き、バランスを取る

原子核が変化して原子番号、質量数、またはエネルギー状態が変化することを核反応といいます。核反応を記述するために、私たちは、反応に関与する核種、その質量数や原子番号、そして反応に関与する他の粒子を特定する反応式を用います。

核反応における粒子の種類

核反応には多くの実体が関与することがあります。最も一般的なものは、図21.4に示されるように、陽子、中性子、アルファ粒子、ベータ粒子、陽電子、およびガンマ線です。陽子(\(\rm _1^1 p\)、記号\(\rm _1^1H\)で表されることもあります)と中性子(\(\rm _0^1 n\))は原子核の構成要素であり、以前に記述しました。アルファ粒子(\(\rm _2^4He\)、記号\(\rm _2^4 α\)で表されることもあります)は、高エネルギーのヘリウム原子核です。ベータ粒子(\(\rm _{-1}^0 β\)、記号\(\rm _{-1}^0 e\)で表されることもあります)は、高エネルギーの電子です。ガンマ線は、非常に高エネルギーの電磁放射の光子です。陽電子(\(\rm _{+1}^0 e\)、記号\(\rm _{+1}^0 β\)で表されることもあります)は、正に帯電した電子(「反電子」)です。下付き文字と上付き文字は核反応式のバランスを取るために必要ですが、その他の状況では通常は任意です。たとえば、アルファ粒子は+2の電荷と4の質量数を持つヘリウム原子核(He)なので、\(\rm _2^4He\)という記号で表されます。これはうまく働きます。なぜなら、概して、イオンの電荷は核反応式のバランスを取る上で重要ではないからです。

図21.4 | 核反応には多くの種が存在しますが、この表はそれらの中で最も一般的な種の名称、記号、表現、および説明をまとめたものです。

陽電子と電子は、反対の電荷を持っていることを除いては、全く同じであることに注意してください。それらは反物質の最も一般的な例です。反物質とは、通常の物質と同じ質量を持つものの、別の1つの性質(たとえば、電荷)について通常の物質とは反対の状態を持つ粒子のことです。反物質が通常の物質と出会うと、両者は消滅し、それらの質量は前節で見た質量-エネルギーの等価式E = mc²にしたがって、ガンマ線(γ)の形でエネルギーに変換されます(ガンマ線とともに、その他のもっと小さな素粒子も生じますが、それは本章の範囲を超えています)。たとえば、陽電子と電子が衝突すると、両者は消滅し、2つのガンマ線光子が生成されます:

\[ {\rm _{−1}^0e + _{+1}^0e ⟶ γ + γ}\\ \]

光と電磁放射について議論した章で見たように、ガンマ線は短波長の高エネルギー電磁放射を構成しており、よく知られたX線(波動-粒子の二重性の意味で粒子として振る舞うことができます)よりも、(はるかに)高エネルギーです。ガンマ線は、原子核が高エネルギー状態から低エネルギー状態へと遷移するときに生成される高エネルギー電磁放射の一種であり、それは電子が高エネルギーから低エネルギーへと遷移することによって光子が生成されるのと似ています。核エネルギーの殻間のエネルギー差が非常に大きいため、原子核から発せられるガンマ線は、典型的には、電子の遷移から発せられる電磁放射の数百万倍の大きさのエネルギーを持っています。

核反応のバランスを取る

バランスの取れた化学反応式は、化学反応の間には、結合が切断・形成され、原子が再配列されるが、それぞれの元素の原子の総数は保存され、変化しないという事実を反映しています。バランスの取れた核反応式は、核反応の間に、原子ではなく核子(原子の核の中の素粒子)の再配列があることを示しています。核反応も保存則に従っており、それらは2つの方法でバランスが取られます:

  1. 反応物の質量数の和は、生成物の質量数の和に等しいです。

  2. 反応物の電荷の和は、生成物の電荷の和に等しいです。

核反応中の粒子のうち、1つを除いたすべての粒子の原子番号と質量数がわかれば、反応のバランスを取ることによって、その1つの粒子を特定することができます。たとえば、\(\rm _7^{14} N\)\(\rm _2^4He\)の核反応において、陽子\(\rm _1^1H\)が2つの生成物のうちの1つであることがわかれば、\(\rm _8^{17} O\)がもう1つの生成物であると決定できます。例題21.4は、核反応のバランスを取ることによって核種を特定する方法を示しています。


例題21.4 核反応の反応式のバランスを取る

α粒子とマグネシウム-25(\(\rm _{12}^{25} Mg\))が反応すると、陽子と別の元素の核種が生成されます。生成された新しい核種を特定してください。

解法

核反応は以下のように書くことができます。

\[ {\rm _{12}^{25} Mg +_2^4 He ⟶_1^1 H +_Z^A X}\\ \]

ここで、Aは新しい核種Xの質量数、Zはその原子番号です。反応物の質量数の和は、生成物の質量数の和と等しくなければならないため:

\[ {\rm 25 + 4 = A + 1\ すなわち\ A = 28}\\ \]

同様に、電荷はバランスを取らなければならないので:

\[ {\rm 12 + 2 = Z + 1\ すなわち\ Z = 13}\\ \]

周期表を確認します:核電荷 = +13の元素はアルミニウムです。したがって、生成物は\(\rm _{13}^{28} Al\)です。

学習内容の確認

核種\(\rm _{53}^{125} I\)は電子と結合して新しい原子核を生成し、他の質量を持つ粒子は生成しません。この反応についての反応式は何ですか?

解答:

\[ {\rm _{53}^{125} I +_{−1}^0 e ⟶_{52}^{125} Te}\\ \]


以下に、核化学の歴史の中で重要な役割を果たしてきたいくつかの核反応の反応式を示します:

  • 自然界に存在する不安定元素のうちで初めて単離されたポロニウムは、1898年にポーランドの科学者マリー・キュリーとその夫ピエールによって発見されました。ポロニウムは崩壊してα粒子を放出します:

\[ {\rm _{84}^{212} Po ⟶ _{82}^{208} Pb + _2^4 He}\\ \]

  • 人工的な方法によって生成された最初の核種は、酸素の同位体\(\rm ^{17} O\)でした。これは、1919年にアーネスト・ラザフォードが窒素原子にα粒子を衝突させて作りました:

\[ {\rm _{7}^{14} N + _2^4 He ⟶ _8^{17} O + _1^1 H}\\ \]

  • ジェームズ・チャドウィックは1932年に、\(\rm ^9 Be\)\(\rm ^4 He\)の核反応によって\(\rm ^{12} C\)とともに生成される未知の中性粒子として中性子を発見しました:

\[ {\rm _4^9 Be + _2^4 He ⟶ _6^{12} C + _0^1 n}\\ \]

  • 地球上に自然には存在しないもので初めて生成された元素であるテクネチウムは、1937年にエミリオ・セグレとカルロ・ペリエによって、モリブデンにデューテロン(重水素、\(\rm _1^2 H\))を衝突させて作られました。

\[ {\rm _1^2 H + _{42}^{97} Mo ⟶ 2\ _0^1 n + _{43}^{97} Tc}\\ \]

  • 最初の制御された核連鎖反応は、1942年にシカゴ大学の原子炉で行われました。関与した多くの反応のうちの1つは:

\[ {\rm _{92}^{235} U + _0^1 n ⟶ _{35}^{87} Br + _{57}^{146} La + 3\ _0^1 n}\\ \]

21.3 放射性崩壊

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•放射性崩壊の一般的な様式を認識する
•核崩壊反応に関わる一般的な粒子とエネルギーを特定する
•核崩壊の反応式を書いて、バランスを取る
•半減期を含む崩壊過程の反応速度論的なパラメータを計算する
•一般的な放射性年代測定技術を記述する

ベクレルによる、やや思いがけないような放射能の発見の後、多くの著名な科学者がこの新しい興味をそそる現象を研究し始めました。その中には、「放射能」という言葉を最初に作り出したマリー・キュリー(ノーベル賞を受賞した最初の女性であり、化学と物理学という異なる科学分野で2つのノーベル賞を受賞した唯一の人物)や、放射線の最も一般的な3つの種類を研究し、名前を付けたアーネスト・ラザフォード(金箔実験で有名)が含まれています。20世紀初頭の間には、多くの放射性物質が発見され、放射線の性質が研究・定量化され、放射線と核崩壊についての確固とした理解が発展しました。

不安定な核種が自発的に別の核種に変化することを放射性崩壊といいます。不安定な核種は親核種と呼ばれ、崩壊の結果としてできた核種は娘核種として知られています。娘核種は安定している場合もあれば、それ自体が崩壊する場合もあります。放射性崩壊の際に発生する放射線は、娘核種の方が親核種よりも安定性の帯に近くなるようにするものであるため、安定性の帯に対する核種の位置は、それがどのような崩壊を起こすかの目安になります(図21.5)。

図21.5 | ウラン-238(親核種)の原子核がα崩壊してトリウム-234(娘核種)を形成します。アルファ粒子はウラン-238の原子核から2つの陽子(緑色)と2つの中性子(灰色)を取り除いています。


学習へのリンク

原子核の放射性崩壊は肉眼では見えないほど小さいですが、私たちは、霧箱と呼ばれる環境の中での放射性崩壊を間接的に見ることができます。こちら(http://openstaxcollege.org/l/16cloudchamb)をクリックして霧箱について学び、Jefferson Labによる興味深い霧箱デモンストレーションを見てください。


放射性崩壊の種類

アーネスト・ラザフォードは、磁界や電界と放射線との相互作用に関する実験を行った結果(図21.6)、放射線の1つ目の種類は正に帯電した比較的質量の大きいα粒子からなり、2つ目の種類は負に帯電したあまり質量の大きくないβ粒子からなり、そして、3つ目の種類は帯電していない電磁波であるγ線であることを突き止めました。私たちは現在、α粒子は高エネルギーのヘリウム原子核であり、β粒子は高エネルギーの電子であり、γ線は高エネルギーの電磁放射を構成していることがわかっています。私たちは、放射性崩壊のさまざまな種類を、発生する放射線によって分類します。

図21.6 | アルファ粒子は、負のプレートに引き寄せられて比較的小さな量だけ向きが変わっているため、正に帯電しており、比較的質量が重いです。ベータ粒子は、正のプレートに引き寄せられて比較的大きな量で向きが変わっているため、負に帯電しており、比較的質量が軽いです。ガンマ線は、電場の影響を受けていないため、帯電していません。

アルファ(α)崩壊とは、原子核からα粒子が放出されることです。たとえば、ポロニウム-210はα崩壊を起こします:

\[ {\rm _{84}^{210} Po ⟶ _2^4 He + _{82}^{206} Pb\ または\ _{84}^{210} Po ⟶ _2^4 α + _{82}^{206} Pb}\\ \]

α崩壊は主として重い原子核(A > 200、Z > 83)で起こります。α粒子がなくなると、娘核種は親核種よりも質量数が4単位小さく、原子番号が2単位小さくなるので、娘核種は親核種よりも大きなn:p比率を有することになります。α崩壊を起こす親核種が安定性の帯(図21.2参照)より下にあった場合、娘核種は帯により近づいた位置にあることになります。

ベータ(β)崩壊とは、原子核から電子が放出されることです。ヨウ素-131はβ崩壊を起こす核種の一例です:

\[ {\rm _{53}^{131} I ⟶ _{-1}^0 e + _{54}^{131} Xe\ または\ _{53}^{131} I ⟶ _{-1}^0 β + _{54}^{131} Xe}\\ \]

β崩壊は、1つの中性子が1つの陽子と1つのβ粒子に変換されたものとして考えることができ、n:p比率が大きい核種で観測されます。放出されるβ粒子(電子)は原子核から来たものであり、原子核を取り囲む電子の1つではありません。このような原子核は安定性の帯よりも上にあります。電子が放出されても核種の質量数は変わりませんが、その陽子の数は増え、中性子の数は減ります。その結果、n:p比率が減少し、娘核種は親核種よりも安定性の帯に近くなります。

ガンマ放出(γ放出)は、ある核種が励起状態で生成された後、γ線(高エネルギー電磁放射の量子)を放出して基底状態に崩壊するときに観測されます。励起状態にある原子核の存在は、しばしばアスタリスク(*)で示されます。コバルト-60はγ線を放出し、がん治療など多くの用途に利用されています:

\[ {\rm _{27}^{60} Co^* ⟶ _0^0 γ + _{27}^{60} Co}\\ \]

γ放出に他の崩壊様式のいずれかが伴わない限り、γ線が放出されても、質量数や原子番号に変化はありません。

陽電子放出(β⁺崩壊)とは、原子核から陽電子が放出されることです。酸素-15は陽電子放出を起こす核種の一例です:

\[ {\rm _8^{15} O ⟶ _{+1}^0 e + _7^{15} N\ または\ _8^{15} O ⟶ _{+1}^0 β + _7^{15} N}\\ \]

陽電子放出は、n:p比率が小さな核種で観測されます。このような核種は安定性の帯よりも下にあります。陽電子崩壊は、陽電子が放出されて陽子が中性子に変わることです。n:p比率は上昇し、娘核種は親核種よりも安定性の帯に近くなります。

電子捕獲は、原子の内部電子の1つがその原子の原子核に捕獲されることで起こります。たとえば、カリウム-40は電子捕獲を起こします:

\[ {\rm _{19}^{40} K + _{-1}^0 e ⟶ _{18}^{40} Ar}\\ \]

電子捕獲は、内殻電子が陽子と結合して中性子へと変換されるときに起こります。内殻電子が失われると1つの空きができ、その空きを外殻電子のうちの1つが満たすことになります。外殻電子が空きに落下する際、それはエネルギーを放出します。ほとんどの場合、放出されるエネルギーはX線の形をしています。陽電子放出と同様に、電子捕獲は安定性の帯よりも下にある「陽子が多い」原子核で起こります。電子捕獲が原子核に与える影響は、陽電子放出の場合と同じものです:原子番号は1つ減りますが、質量数は変わりません。これによりn:p比率が増加し、娘核種は親核種よりも安定性の帯に近くなります。電子捕獲と陽電子放出のどちらが起こるかを予測することは困難です。どちらが選択されるかは主に反応速度論的な要因によるもので、より小さな活性化エネルギーを必要とする方が発生する可能性が高くなります。

図21.7は、これらの崩壊の種類とその反応式、原子番号と質量数の変化をまとめたものです。

図21.7 | この表は、さまざまなタイプの崩壊の種類、核反応式、表現、質量数や原子番号の変化をまとめたものです。


日常生活の中の化学

PETスキャン

陽電子放出断層撮影法(PET)スキャンは、放射線を利用して、患者の体の一部がどのように機能しているかを明らかにすることによって、健康状態の診断と追跡や、医療処置の監視を行うものです(図21.8)。PETスキャンを実行するには、サイクロトロンの中で陽電子放出性の放射性同位体を生成し、検査対象となる体の部位で使用される物質に付着させます。この「タグ付けされた」化合物(または放射性トレーサー)を患者に投与します(点滴を介して注入またはガスとして吸入)。それが組織でどのように利用されるかによって、その器官や体の他の部位がどのように機能しているかが明らかになります。

図21.8 | PETスキャナー(a)は、放射線を使用して患者の体の一部がどのように機能しているかについての画像を提供してくれます。それにより作成されたスキャンは、健康な脳の画像化(b)や、アルツハイマー病などの病状の診断(c)に利用できます。(credit a: modification of work by Jens Maus)

たとえば、F-18は、\(\rm ^{18} O\)に陽子を衝突させることによって生成され(\(\rm _8^{18} O + _1^1 p ⟶ _9^{18} F + _0^1 n\))、フルデオキシグルコース(FDG)と呼ばれるグルコースアナログ[グルコース類似体]に組み込まれます。FDGが体内で使用される様子は、重要な診断情報を提供してくれます。たとえば、がんは正常な組織とは異なるグルコースの使い方をするため、FDGはがんを明らかにすることができます。\(\rm ^{18} F\)は陽電子を放出し、この陽電子は近くの電子と相互作用してガンマ放射のバーストを発生させます。このエネルギーはスキャナーによって検出され、患者の身体のその部分がどのように機能しているかを示す詳細な3次元カラー画像に変換されます。ガンマ放射のレベルが異なると異なった明るさや色の画像が生成され、放射線技師はそれらの画像を解釈して何が起こっているかを明らかにすることができます。PETスキャンは、心臓障害や心臓病の検出、アルツハイマー病の診断補助、てんかんの影響を受けている脳の部分の表示、がんの発見(がんの病期や広がり具合、治療の有効性など)ができます。磁気共鳴画像法やレントゲン(これらは、あるものがどのように見えるかを示すだけです)とは異なり、PETスキャンの大きな利点は、あるものがどのように機能しているかを示すことです。現在では、PETスキャンは通常、CT(コンピュータ断層撮影法)スキャンと一緒に行われています。


放射性崩壊系列

自然界に存在する最も重い元素の放射性同位体は、一連の分裂の鎖の中を順番に下っていきます。一連の鎖の中のすべての種が放射性ファミリー(または放射性崩壊系列)を構成しています。これらの系列のうち3つは、周期表の中の自然にある放射性元素のほとんどを含んでいます。それらは、ウラン系列、アクチニド系列、およびトリウム系列です。ネプツニウム系列は第4の系列であり、関連する種の半減期が短いため、地球上ではもはや重要なものではなくなっています。それぞれの系列は、長い半減期を持つ親核種(最初のメンバー)と、最後には安定な最終生成物(すなわち安定性の帯の中にある核種)へとつながっている一連の娘核種とによって特徴付けられます(図21.9)。3つの系列すべてにおいて、最終生成物は鉛の安定な同位体です。ネプツニウム系列は、以前はビスマス-209で終わると考えられていましたが、タリウム-205で終わるものです。

図21.9 | ウラン-238は、14の別個の段階からなる放射性崩壊系列を経た後、安定な鉛-206を生成します。この系列は8回のα崩壊と6回のβ崩壊で構成されています。

放射性半減期

放射性崩壊は、1次の反応速度論に従います。1次反応については、すでに反応速度論の章で詳しく説明したので、私たちはここではその概念を核崩壊反応に適用してみます。それぞれの放射性核種は、特徴的で一定の半減期(t1/2)を有しています。半減期とは、試料中の原子の半分が崩壊するのに必要な時間のことです。同位体の半減期を調べることで、有用な同位体の試料をどれくらいの期間利用できるかや、望ましくない同位体や危険な同位体の試料が問題とならない程度に低い放射線レベルに崩壊するまでにはどれくらいの期間保存しなければならないか、を判断することができます。

たとえば、がんの治療に使用されるガンマ線を放出する同位体であるコバルト-60は、半減期が5.27年です(図21.10)。あるコバルト-60線源では、5.27年ごとに\(\rm _{27}^{60} Co\)の核の半分が崩壊するため、5.27年ごとに物質の量も放出される放射線の強度も半分になってしまいます。(ある物質については、その物質が発する放射線の強度は、その物質の崩壊速度と物質の量に正比例することに注意してください。)これは、1次の反応速度論に従う過程について予測される通りです。したがって、がん治療に使用されるコバルト-60線源は、効果を持続させるためには定期的に交換しなければなりません。

図21.10 | 半減期が 5.27 年のコバルト-60 の場合、5.27 年後(1 回の半減期)には 50%、10.54 年後(2回の半減期)には 25%、15.81 年後(3回の半減期)には 12.5%が残存しています。

核崩壊は1次の反応速度論に従うので、私たちは1次の化学反応で用いられる数学的関係を応用することができます。一般的には原子核の数Nを濃度の代わりとします。もし速度が1秒あたりの核崩壊で示されている場合には、それのことを放射性試料の放射能と呼びます。放射性崩壊の速度は:

\[ 崩壊速度 = λN\ (λ = 特定の放射性同位体の崩壊定数)\\ \]

崩壊定数λは、反応速度論の章で議論した速度定数と同じものです。この崩壊定数は半減期t1/2の観点から表すことができます:

\[ λ =\frac{\ln 2}{t_{1/2}}=\frac{0.693}{t_{1/2}}\ または\ t_{1/2} =\frac{\ln 2}{λ}=\frac{0.693}{λ}\\ \]

量Nと時間を関係付ける1次の反応式は以下のようになります:

\[ N_t = N_0 e^{−kt}\ または\ t = −\frac{1}{λ} \ln\left(\frac{N_t}{N_0}\right)\\ \]

ここで、N₀はその同位体の最初の原子核数またはモル数であり、Nₜは時刻tで残っている原子核数/モル数です。例題21.5では、これらの計算を応用して、特定の核種の放射性崩壊の速度を求めます。


例題21.5 放射性崩壊の速度

\(\rm _{27}^{60} Co\) は半減期 5.27 年で崩壊し、\(\rm _{28}^{60} Ni\) を生成します。
(a)コバルト-60の放射性崩壊の崩壊定数は何ですか?
(b)15年後に残る\(\rm _{27}^{60} Co\)同位体の試料の割合を計算してください。
(c)\(\rm _{27}^{60} Co\)の試料が、元の量の2.0%しか残らない程度に崩壊するまでには、どれだけの時間がかかりますか?

解法

(a)速度定数の値は以下のように与えられます:

\[ λ =\frac{\ln 2}{t_{1/2}} = \frac{0.693}{5.27\ 年}= 0.132\ 年^{−1}\\ \]

(b)時刻 t 後に残った \(\rm _{27}^{60} Co\) の割合は Nₜ/N₀で与えられます。この割合について解くために、1次の関係性Nₜ = N₀ e-λtを並べ替えると、以下のようになります:

\[ \frac{N_t}{N_0}= e^{−λt} = e^{−(0.132/年)(15.0×年)}= 0.138\\ \]

15.0 年後に残る \(\rm _{27}^{60} Co\) の割合は 0.138です。別の言い方をすれば、元々存在していた \(\rm _{27}^{60} Co\) の 13.8%が 15 年後に残っていることになります。

(c)\(\rm _{27}^{60} Co\) の元の量の 2.00%は 0.0200 × N₀に等しいです。これを1次の反応速度論についての時間の式に代入すると、以下が得られます:

\[ t = −\frac{1}{λ}\ln \left(\frac{N_t}{N_0}\right)= −\frac{1}{0.132\ 年^{−1}}\ln \left(\frac{0.0200 × N_0}{N_0}\right)= 29.6\ 年\\ \]

学習内容の確認

ラドン-222(\(\rm _{86}^{222} Rn\))の半減期は3.823日です。質量0.750gのラドン-222の試料が他の元素に崩壊して0.100gのラドン-222しか残らなくなるまでには、どれだけの時間がかかりますか?

解答:11.1日


それぞれの核種は、核子の特定の数、反発力と引力の特定のバランス、およびそれ自体での安定性の程度を持っているため、放射性核種の半減期は大きく異なります。たとえば:\(\rm _{83}^{209} Bi\)の半減期は1.9×10¹⁹年、\(\rm _{94}^{239} Ra\)の半減期は2万4000年、\(\rm _{86}^{222} Rn\)の半減期は3.82日、元素-111(レントゲニウムRg)の半減期は1.5×10⁻³秒です。医学上重要ないくつかの放射性同位体の半減期が表21.2に示されており、その他の放射性同位体の半減期が付録Mに記載されています。

表21.2

放射性年代測定

いくつかの放射性同位体は、考古学的遺物、かつての生物、または地質学的形成物などの物体の起源を「年代測定」する目的にとって有用であるような半減期やその他の性質を持っています。このプロセスは放射性年代測定であり、地球の地質学的歴史、生命の進化、人類の文明の歴史に関する多くの画期的な科学的発見に貢献してきました。私たちはここでは、放射性年代測定の最も一般的なタイプのいくつかと、それぞれのタイプにおいて特定の同位体がどのように機能しているかについて探求していきます。

炭素-14を用いた放射性年代測定

炭素-14の放射能は、かつて生物の一部であった物体を年代測定する方法を提供してくれます。この放射性年代測定法は、放射性炭素年代測定法や炭素-14年代測定法とも呼ばれ、約3万年前までの炭素含有物質の年代を正確に測定することができ、最大で約5万年前までの年代を満足のいく程度に正確に測定することができます。

自然界に存在する炭素は、3つの同位体から構成されています:それは、地球上の炭素の約99%を占める\(\rm _6^{12} C\)、全体の約1%を占める\(\rm _6^{13} C\)、そして微量の\(\rm _6^{14}C\)です。炭素-14は、宇宙の宇宙線からの中性子と窒素原子との反応により上層大気で生成されます:

\[ {\rm _7^{14} N + _0^1 n ⟶ _6^{14} C + _1^1 H}\\ \]

炭素のすべての同位体は酸素と反応してCO₂分子を生成します。\(\rm _6^{14} CO_2\)\(\rm _6^{12} CO_2\)の比率は、大気中の \(\rm _6^{14} CO\)\(\rm _6^{12} CO\) の比率に依存します。大気中の\(\rm _6^{14} CO\)の自然な存在量は約1ppt(一兆分率:parts per trillion)です。最近まで、氷の中に閉じ込められた気体試料に見られるように、これは時間の経過とともに概して一定でした。\(\rm _6^{14} CO_2\)\(\rm _6^{12} CO_2\)の植物への取り込みは、光合成のプロセスの通常の一部です。これは、生きている植物に見られる \(\rm _6^{14}C:_6^{12} C\) の比率が、大気中の \(\rm _6^{14}C:_6^{12} C\) の比率と同じであることを意味します。しかし、植物が死んでしまうと、それはもはや光合成を通じて炭素を取り込めなくなってしまいます。\(\rm _6^{12} C\)は安定な同位体であり、放射性崩壊を起こさないので、植物の中での濃度は変わりません。しかしながら、炭素-14はβ放出によって半減期5730年で崩壊します:

\[ {\rm _6^{14} C ⟶ _7^{14} N + _{-1}^0 e}\\ \]

したがって、\(\rm _6^{14}C:_6^{12} C\) の比率は、植物が死んだ後には徐々に減少していきます。この比率が時間とともに減少することは、植物(または植物を食べた他の生物)が死んでから経過した時間についての尺度を与えてくれます。図21.11はこの過程を視覚的に表したものです。

図21.11 | 放射性の炭素-14は、安定な炭素-12とともに植物や動物に取り込まれ、その植物や動物が生きている間はその中に一定のレベルで存在しています。死後、C-14は崩壊し、死体の中のC-14:C-12の比率は減少します。この比率を生きている生物のC-14:C-12の比率と比較することで、その生物が何年前に生きていたか(そして死んだか)を決定することができます。

たとえば、\(\rm _6^{14}C\)の半減期が5730年であることから、もし考古学的な遺構で発見された木の遺物の\(\rm _6^{14}C:_6^{12} C\)の比率が、生きている木の比率の半分であるとするならば、それは木の遺物が5730年前のものであることを示しています。\(\rm _6^{14}C:_6^{12} C\)の比率は、質量分析計を使用することによって、非常に小さな試料(わずか1ミリグラム)から非常に正確に測定することができます。


学習へのリンク

放射性年代測定のシミュレーションを行うには、このウェブサイト(http://openstaxcollege.org/l/16phetradiom)を訪れてください。


例題21.6 放射性炭素年代測定

死海文書から採取された小さな紙片(以前は生きていた植物から作られたもの)は、炭素1gあたり1分間に10.8回の崩壊という放射能を有しています。当初のC-14の放射能が、13.6回の崩壊/分/Cのgであったとして、死海文書の年代を推定してください。

解法

崩壊速度(崩壊数/分/炭素のグラム)は、紙に残っている放射性C-14の量に比例するので、私たちは、関係性の式の中の量Nにこの速度を代入することができます:

\[ t = −\frac{1}{λ} \ln \left(\frac{N_t}{N_0}\right)⟶ t = −\frac{1}{λ} \ln \left(\frac{速度_t}{速度_0}\right)\\ \]

ここで、下付き文字0は紙を作るために植物が切断された時を、下付き文字tは現在の時を表します。

崩壊定数は、C-14の半減期5730年から決定することができます:

\[ λ = \frac{\ln 2}{t_{1/2}}= \frac{0.693}{5730\ 年}= 1.21 × 10^{−4}\ 年^{−1}\\ \]

代入して解くと、私たちは以下を得ます:

\[ t = −\frac{1}{λ} \ln \left(\frac{速度_t}{速度_0}\right)= −\frac{1}{1.21 × 10^{−4} 年^{−1}}\ln \left(\frac{\rm 10.8\ 崩壊/分/g\ C}{\rm 13.6\ 崩壊/分/g\ C}\right)= 1910\ 年\\ \]

したがって、死海文書は約 1900 年前のものです(図21.12)。

図21.12 | 炭素-14年代測定の結果、これらの死海文書の紙片は、紀元前100年から紀元50年の間に死んだ植物から作られた紙に書かれたか、複写されたものであることがわかりました。

学習内容の確認

最近、古代エジプトのファラオの墓に保存されていた植物を使って、ファラオの治世のより正確な年代が決定されました。ツタンカーメン王の墓から採取された種子や植物の試料は、C-14の崩壊速度が9.07崩壊/分/Cのgとなっています。ツタンカーメン王の治世は何年前に終わりましたか?

解答:約3350年前、つまり紀元前1340年頃


\(\rm _6^{14}C:_6^{12} C\)の比率には、いくつかの重要な、十分に裏付けのある変化が存在しています。この手法を単純に適用した際の正確さは、生きている植物の中の\(\rm _6^{14}C:_6^{12} C\) の比率が現在と以前の時代とで同じであるということに依拠しますが、これは常に妥当であるとは限りません。化石燃料(実質的にすべての\(\rm _6^{14}C\)が崩壊しています)の燃焼によって大気中の CO₂分子(主に \(\rm _6^{12} CO_2\))の蓄積量が増加しているため、大気中の \(\rm _6^{14}C:_6^{12} C\) の比率が変化している可能性があります。この人為的な大気中の \(\rm _6^{12} CO_2\)の増加は、\(\rm _6^{14}C:_6^{12} C\) の比率を低下させ、それは次に地球上の現在の生物の中での比率に影響を与えます。しかしながら、幸いなことに、私たちは年輪の調査による樹木年代測定などといった他のデータを利用して補正係数を計算することができます。この補正係数を利用して、正確な年代を決定することができます。一般的に、放射性年代測定は約10回分の半減期でしかうまくいかないです。そのため、炭素-14の年代測定の限界は約5万7000年です。

炭素-14以外の核種を用いた放射性年代測定

放射性年代測定では、より長い半減期を持つ他の放射性核種を用いて、さらに古い事象の年代を測定することもできます。たとえば、ウラン-238(一連の段階で崩壊して鉛206へとなります)は、岩石の年代(および地球上で最も古い岩石のおおよその年代)を立証するのに使うことができます。U-238の半減期は45億年なので、元のU-238の半分がPb-206に崩壊するまでには、それだけの時間がかかります。鉛の最も豊富な同位体であるPb-208が感知可能な量で含まれていない岩石の試料では、岩石が形成されたときには鉛は存在しなかったと仮定することができます。したがって私たちは、U-238:Pb-206の比率を測定・分析することによって、岩石の年代を決定することができます。これは、存在するすべての鉛-206がウラン-238の崩壊に由来するものであると仮定しています。もし、試料中の他の鉛同位体の存在によって示されるような追加の鉛-206が存在する場合は、調整する必要があります。カリウム-アルゴン年代測定も同様の方法を用いています。K-40は陽電子放出と電子捕獲によって崩壊し、半減期12.5億年でAr-40を形成します。岩石試料を砕いて、そこから放出されるAr-40気体の量を測定すると、Ar-40:K-40の比率を決定することに基づいてその岩石の年代を得ることができます。ルビジウム-ストロンチウム年代測定法(Rb-87は半減期488億年でSr-87に崩壊します)などといった他の方法も同じ原理で行われています。地球の年齢の下限を推定するために、科学者たちは、地殻内の最古の岩石や鉱物よりも地球が古いと仮定したうえで、さまざまな岩石や鉱物の年代を決定しています。2014年現在、既知の地球上で最も古い岩石はオーストラリアのジャックヒルズのジルコンであり、これはウラン-鉛年代測定によって約44億年前のものであることが分かっています。


例題21.7 岩石の放射性年代測定

ある火成岩には、9.58 × 10⁻⁵g の U-238 と 2.51 × 10⁻⁵g の Pb-206 が含まれており、それよりもはるかに少ない量の Pb-208 が含まれています。この岩石が形成されたおおよその時代を決定してください。

解法

岩石の試料には鉛の最も一般的な同位体であるPb-208がほとんど含まれていないので、私たちは、岩石中のPb-206はすべてU-238の放射性崩壊によって生成されたと問題なく推測することができます。この岩石が形成されたときには、現在も含まれているU-238のすべてに加えて、すでに放射性崩壊したU-238も含まれていました。

現在、この岩石に含まれているU-238の量は:

\[ {\rm 9.58 × 10^{−5}\ g\ U ×\left(\frac{1\ mol\ U}{238\ g\ U}\right) = 4.03 × 10^{−7}\ mol\ U}\\ \]

1モルのU-238が崩壊すると1モルのPb-206が生成されるため、岩石が形成されてから放射性崩壊を起こしたU-238の量は:

\[ {\rm 2.51 × 10^{−5}\ g\ Pb ×\left(\frac{1\ mol\ Pb}{206\ g\ Pb}\right) ×\left(\frac{1\ mol\ U}{1\ mol\ Pb}\right)= 1.22 × 10^{−7}\ mol\ U}\\ \]

したがって、もともと岩石中に存在していたU-238の総量は、以下のようになります:

\[ {\rm 4.03 × 10^{−7}\ mol + 1.22 × 10^{−7}\ mol = 5.25 × 10^{−7}\ mol\ U}\\ \]

岩石が形成されてからの経過時間は、以下によって与えられます:

\[ t = −\frac{1}{λ}\ln\left(\frac{N_t}{N_0}\right)\\ \]

ここで、N₀は元の U-238 の量を、Nₜは現在の U-238 の量を表しています。

U-238は4.5×10⁹年の半減期でPb-206に崩壊するので、崩壊定数λは以下のようになります:

\[ λ =\frac{\ln 2}{t_{1/2}}=\frac{0.693}{4.5 × 10^9\ 年}= 1.54 × 10^{−10} 年^{−1}\\ \]

代入して解くと、私たちは以下を得ます:

\[ t = −\frac{1}{1.54 × 10^{−10} 年^{−1}}\ln \left(\frac{\rm 4.03 × 10^{−7}\ mol\ U}{\rm 5.25 × 10^{−7}\ mol\ U}\right)= 1.7 × 10^9\ 年\\ \]

したがって、この岩石は約17億年前のものです。

学習内容の確認

ある岩石の試料には、6.14×10⁻⁴gのRb-87と、3.51×10⁻⁵gのSr-87が含まれています。この岩石の年代を計算してください。(Rb-87のβ崩壊半減期は4.7×10¹⁰年です)

解答:3.7 × 10⁹年


21.4 変換と核エネルギー

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•超ウラン核種の合成について記述する
•核分裂と核融合のプロセスを説明する
•臨界質量と核連鎖反応の概念を関連付ける
•核分裂・核融合炉の基本的な要件を要約する

放射能の発見後、20世紀初頭に核化学の分野が創設され、急速に発展しました。1930年代と1940年代におけるおびただしい数の新しい発見が組み合わされ、第二次世界大戦と相まって、20世紀半ばに核の時代の到来を告げました。科学者たちは新しい物質を作る方法を学び、そして、特定の元素の特定の同位体が、戦争時には甚大な被害をもたらし、平時には社会が必要とする莫大な電力を生み出す可能性を秘めた、かつてない量のエネルギーを生み出す能力を持っていることを発見したのです。

核種の合成

核変換とは、ある核種が別の核種に変換されることです。核変換は、原子核の放射性崩壊、または原子核と他の粒子との反応によって起こります。最初の人工の原子核は、1919年にアーネスト・ラザフォードの研究室で、核変換反応(ある種類の原子核に他の原子核や中性子を衝突させること)によって作られました。ラザフォードは、ラジウムの天然の放射性同位体からの高速α粒子を窒素原子に衝突させ、その反応の結果生じる陽子を観測しました:

\[ {\rm _7^{14} N + _2^4 He ⟶ _8^{17} O + _1^1 H}\\ \]

生成された\(\rm _8^{17} O\)\(\rm _1^1H\)の原子核は安定なので、それ以上の(核の)変化は起こりません。

核変換反応を起こすのに必要な運動エネルギーに到達するために、粒子加速器と呼ばれる装置が使われています。この装置では、磁場や電場を利用して核粒子の速度を上げます。すべての加速器では、粒子は気体分子との衝突を避けるために真空中を移動します。核変換反応に中性子が必要な場合、それらは通常、放射性崩壊反応や原子炉内で起こるさまざまな核反応から得られます。以下の「日常生活の中の化学」では、世界的に話題になった有名な素粒子加速器について紹介します。


日常生活の中の化学

CERN粒子加速器

ジュネーブ近郊にあるCERN(「Conseil Européen pour la Recherche Nucléaire」、欧州原子核研究機構)の研究所は、物質を構成する基本的な粒子の研究を行う世界有数のセンターです。この研究所には、円形の長さ27キロメートル(17マイル)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)(世界で最大の粒子加速器)があります(図21.13)。LHCでは、粒子を高エネルギーに加速させ、光速に近い速度で互いに衝突させたり、静止した標的に衝突させたりしています。超伝導電磁石を使って強い磁場を発生させ、リングを回るように粒子を誘導します。このような衝突の結果は、特殊な専用に作られた検出器で観測・記録され、CERNの科学者が強力なコンピュータを使って解析します。

図21.13 | LHCの小さな区画と、それに沿って移動する作業員が示されています。(credit: Christophe Delaere)

2012年、CERNはLHCでの実験がヒッグス粒子(基本粒子の質量の起源を説明するのに役立つ素粒子)の初観測を示したと発表しました。この待望の発見は世界的なニュースとなり、フランソワ・アングレールと、約50年前にこの粒子の存在を予測したピーター・ヒッグスに2013年のノーベル物理学賞が授与されることになりました。


学習へのリンク

著名な物理学者のブライアン・コックスが、CERNの大型ハドロン衝突型加速器での彼の仕事について語り、この巨大なプロジェクトとその背景にある物理学についての楽しい魅力的なツアー(http://openstaxcollege.org/l/16tedCERN)を提供しています。

CERNの粒子加速器がどのように機能するかの基本を説明したCERNによる短いビデオ(http://openstaxcollege.org/l/16CERNvideo)を見てください。


1940年以前には、既知の最も重い元素は、原子番号92のウランでした。現在では、多くの人工元素が合成・単離され、その中には社会に深遠な影響を与えた程に大きな規模のものも含まれています。その1つ、元素93のネプツニウム(Np)は、1940年にマクミランとアベルソンによって、ウラン-238に中性子を衝突させることで初めて作られました。この反応により、半減期23.5分の不安定なウラン-239が生成され、これが崩壊してネプツニウム-239になります。ネプツニウム-239も半減期2.36日の放射性物質であり、プルトニウム-239に崩壊します。核反応は:

\[ \begin{array}{ll} {\rm _{92}^{238} U + _0^1 n} ⟶ {\rm_{92}^{239} U}\\ {\rm _{92}^{239} U} ⟶ {\rm _{93}^{239} Np + _{−1}^0 e \hspace{20pt} 半減期 = 23.5\ 分}\\ {\rm _{93}^{239} Np} ⟶ {\rm _{94}^{239} Pu + _{−1}^0 e \hspace{20pt} 半減期 = 2.36\ 日}\\ \end{array} \]

プルトニウムは現在、原子炉でのウランの崩壊時の副生成物として主に生成されています。U-235の崩壊時に放出された中性子の一部はU-238の原子核と結合してウラン-239を形成し、これがβ崩壊してネプツニウム-239を形成し、それがさらにβ崩壊してプルトニウム-239を形成します。これは、上の3つの反応式で示されています。これらの反応式は以下のようにまとめることができます:

\[ {\rm _{92}^{238} U + _0^1 n ⟶ _{92}^{239} U \xrightarrow{β^−} {_{93}^{239} Np} \xrightarrow{β^−} {_{94}^{239} Pu}} \]

より軽いプルトニウムの原子核が中性子を捕獲するときには、プルトニウムのより重い同位体であるPu-240、Pu-241、Pu-242も生成されます。この放射性の高いプルトニウムの一部は軍事兵器の製造に使われていますが、残りのプルトニウムは半減期が数千年から数十万年にもなるため、深刻な保管上の問題があります。

プルトニウムと同じほどの量で調製されることはありませんが、他にも多くの合成原子核が作られています。核医学は、ある種類の原子を他の種類の原子に変換する能力から発展してきました。現在、数十種類の元素の放射性同位体が医療の用途に使用されています。それらの崩壊によって発生する放射線は、さまざまな器官や身体部位の画像化や治療、その他の用途に利用されています。

92番元素(ウラン)を超える元素は、超ウラン元素と呼ばれます。この記事を書いている時点で、22種類の超ウラン元素が生成され、IUPACによって正式に承認されています。他のいくつかの元素は、形成されたことが主張され、承認を待っている段階です。これらの元素のいくつかが表21.3に示されています。

表21.3

核分裂

質量が重く、核子1個あたりの結合エネルギーが小さな元素の多くは、中間的な質量数を持ち、核子1個あたりの結合エネルギーが大きい(すなわち、結合エネルギーのグラフの番号56近傍の「頂点」に近い質量数と核子1個あたりの結合エネルギーを持つ)、より安定な元素へと分解することができます(図21.3参照)。ときには、中性子が生成されることもあります。この分解は核分裂と呼ばれ、これは大きな原子核がより小さな断片に壊れることです。この分裂は、多数の異なる生成物の形成を伴う、かなりランダムなものです。通常、核分裂は自然には起こらず、中性子の衝突によって引き起こされます。最初に報告された核分裂は、1939年にリーゼ・マイトナー、オットー・ハーン、フリッツ・シュトラスマンの3人のドイツ人科学者が、ウラン-235原子にゆっくりと動く中性子を衝突させたときに起こりました。それにより、U-238の原子核は、いくつかの中性子と周期表の中間付近にある元素で構成される、より小さな断片へと分割されました。それ以来、奇数個の中性子を持つアクチニド同位体のほとんどを含む、他の多くの同位体でも核分裂が観測されています。典型的な核分裂反応が図21.14に示されています。

図21.14 | 遅い中性子が核分裂可能なU-235の原子核に当たると、それは吸収されて不安定なU-236原子核を形成します。その後、U-236原子核は数個の中性子(通常は2~3個)とともに2つの小さな原子核(ここではBa-141とKr-92)にすぐさま分裂し、非常に大きな量のエネルギーを放出します。

マイトナー、ハーン、シュトラスマンの核分裂反応の生成物には、バリウム、クリプトン、ランタン、セリウムがありますが、これらはすべてウラン-235よりも安定な原子核を持っています。それ以来、核分裂可能な物質の生成物の中には数百種類の同位体が観測されています。図21.15には、U-235について起こる多くの反応のうちのいくつかと、その核分裂生成物と収率の分布のグラフが示されています。同様の核分裂反応は、他のウラン同位体や、プルトニウム同位体などの他のさまざまな同位体でも観測されています。

図21.15 | (a)U-235の核分裂ではさまざまな核分裂生成物が生成されます。(b)典型的には、U-235の核分裂生成物のうち大きいものは、85~105程度の質量数を有する1つの同位体と、約50%大きな質量数、すなわち130~150程度の質量数を有するもう1つの同位体です。


学習へのリンク

このリンク(http://openstaxcollege.org/l/16fission)を訪れて、核分裂のシミュレーションを見てください。


重い元素の核分裂では、とてつもない量のエネルギーが発生します。たとえば、1モルのU-235が核分裂すると、生成物の重さは反応物よりも約0.2グラム少なくなります。この「失われた」質量は、1モルのU-235あたり約1.8×10¹⁰kJという非常に大きな量のエネルギーに変換されます。核分裂反応は、化学反応に比べて信じられないほど大きなエネルギーを生み出します。たとえば、1キログラムのウラン-235の核分裂は、1キログラムの石炭を燃やしたときの約250万倍のエネルギーを生み出します。

前述したように、U-235は核分裂を起こすと、2つの「中型」の原子核と2~3個の中性子を生成します。この中性子が他のウラン-235の原子を核分裂させ、今度はそれらがさらに多くの中性子を生み出し、そしてさらに多くの原子核を核分裂させる、というように続いていきます。これが起こると、核の連鎖反応となります(図21.16参照)。一方、あまりにも多くの中性子が原子核と相互作用せずに物質の外に出てしまうと、連鎖反応は起こりません。

図21.16 | U-235のような大きな原子核の核分裂では2~3個の中性子が発生しますが、それぞれの中性子は示された反応によって別の原子核の核分裂を引き起こすことができます。もしこの過程が続くと、核の連鎖反応が起こります。

核分裂の連鎖反応を持続することのできる物質のことは、核分裂性または核分裂可能と言われます。(厳密には、核分裂性の物質とはどのようなエネルギーの中性子でも核分裂を起こすことができるものであり、核分裂可能な物質とは高エネルギーの中性子を必要とするもののことです。)核分裂によって生成される中性子の数が、分裂する原子核によって吸収される中性子の数と周囲に逃げていく中性子の数との合計に等しくなるか、それを超えると、核分裂は自立的に行われるようになります。自立的な連鎖反応を支える核分裂可能な物質の量のことを、臨界質量と言います。連鎖反応を維持することのできない核分裂可能な物質の量のことを、臨界未満質量と言います。また、核分裂の速度が増加していくような物質の量のことを、超臨界質量と言います。臨界質量は、材料のタイプ(その純度、温度、試料の形状、中性子反応の制御方法など)に依存します(図21.17)。

図21.17 | (a)臨界未満質量では、核分裂性物質が小さすぎて、多くの中性子が物質から逃げてしまい、連鎖反応が起こりません。(b)臨界質量では、十分に多くの中性子が核分裂性物質の中で核分裂を引き起こして、連鎖反応を作り出します。

原子爆弾(図21.18)は、数ポンドの核分裂可能な物質(\(\rm _{92}^{235} U\) または \(\rm _{94}^{239} Pu\)、中性子源)と、それを小さな体積に素早く圧縮するための爆発装置を含んでいます。核分裂可能な物質がいくつかの小片に分けられているときは、比較的大きな表面積を通って逃げる中性子の割合が大きく、連鎖反応は起こりません。核分裂可能な物質の小片を素早く集めて臨界質量よりも大きな質量を持つ塊を作ると、逃げていく中性子の相対的な数が減少し、連鎖反応と爆発が起こります。

図21.18 | (a)1945年8月6日に広島を破壊した核分裂爆弾は、2つの臨界未満質量のU-235で構成されており、通常の爆薬を使って臨界未満質量の一方をもう一方に発射し、核爆発のための臨界質量を作り出しました。(b)1945年8月9日に長崎を破壊したプルトニウム爆弾は、中空球状のプルトニウムで構成され、それを通常の爆薬によって急速に圧縮したものでした。これにより、核爆発に必要な臨界質量を超えるプルトニウムが中心部に集中しました。

核分裂炉

原子炉では、核分裂可能な物質の連鎖反応を制御し、爆発を起こさずに持続させることができます(図21.19)。中性子を衝突させることによりウランやプルトニウムを核分裂させて発電する原子炉は、少なくとも5つの構成要素を備えていなければなりません:それは、核分裂可能な物質からなる核燃料、核減速材、原子炉冷却材、制御棒、および遮蔽体・格納容器系です。私たちは、これらの構成要素についてはこの節の後のほうで詳細に議論します。原子炉は、核分裂可能な核物質を臨界質量が形成されないように分離することによって機能し、中性子の流れと中性子の吸収を制御して核分裂反応を停止させることができます。電気を起こすために使われる原子炉では、核分裂反応によって放出されたエネルギーを熱エネルギーとして捕らえ、水を沸騰させて蒸気を発生させます。その蒸気を利用してタービンを回し、発電機を動かして電気を作ります。

図21.19 | (a)サンルイスオビスポ近郊のディアブロキャニオン原子力発電所は、カリフォルニア州で現在稼働中の唯一の原子力発電所です。ドームは原子炉の格納構造であり、茶色の建物は発電用のタービンを収容しています。冷却には海水を使用しています。(b)ディアブロキャニオンでは、加圧水型原子炉(世界で使用されているいくつかの異なる核分裂炉の設計のうちの1つ)を使って発電しています。炉心での核分裂反応のエネルギーが、密閉された加圧系の中で水を加熱します。この系からの熱で蒸気を発生させ、それがタービンを駆動させて電気を発生させます。(credit a: modification of work by “Mike” Michael L. Baird; credit b: modification of work by the Nuclear Regulatory Commission)

核燃料

核燃料はウラン-235のような核分裂可能な同位体から構成されていますが、自立的な連鎖反応を起こすためにはそれらの同位体は十分な量で存在していることが必要です。米国のウラン鉱石には、0.05~0.3%の酸化ウランU₃O₈が含まれています。鉱石の中のウランは約99.3%が核分裂不可能なU-238であり、0.7%だけが核分裂可能なU-235です。原子炉では、自然界に存在するウランよりも高濃度のU-235を有する燃料を必要とします。通常はウラン質量の約5%がU-235となるように濃縮されます。この濃度では、核爆発に必要な超臨界質量に達することができません。ウランは、ガス遠心分離機を用いたガス拡散法(米国で現在使われている唯一の方法)や、レーザー分離法により濃縮されます。

U-235燃料を製造するガス拡散濃縮プラントでは、低圧のUF₆(六フッ化ウラン)気体が、UF₆が通過できるギリギリの大きさの穴が開いた障壁を通過します。このとき、わずかに軽い\(\rm ^{235} UF_6\)分子は、重い\(\rm ^{238} UF_6\)分子よりもわずかに速い速度で障壁を通過します。このプロセスを何百もの障壁を通過するようにして繰り返し、\(\rm ^{235} UF_6\)の濃度を原子炉が必要とするレベルにまで徐々に高めていきます。このプロセスの基礎となるグレアムの法則については、気体の章で説明されています。濃縮されたUF₆気体は回収され、冷却されて固化された後、製造施設に運ばれて燃料集合体となります。それぞれの燃料集合体は、指先程度の大きさでセラミックに封入された濃縮ウラン(通常UO₂)燃料ペレットを多数含む燃料棒で構成されています。現代の原子炉には、1000万個もの燃料ペレットが入っている場合があります。これらのペレットのそれぞれに含まれるエネルギー量は、ほぼ1トンの石炭または150ガロンの石油に匹敵します。

核減速材

核反応によって生成された中性子は、核分裂を引き起こすには速すぎる速度で移動します(戻って図21.17を参照してください)。中性子は、燃料に吸収されて追加の核反応を起こすために、まず減速されなければなりません。核減速材は、核分裂を起こすのに十分な速度まで中性子を減速させる物質です。初期の原子炉では、高純度の黒鉛が減速材として使用されていました。米国の現代の原子炉は、重水(\(\rm _1^2 H_2O\))または軽水(普通のH₂O)のみを使用していますが、他の国の原子炉の中には、二酸化炭素、ベリリウム、黒鉛などの他の物質を使用しているものもあります。

原子炉冷却材

原子炉の冷却材は、核分裂反応によって発生した熱を外部のボイラーやタービンに運び、そこで電気に変換するために使用されます。2つの重なり合う冷却ループがしばしば使われています。これは、原子炉から一次冷却ループへの放射能の移行を防ぐためです。米国内のすべての原子力発電所では、冷却材として水を使用しています。他の冷却材には、溶融したナトリウム、鉛、鉛-ビスマス混合物、溶融した塩などが含まれます。

制御棒

原子炉は制御棒(図21.20)を使用して、存在する遅い中性子の数を連鎖反応の速度が安全なレベルに保たれるように調整することによって、核燃料の核分裂速度を制御しています。制御棒は、ホウ素、カドミウム、ハフニウム、または中性子を吸収することができる他の元素で作られています。たとえばホウ素-10は、中性子を吸収して反応し、リチウム-7とアルファ粒子を生成します:

\[ {\rm _5^{10} B + _0^1 n ⟶ _3^7 Li + _2^4 He}\\ \]

制御棒集合体を炉心の燃料元素に挿入すると、遅い中性子の多くの割合を吸収し、それによって核分裂反応の速度が遅くなり、発生するエネルギーが減少します。逆に制御棒が取り外されると、吸収される中性子が少なくなり、核分裂反応の速度と生成されるエネルギーが増加します。非常時には、原子炉の炉心の燃料棒の間にすべての制御棒を完全に挿入することによって、連鎖反応を停止させることができます。

図21.20 | (a)に示される原子炉の炉心には、(b)に示されるような燃料棒と制御棒の集合体が入っています。(credit: modification of work by E. Generalic, http://glossary.periodni.com/glossary.php?en=control+rod)

遮蔽体・格納容器系

原子炉は運転中に中性子や他の放射線を発生させます。運転を停止しているときでも、崩壊生成物は放射性です。また、運転中の原子炉は非常に高温になり、そこを通過する水や他の冷却材の循環によって高い圧力が発生します。したがって、原子炉は高温高圧に耐え、作業員を放射線から守らなければなりません。原子炉には、3つの部分からなる格納容器系(または遮蔽体)が装備されています:

  1. 原子炉容器(厚さ3~20センチの鋼鉄製のシェルで、減速材とともに原子炉から発生する放射線の大部分を吸収します)

  2. 1~3mの高密度コンクリートからなる主要な遮蔽体

  3. γ線やX線から作業員を守る軽量な素材の人員用遮蔽体

さらに、原子炉は、原子炉事故によって放出される可能性のある放射性物質を封じ込めるように設計された鋼鉄やコンクリートのドームでしばしば覆われています。


学習へのリンク

ここをクリックすると、原子力エネルギー協会による原子炉の仕組みについての3分間の動画(http://openstaxcollege.org/l/16nucreactors)が見られます。


原子力発電所は、核分裂可能な物質が超臨界質量を形成しないように設計されているため、核爆発を起こすことはありません。しかし、歴史が示すように、システムや安全装置の不具合は、化学的な爆発や核メルトダウン(過熱による炉心の損傷)などの壊滅的な事故を引き起こす可能性があります。以下の「日常生活の中の化学」では、3つの悪名高いメルトダウン事故について探求します。


日常生活の中の化学

原子力事故

冷却と格納容器の重要性は、米国(スリーマイル島)、旧ソビエト連邦(チェルノブイリ)、日本(福島)の原子力発電所の原子炉で発生した3つの大事故によって十分に示されています。

1979年3月、ペンシルベニア州にあるスリーマイル島原子力発電所の2号機の冷却系が故障し、原子炉から冷却水が格納棟の床に漏出しました。ポンプが停止した後、原子炉停止後の最初の数日間に発生した高い放射性崩壊熱のために、原子炉が過熱しました。炉心の温度は少なくとも2200°Cまで上昇し、炉心上部が溶融し始めました。さらに、燃料棒のジルコニウム合金被覆材が水蒸気と反応し始め、水素を発生させました:

\[ {\rm Zr\ (s) + 2H_2 O\ (g) ⟶ ZrO_2\ (s) + 2H_2\ (g)}\\ \]

格納棟内に水素が蓄積し、棟内で水素と空気の混合物が爆発する危険性が懸念されました。その結果、水素気体と放射性気体(主にクリプトン、キセノン)が棟から放出されました。1週間以内に冷却水の循環が回復し、炉心は冷え始めました。発電所は、汚染除去の過程で10年近く閉鎖されました。

放射性物質の放出はゼロが望ましいですが、スリーマイル島原発で発生したような放射性のクリプトンとキセノンの放出は、最も許容できるものの1つです。これらの気体は大気中に容易に拡散するため、高い放射能区域を発生させません。さらに、これらの気体は貴ガスであり、食物連鎖の中で植物や動物の中に取り込まれることはありません。事実上、原子炉の炉心の重元素はまったく環境中に放出されず、格納棟の外の領域の汚染除去は必要ありませんでした(図21.21)。

図21.21 | (a)2010年のスリーマイル島の写真では、左側に損傷を受けた2号機の残存構造物が見えます。一方で、事故の影響を受けなかった別の1号機は、現在も発電を続けています(右側)。(b)1979年の事故の数日後、ジミー・カーター大統領が2号機の制御室を訪れました。

1986年4月、当時はまだ旧ソビエト連邦の一部だったウクライナのチェルノブイリ原子力発電所でも、原子炉が絡む大事故が起きました。未承認の実験中に安全装置の一部を停止して低出力で運転していたとき、発電所の原子炉の1つが不安定になりました。その連鎖反応は制御不能となり、原子炉の設計をはるかに超えたレベルまで増大しました。原子炉内の蒸気圧は最大出力圧力の100~500倍に上昇し、原子炉は破裂しました。原子炉は格納棟で囲まれていなかったため、大量の放射性物質が噴出しました。そして、炉心の黒鉛(炭素)減速材が着火・燃焼したことで、さらに核分裂生成物が放出されました。火災は抑えられましたが、200人以上の原発作業員と消防士が急性放射線症を発症し、少なくとも32人が放射線の影響で間もなく死亡しました。緊急時の作業員や元チェルノブイリ住民の間では、放射線誘発性のがんや白血病による死者がさらに約4000人に上ると予測されています。その後、原子炉は鋼鉄とコンクリートで覆われています(石棺として知られる今では朽ち果てつつある構造物)。30年近く経った今もなお、この地域では放射能の問題は深刻であり、チェルノブイリの大部分は荒れ地のまま残されています。

2011年、日本の福島第一原子力発電所は、マグニチュード9.0の地震とそれに伴う津波によって大きな損傷を受けました。当時稼働していた3基の原子炉は自動的に停止し、非常用発電機が接続されて、電子機器や冷却系に電力を供給しました。しかしながら、津波が即座に非常用発電機に浸水し、原子炉内の冷却水を循環させるポンプの電源を切断しました。原子炉内の高温の蒸気がジルコニウム合金と反応して水素気体を発生させました。この気体は格納棟内に漏出し、水素と空気の混合物が爆発しました。水素の圧力を下げるための意図的な放出、冷却水の海への意図的な排出、および事故や制御不能な事象の結果として、格納容器から放射性物質が放出されました。

損傷を受けた原発周辺の避難区域は12.4マイル超まで広がり、推定20万人がその地域から避難しました。その後、日本の原子力発電所48基すべてが停止し、2014年12月時点で閉鎖されたままとなっています。震災の後、世論は原子力発電所の利用拡大におおむね賛成からおおむね反対へと変化しており、日本の原子力発電事業の再始動はいまだ停滞しています(図21.22)。

図21.22 | (a)事故の後、汚染された廃棄物が撤去されなければなりませんでした。(b)原発の周辺で大量の放射性降下物が飛来した領域に避難区域が設定されました。(credit a: modification of work by “Live Action Hero”/Flickr)


濃縮ウランを燃料とする原子炉によって生成されるエネルギーは、ウランの核分裂と、原子炉の運転に伴って発生するプルトニウムの核分裂によって生じるものです。前で議論したように、プルトニウムは中性子と燃料中のウランが結合して形成されます。どの原子炉であっても、燃料の質量の約0.1%しかエネルギーに変換されません。残りの99.9%は核分裂生成物や未使用の燃料として燃料棒の中に残ります。核分裂生成物はすべて中性子を吸収するので、原子炉にもよりますが、数か月から数年の期間の後には、燃料棒を交換することにより核分裂生成物を除去しなければなりません。そうしないと、これらの核分裂生成物の濃度が上昇し、原子炉が運転できなくなってしまうまで、どんどんと多くの中性子を吸収することになるでしょう。

使用済み燃料棒には、原子番号が25から60までの不安定な原子核、プルトニウムやアメリシウムなどの超ウラン元素、未反応のウラン同位体などからなるさまざまな生成物が含まれています。不安定な原子核と超ウラン同位体のため、使用済の燃料には危険な高レベルの放射能があります。長寿命の同位体は、安全なレベルまで崩壊するまでに何千年もかかります。米国の重要なエネルギー源としての原子炉の最終的な運命は、おそらくは、使用済み燃料棒の構成要素を処理・貯蔵するための政治的および科学的に満足のいく技術を開発することができるかどうかにかかっています。


学習へのリンク

核廃棄物管理へのアプローチについて学ぶために、このリンク(http://openstaxcollege.org/l/16wastemgmt)の中にある情報を探ってみましょう。


核融合と核融合炉

非常に軽い原子核がより重い原子核に変換される過程もまた、質量が大量のエネルギーへと変換されることを伴います。これは核融合と呼ばれます。太陽の中の主要なエネルギー源は、正味の核融合反応であり、そこでは4つの水素原子核が融合して1つのヘリウム原子核と2つの陽電子が生成されます。これは、より複雑な一連の事象についての、正味の反応です:

\[ {\rm 4\ _1^1 H ⟶ {_2^4 He} + 2\ _{+1}^0e^+}\\ \]

ヘリウム原子核の質量は水素原子核4個分の質量よりも0.7%小さく、この失われた質量は核融合の際にエネルギーへと変換されます。この反応では、生成された\(\rm _2^4He\)の1モルあたり約3.6×10¹¹kJのエネルギーが生成されます。これは、1モルのU-235の核分裂によって生成されるエネルギー(1.8×10¹⁰kJ)よりもやや大きく、1モルのオクタンの(化学的)燃焼によって生成されるエネルギー(5471 kJ)の300万倍以上もあります。

水素の重い同位体の原子核であるデューテロン\(\rm _1^2 H\)とトリトン\(\rm _1^3 H\)は、非常に高温で核融合(熱核融合)を起こすことがわかっています。これによりヘリウム原子核と中性子が形成されます:

\[ {\rm _1^2 H + _1^3 H ⟶ _2^4 He + _0^1 n}\\ \]

この変化は0.0188 amuの質量の損失を伴って進行します。これは、形成された\(\rm _2^4He\)の1モルあたり1.69×10⁹キロジュールの放出に相当します。それらの原子核の正電荷から生じる非常に強い反発力を克服して、衝突することができるようにするのに十分な運動エネルギーを原子核に与えるために非常に高い温度が必要とされます。

有用な核融合反応を開始するためには非常に高い温度(約1500万K以上)が必要です。この温度では、すべての分子が解離して原子になり、原子がイオン化してプラズマを形成します。このような状態は、宇宙の非常に多くの場所で起こっています - 星々は核融合によって力を得ています。人類は、核融合を大規模に実現するのに十分なほど高い温度を作り出す方法を、すでに熱核兵器で実現しています。水素爆弾などの熱核兵器には核分裂爆弾が含まれていますが、これを爆発させると、核融合を起こすために必要な非常に高い温度を作り出すのに十分なエネルギーが放出されます。

核融合反応を起こすためのはるかに有益なもう1つの方法は、核融合炉という軽い核の核融合反応を制御する原子炉です。このような高温ではいかなる固体物質であっても安定ではないため、機械的な装置では核融合反応が起こるプラズマを閉じ込めることはできません。現在、核融合反応に必要な密度・温度でプラズマを閉じ込める2つの技術が集中的に研究されています:それは、磁場による閉じ込めと、集束レーザー光を用いた閉じ込めです(図21.23)。科学における最大の目標の1つを達成しようと、いくつもの大型プロジェクトが行われています:その目標とは、水素燃料に点火して、核融合に必要な超高温・超高圧を実現するために供給された量を上回るエネルギーを生み出すことです。この文章を書いている時点では、世界には稼働している自立型核融合炉は存在しませんが、小規模の制御された核融合反応はごく短時間ではありますが、実行されています。

図21.23 | (a)これは、国際熱核融合実験炉(ITER)の炉の模型です。現在、フランス南部で2027年の完成を目指して建設中のITERは、大規模な持続的エネルギー生産の達成を目標とした世界最大のトカマク型核融合実験炉です。(b)2012年、ローレンス・リバモア国立研究所の国立点火施設では、500,000,000,000ワット(500テラワット、または500TW)超のピーク出力を短時間に発生させ、1,850,000ジュール(1.85MJ)のエネルギーを供給しました。これは生み出されたレーザーエネルギーとしては史上最大であり、いかなる瞬間であれ米国全体の電力使用量の1000倍でした。持続時間は数十億分の一秒に過ぎませんでしたが、192本のレーザーは核融合の点火に必要な条件を達成しました。この画像は、レーザー照射前のターゲットを示しています。(credit a: modification of work by Stephan Mosel)

21.5 放射性同位体の利用

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•放射性同位体の一般的な用途を列挙する

放射性同位体は、同じ元素の安定な同位体と同じ化学的性質を持っていますが、それらは放射線を放出し、その放射線は検出することができます。もし私たちが、ある化合物の中の1つ(または複数)の原子を放射性同位体に置き換えると、その放射性物質の放射性放出を監視することによって、それらを追跡することができます。このようなタイプの化合物は、放射性トレーサー(または放射性ラベル)と呼ばれています。放射性同位体は、生化学反応の経路をたどったり、物質が生物内でどのように分布しているかを決定したりするために使われます。また、放射性トレーサーは、診断や治療を含む多くの医療用途にも使用されています。それらは、エンジンの摩耗を測定したり、油井周辺の地質学的形成を分析したり、その他にも多くの用途に使用されています。

放射性同位体は、医療行為に革命をもたらしており(付録M参照)、その分野では広範に使用されています。米国では毎年1000万件以上の核医学的処置と1億件以上の核医学的検査が行われています。医療に使用される放射性トレーサーの4つの代表的な例は、テクネチウム-99(\(\rm _{43}^{99} Tc\))、タリウム-201(\(\rm _{81}^{201} Tl\))、ヨウ素-131(\(\rm _{53}^{131} I\))、ナトリウム-24(\(\rm _{11}^{24} Na\))です。心臓、肝臓、肺の損傷した組織は、テクネチウム-99の特定の化合物を優先的に吸収します。それを注入した後、Tc-99の同位体から放出されるγ線を検出することにより、テクネチウム化合物の位置、すなわち損傷した組織の位置を決定することができます。タリウム-201(図21.24)は健康な心臓組織に濃縮されるので、Tc-99とTl-201の2つの同位体が心臓組織を研究するために一緒に使用されます。ヨウ素-131は甲状腺、肝臓、脳の一部に集中します。そのため、それは甲状腺腫のモニターやバセドウ病などの甲状腺疾患の治療に使用されるとともに、肝臓や脳の腫瘍にも使用されます。ナトリウム-24の化合物を含む塩の溶液を血流に注入すると、血液の流れの障害の場所を特定するのに役立ちます。

図21.24 | 患者にタリウム-201を投与し、その後にストレステストを行うことで、医療専門家は心機能と血流を視覚的に分析する機会を得ることができます。(credit: modification of work by “Blue0ctane”/Wikimedia Commons)

医療に使われる放射性同位体は、半減期が短いのが一般的であり、たとえば、よく目にするTc-99mの半減期は6.01時間です。そのため、Tc-99mを保管しておくことは基本的に不可能であり、輸送にも莫大な費用がかかるため、現場で製造されています。病院や他の医療施設では、Mo-99(主にU-235の核分裂生成物から抽出されます)を使ってTc-99を生成しています。Mo-99は半減期66時間でβ崩壊を行い、その後、Tc-99が化学的に抽出されます(図21.25)。親核種Mo-99はモリブデン酸イオンMoO₄²⁻の一部であり、崩壊すると過テクネチウム酸イオンTcO₄⁻を形成します。これら2つの水溶性イオンはカラムクロマトグラフィーで分離されます(電荷の高いモリブデン酸イオンはカラムのアルミナに吸着し、電荷の低い過テクネチウム酸イオンは溶液の中でカラムを通過します)。数マイクログラムのMo-99で、1万回の検査を行うのに十分な量のTc-99を生成することができます。

図21.25 | (a)最初のTc-99m生成器(1958年頃)を使用して、Mo-99からTc-99を分離しています。MoO₄²⁻はカラム内の母材によって保持される一方で、TcO₄⁻は通過して回収されます。(b)バセドウ病患者のこの首のスキャン画像には、Tc-99が使用されました。このスキャン画像は、高濃度のTc-99の場所を示しています。(credit a: modification of work by the Department of Energy; credit b: modification of work by “MBq”/Wikimedia Commons)

放射性同位体はまた、治療として使用することもできます(典型的にはトレーサーとして使用するよりも高用量で)。放射線療法は、高エネルギー放射線を用いてがん細胞のDNAを損傷させ、がん細胞を死滅させたり、細胞分裂を阻止したりするものです(図21.26)。がん患者は、体外にある機械によって照射される外部ビーム放射線療法、または体内に導入された放射性物質からの内部放射線療法(小線源療法)を受けることができます。化学療法は、がん治療薬を体内に注入するという点では内部放射線療法と似ていますが、化学療法は放射性物質ではなく化学物質を用いてがん細胞を死滅させるという点で異なります。

図21.26 | (a)の絵は、がんの治療に使用されるコバルト-60装置を示しています。(b)の図は、コバルト-60装置のガントリーが円弧を描いて旋回し、放射線を標的部位(腫瘍)に集中させ、近くの領域を通過する放射線量を最小限に抑えている様子を示しています。

コバルト-60は、Co-59が中性子放射化されることによって生成される合成放射性同位体であり、その後、γ線を放出するとともにβ崩壊して、Ni-60となります。全体のプロセスは以下の通りです:

\[ {\rm _{27}^{59} Co + _0^1 n ⟶ _{27}^{60} Co ⟶ _{28}^{60} Ni + _{−1}^0 β + 2\ _0^0 γ}\\ \]

この崩壊の全体的な崩壊図式が、図21.27に描画されています。

図21.27 | Co-60は一連の放射性崩壊を行います。このγ放出が放射線治療に利用されます。

放射性同位体は、植物や動物の化学反応のメカニズムを研究するためにさまざまな方法で利用されています。たとえば、植物による栄養摂取や作物の成長を調べるための肥料のラベル付け、牛の消化や乳の生産過程の調査、動物や植物の成長や代謝の研究など、多岐にわたります。

たとえば、放射性同位体C-14を用いて、光合成がどのように行われるのかが詳細に解明されました。全体の反応は:

\[ {\rm 6CO_2\ (g) + 6H_2 O\ (l) ⟶ C_6 H_{12} O_6\ (s) + 6O_2\ (g)}\\ \]

ですが、この反応ははるかに複雑なものであり、さまざまな有機化合物が生成される一連の段階を経て進行します。この反応の経路の研究では、植物を高濃度の \(\rm _6^{14}C\) を含むCO₂にさらしました。一定の間隔で植物を分析し、どの有機化合物に炭素-14が含まれているか、またそれぞれの化合物がどのくらい存在しているかが特定されました。化合物が出現した時系列と、所与の時間間隔でそれぞれの化合物が存在している量から、科学者たちは反応の経路についてより詳しく知ることができました。

放射性物質の商業的な利用法も、同じくらい多岐にわたっています(図21.28)。その中には、さまざまな種類の放射線の透過力を利用することにより、膜や薄い金属板の厚さを決定することが含まれます。人体をX線を使って検査するのと同様な方法で、構造物の目的のために使用される金属の欠陥を、コバルト-60からの高エネルギーガンマ線を使って検出することができます。害虫駆除の1つの方法として、ハエのオスをγ線で生殖不能にして、それらのハエと交配したメスが子孫を作らないようにする方法があります。また、多くの食品は、食品の腐敗の原因となる微生物を殺す放射線によって保存処理されています。

図21.28 | 放射線の一般的な商業利用には、(a)空港での荷物のX線検査、(b)食品の保存などが含まれます。(credit a: modification of work by the Department of the Navy; credit b: modification of work by the US Department of Agriculture)

アメリシウム-241は半減期458年のα放射体であり、イオン化型煙感知器の中で微量に使用されています(図21.29)。Am-241からのα放出は、イオン化チャンバー内の2枚の電極板の間の空気をイオン化します。電池から電位が供給されてイオンが移動し、それによって小さな電流が発生します。チャンバー内に煙が入ると、イオンの動きが阻害され、空気の電気伝導性が低下します。これにより電流が著しく低下し、警報が発せられます。

図21.29 | 煙検知器の内部では、Am-241がα粒子を放出して空気をイオン化し、小さな電流を発生させます。火災時には、煙の粒子がイオンの流れを妨げ、電流が減少して警報が発せられます。(credit a: modification of work by “Muffet”/Wikimedia Commons)

21.6 放射線の生物学的影響

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•イオン化放射線の生物学的影響について記述する
•放射線被曝の測定単位を定義する
•放射能を検出するための一般的な道具の操作を説明する
•米国における一般的な放射線被曝の原因を列挙する

放射性同位体の利用の増加により、これらの物質の生物学的な系(人間など)への影響についての懸念が高まっています。すべての放射性核種は、高エネルギー粒子または電磁波を放出します。この放射線が生きている細胞に当たると、それは熱を生じさせたり、化学結合を壊したり、分子をイオン化したりします。最も深刻な生物学的損傷は、これらの放射性の放出によって分子が断片化したり、イオン化したりするときに起こります。たとえば、核崩壊反応から放出されるアルファ粒子やベータ粒子は、通常の化学結合エネルギーよりもはるかに高いエネルギーを持っています。これらの粒子が物質に衝突して透過すると、非常に反応性の高いイオンや分子片が生成されます。これが生物内の生体分子に与える損傷は、正常な細胞プロセスに深刻な誤作動を引き起こし、生体の修復機構に負担をかけ、病気や死の原因となる可能性があります(図21.30)。

図21.30 | 放射線は細胞のDNAを損傷することによって、生物学的な系に害を及ぼす可能性があります。この損傷が適切に修復されないと、細胞は制御不能な形で分裂し、がんを引き起こすことがあります。

イオン化放射線と非イオン化放射線

非イオン化放射線(たとえば、光やマイクロ波)とイオン化放射線(分子から電子をはじき出すのに十分なエネルギーを持つ放射で、たとえば、α粒子・β粒子、γ線、X線、および高エネルギー紫外線)とでは、生物学的な影響の程度に大きな差があります(図21.31)。

図21.31 | 低周波数で低エネルギーの電磁放射は非イオン化性であり、高周波数で高エネルギーの電磁放射はイオン化性です。

非イオン化放射線から吸収されたエネルギーは、原子や分子の動きを加速させます。これは、試料を加熱することと同等です。生物学的な系は熱に敏感ですが(私たちが熱いストーブに触ったり、太陽の下でビーチで一日を過ごしたりすることからわかるように)、危険なレベルに達するまでには大量の非イオン化放射線が必要です。しかしながら、イオン化放射線は、生体分子の中で結合を壊したり、電子を取り除いたりして、その構造や機能を破壊することにより、はるかに深刻な損傷を引き起こす可能性があります。この損傷は、まずH₂O(生物内に最も豊富に存在する分子)をイオン化してH₂O⁺イオンを形成し、それが水と反応してヒドロニウムイオンとヒドロキシルラジカルを形成することによって間接的に行われることもあります:

ヒドロキシルラジカルは不対電子を持っているため、非常に反応性が高いです。(これはフリーラジカルとして知られる、不対電子を持つあらゆる物質に当てはまります。)このヒドロキシルラジカルは、あらゆる種類の生体分子(DNA、タンパク質、酵素など)と反応し、分子に損傷を与えたり、生理的なプロセスを混乱させたりします。直接的および間接的な損傷の例が図21.32に示されています。

図21.32 | イオン化放射線は、(a)生体分子をイオン化したり、その結合を切断したりすることによって直接的に損傷を与えたり、(b)H₂O⁺イオンを生成して、それがH₂Oと反応してヒドロキシルラジカルを形成し、今度はそのヒドロキシルラジカルが生体分子と反応することによって間接的に損傷を与えたりすることがあります。

放射線への被曝の生物学的影響

放射線は、全身(身体的損傷)、または卵子や精子(遺伝的損傷)のいずれかの形で害を及ぼすことができます。その影響は、胃の内膜、毛包、骨髄、胚など、急速に複製する細胞でより顕著に現れます。これが、放射線治療を受けている患者が、しばしば吐き気や胃の調子が悪くなったり、髪が抜けたり、骨が痛くなったりするなどの理由であり、また、妊娠中に放射線治療を受ける場合は特別の注意が必要となる理由でもあります。

さまざまな放射線の種類では、物質を透過する能力が異なります(図21.33)。通常、紙1~2枚や皮膚細胞の最上層などの非常に薄い障壁がアルファ粒子を阻止します。このため、アルファ粒子の発生源は、体外にある場合には、通常は危険ではありませんが、摂取したり、吸い込んだりするとかなり危険です(ラドン被曝に関する「日常生活の中の化学」の囲み記事を参照)。ベータ粒子は、手や、紙や木などのような物質の薄い層を通過しますが、金属の薄い層によって阻止されます。ガンマ線は非常に透過性が高く、ほとんどの物質の厚い層を通過することができます。高エネルギーガンマ線の一部は、数フィートのコンクリートを通過することができます。ある種の高密度で原子番号の高い元素(鉛など)は、より薄い材料でガンマ線を効果的に弱めることができ、遮蔽体に使用されています。さまざまな種類の放出物がイオン化を引き起こす能力は大きく異なり、いくつかの粒子はほとんどイオン化を引き起こす傾向がありません。アルファ粒子がイオン化を行う力は、素早く動いている中性子の約2倍、β粒子の約10倍、γ線やX線の約20倍です。

図21.33 | さまざまな種類の放射線が物質を透過する能力が示されています。アルファ線 < ベータ線 < 中性子線 < ガンマ線の順で、最も透過性の低いものから最も透過性の高いものとなります。


日常生活の中の化学

ラドン被曝

多くの人々にとって、放射線への被曝の最大の原因の1つはラドン気体(Rn-222)によるものです。ラドン-222は半減期3.82日のα放射体です。ラドン-222は、土壌や岩石中に微量に存在するU-238(図21.9)の放射性崩壊系列の生成物の1つです。発生したラドン気体は、地表からゆっくりと逃げ出し、徐々にその上の住宅や他の構造物などの中に入り込んでいきます。ラドン気体は空気の約8倍の密度を持っているため、地下室や低層階に蓄積し、建物全体にゆっくりと拡散していきます(図21.34)。

図21.34 | ラドン-222は、ラドン放出物質であるウラン-238を含む岩石から住宅や他の建物に入り込みます。ラドンは、コンクリートの基礎や地下室の床のひび割れ、石や多孔質のシンダーブロックの基礎、水道管やガス管の開口部などから侵入します。

ラドンは、国中の建物の中で見つかりますが、その量はあなたが住んでいる場所によって異なります。米国の住宅内部のラドンの平均濃度(1.25pCi/L)は外気中のレベルの約3倍であり、約6軒に1軒はラドン濃度を下げるための改善努力が推奨されるほど高いラドン濃度を持っています。ラドンへの被曝はがん(特に肺がん)になるリスクを高め、高いラドン濃度は、1日に1カートンのタバコを吸うのと同じくらい健康に対して悪影響となり得ます。ラドンは非喫煙者の肺がんの原因の第一位であり、肺がん全体の原因の第二位です。ラドン被曝は、米国で年間2万人以上の死亡者を出していると考えられています。


放射線被曝を測定する

放射線の検出と測定には、ガイガーカウンター、シンチレーションカウンター(シンチレーター)、放射線量計などを含む、いくつかの異なる装置が使用されています(図21.35)。おそらく最もよく知られている放射線測定器は、ガイガーカウンター(ガイガー-ミュラーカウンターとも呼ばれます)であり、これは放射線を検出して測定します。放射線はガイガー-ミュラー管内の気体のイオン化を引き起こします。イオン化の割合は放射線の量に比例します。シンチレーションカウンターには、イオン化放射線によって励起されると発光する(蛍光)物質であるシンチレーターと、その光を電気信号に変換するセンサーが含まれています。放射線量計もイオン化放射線を測定するもので、個人の放射線被曝量を判断するためにしばしば使用されます。一般的に使用されているのは、電子式線量計、フィルムバッジ式線量計、熱ルミネセンス式線量計、および石英ファイバー式線量計です。

図21.35 | (a)ガイガーカウンター、(b)シンチレーター、(c)線量計などの装置を用いて放射線を測定することができます。(credit c: modification of work by “osaMu”/Wikimedia commons)

放射線の多様な側面を測定するために、さまざまな単位が使用されています(図21.36)。放射性崩壊の速度を表すSI単位はベクレル(Bq)であり、1 Bq = 1 秒あたり 1 回の崩壊を表します。キュリー(Ci)やミリキュリー(mCi)は、はるかに大きな単位であり、医学では頻繁に使われています(1キュリー = 1Ci = 1 秒あたり 3.7×10¹⁰回の崩壊)。放射線量を測定するためのSI単位はグレイ(Gy)であり、1Gy = 組織1キログラムあたり1Jの吸収エネルギーを表します。医療分野では、ラド(放射線の吸収線量、rad)がより頻繁に使われます(1rad = 0.01 Gy、1radは0.01J/組織kgの吸収ということになります)。放射線により引き起こされた組織の損傷を測定するSI単位はシーベルト(Sv)です。これは、放射線量に含まれるエネルギーと放射線の種類による生物学的影響との両方を考慮しています。レム(人間のレントゲン当量、rem)は、医学で最も頻繁に使用されている放射線損傷についての単位です(100rem = 1Sv)。組織損傷の単位(remまたはSv)には、放射線量のエネルギー(radまたはGy)に加えて、放射線による相対的な損傷のおおよその尺度であるRBE(相対的生物学的効果比)と呼ばれる生物学的因子が含まれています。これらは以下のように関係しています:

\[ \rm レム数 = RBE × ラド数 \]

RBEはα線では約10、陽子と中性子では2(+)、β線とγ線では1となります。

図21.36 | 放射性物質の放出速度、放射性物質から吸収されるエネルギー、吸収された放射線による損傷量を測定するために、さまざまな単位が使用されています。

放射線の測定単位

表21.4 は、放射線の測定に使用する単位をまとめたものです。

表21.4


例題21.8 放射線の量

コバルト-60(t1/2 = 5.26 年)は、放出するγ線をがんのある小さな領域へと集束させることができるため、がん治療に利用されています。がん治療には5.00gのCo-60の試料を利用することができます。
(a)その試料のBqでの放射能は何ですか?
(b)その試料のCiでの放射能は何ですか?

解法

放射能は以下のように与えられます:

\[ 放射能 = λN =\left(\frac{\ln 2}{t_{1/2}}\right)N =\left(\frac{\ln 2}{5.26\ 年}\right)× \rm 5.00\ g = 0.659\frac{g}{年}の\ Co−60\ 崩壊 \]

これを1秒あたりの崩壊に換算すると:

\[ \begin{array}{ll} \rm 0.659\ \frac{g}{年}×\frac{1\ 年}{365\ 日}×\frac{1\ 日}{24\ 時間}×\frac{1\ 時間}{3600\ 秒}×\frac{1\ mol}{59.9\ g}×\frac{6.02 × 10^{23}\ 個の原子}{1\ mol}×\frac{1\ 崩壊}{1\ 個の原子}\\ = 2.10 × 10^{14}\frac{崩壊}{秒}\\ \end{array} \]

(a)1 Bq = 1 崩壊/秒なので、ベクレル(Bq)での放射能は:

\[ \rm 2.10 × 10^{14}\frac{崩壊}{秒}×\frac{1\ Bq}{1\frac{崩壊}{秒}} = 2.10 × 10^{14}\ Bq\\ \]

(b)1 Ci = 3.7 × 10¹¹崩壊/秒なので、キュリー(Ci)での放射能は:

\[ \rm 2.10 × 10^{14}\frac{崩壊}{秒}×\frac{1\ Ci}{3.7×10^{11}\frac{崩壊}{秒}} = 5.7 × 10^2\ Ci\\ \]

学習内容の確認

トリチウムは水素の放射性同位体(t1/2 = 12.32 年)であり、トリチウムの放射性崩壊で放出された電子がリンを発光させる自己動力式照明を含むいくつかの用途があります。トリチウムの原子核は陽子1個と中性子2個を含み、トリチウムの原子質量は3.016 amuです。1.00mgのトリチウムを含む試料の放射能は、(a)Bqで、(b)Ciで何ですか?

解答:(a)3.56 × 10¹¹Bq、(b)0.962 Ci


長期放射線被曝の人体への影響

放射線の影響は、放射線源の種類、エネルギー、および場所、そして被曝の長さに依存します。図21. 37に示されるように、平均的な人は、太陽からの宇宙線や地中のウランからのラドン(「日常生活の中の化学」の「ラドン被曝」の囲み記事を参照)、CATスキャン、放射性同位体検査、X線などを含む医療被曝からの放射線、その他の人間活動からの少量の放射線、たとえば、飛行機での飛行(上層大気で増大した数の宇宙線を浴びることになります)、消費者製品からの放射能、そして呼吸の際(たとえば、炭素-14)や食物連鎖を通じて(たとえば、カリウム-40、ストロンチウム-90、ヨウ素-131)を介して私たちの体内に入るさまざまな放射性核種などの背景放射線にさらされています。

図21.37 | 米国における人の年間総放射線被曝量は約620mremです。さまざまな放射線源とその相対量が棒グラフで示されています。(source: U.S. Nuclear Regulatory Commission)

短期間に突然大量の放射線を浴びると、血液の化学的性質の変化から死亡に至るまで、幅広い健康への影響を引き起こす可能性があります。数十レムの放射線を短期的に浴びると、非常に顕著な症状や病気を引き起こす可能性が高いです。約500レムの線量では、被曝後30日以内に50%の確率で犠牲者が死亡すると推定されています。放射線の放出への被曝は、人の一生の間に累積的に身体に影響を及ぼします。これが、不必要な放射線への被曝を避けることが重要であるもう1つの理由です。短期間の放射線被曝による健康への影響が、表21.5に示されています。

表21.5

イオン化放射線へのある程度の被曝を避けることは不可能です。私たちは、宇宙線、岩石、医療処置、消費者製品、さらには私たち自身の原子を含むさまざまな自然発生源からの背景放射線に常にさらされています。私たちは、放射線を遮断・遮蔽したり、放射線源から遠くに移動したり、被曝時間を制限したりすることによって、被曝を最小限に抑えることができます。

重要用語

アルファ(α)崩壊:放射性崩壊時の1つのα粒子の消失

α粒子(α または \(\rm _2^4He\) または \(\rm _2^4 α\)):高エネルギーヘリウム原子核。2つの陽子と2つの中性子を含み、2つの電子を失っているヘリウム原子

反物質:通常の粒子と同じ質量を持っているが、反対の性質(電荷など)である粒子

安定性の帯(または、安定性のベルト、安定性の領域、安定性の谷):陽子の数と中性子の数とのグラフにおいて、安定した(非放射性)核種を含む領域

ベクレル(Bq):放射性崩壊の速度を表すSI単位、1Bq = 1崩壊/s

ベータ(β)崩壊:1つの中性子が、1つの陽子(原子核に残る)と1つの電子(β粒子として放出される)に分解されること

β粒子(β または \(\rm _{−1}^0 e\) または \(\rm _{−1}^0 β\)):高エネルギーの電子

核子1個あたりの結合エネルギー:原子核の総結合エネルギーを原子核の中の核子の数で割ったもの

連鎖反応:核分裂で放出された中性子が他の原子に衝突する際に引き起こされる繰り返しの核分裂

化学療法:内部放射線療法に似ているが、放射性物質ではなく化学物質を体内に導入してがん細胞を死滅させる

格納容器系(または、遮蔽体):核分裂炉の外部と作業員を炉内の高温、高圧、高放射線レベルから保護するような材料で構成された3つの構造

制御棒:中性子を吸収する燃料集合体へと挿入され、核分裂反応の速度を調整するために上げたり下げたりすることができる材料

臨界質量:自立的な(核分裂)連鎖反応を支えることのできるような、核分裂可能な物質の量

キュリー(Ci):医療で頻繁に使われる放射性崩壊の速度を表す大きな単位。1 Ci = 3.7 × 10¹⁰崩壊/秒

娘核種:他の核種の放射性崩壊によって生成された核種。安定であることもさらに崩壊することもある

電子捕獲:1つの内殻電子と1つの陽子の結合であって、原子核の中に1つの中性子を得る

電子ボルト(eV):核の結合エネルギーの測定単位で、1eVは1ボルトの電位差を横切って1つの電子を移動させることによるエネルギー量に等しい

外部ビーム放射線療法:体外にある機械から照射される放射線

核分裂性(または、核分裂可能):物質が自立的な核分裂反応を行うことができるとき

核分裂:1つの重い原子核を2つかそれ以上の軽い原子核に分割するものであって、通常は質量から大量のエネルギーへの変換を伴う

核融合:非常に軽い原子核を重い原子核へと結合するものであって、質量から大量のエネルギーへの変換を伴う

核融合炉:軽い核の核融合反応を制御する原子炉

ガンマ(γ)放出:ガンマ線の放出を伴う、励起状態の核種の崩壊

ガンマ線(γまたは\(\rm _0^0 γ\)):波動-粒子の二重性を示す短波長、高エネルギーの電磁放射

ガイガーカウンター:ガイガー-ミュラー管内で発生するイオン化を利用して放射線を検出・測定する装置

グレイ(Gy):放射線量を測定するSI単位。1 Gy = 1 Jの吸収/組織kg

半減期(t1/2):放射性試料中の原子の半分が崩壊するのに必要な時間

内部放射線療法(または、小線源療法):放射性物質からの放射線を体内に導入してがん細胞を死滅させる

イオン化放射線:分子に対して電子を失わせてイオンを形成させることのできる放射線

魔法数:安定性の帯の中にある特定の数の核子を持つ原子核

質量欠損:1つの原子の質量と、その構成要素である素粒子の合計質量との間の差(または、核子がまとまって原子核を形成するときに「失われた」質量)

質量-エネルギーの等価式:アルバート・アインシュタインによる、質量とエネルギーが等価であることを示す関係性

ミリキュリー(mCi):医療で頻繁に使われる放射性崩壊の速度を表す大きな単位。1 Ci = 3.7 × 10¹⁰崩壊/秒

非イオン化放射線:原子や分子の動きを加速させる放射線。それは試料を加熱するのと同等であるが、分子のイオン化を引き起こすほどのエネルギーはない

核の結合エネルギー:原子の核子が結合したときに失われるエネルギー(または、原子核をその構成要素の陽子と中性子に分解するために必要なエネルギー)

核化学:原子核の構造と核構造を変化させる過程についての研究

核燃料:原子炉内で自立的な連鎖反応を起こすのに十分な量で存在する核分裂可能な同位体

核減速材:核分裂を起こすのに十分な速度まで中性子を減速させる物質

核反応:原子番号、質量数、またはエネルギー状態の変化をもたらす原子核の変化

原子炉:核分裂によってエネルギーを生成する環境で、連鎖反応が爆発することなく制御・維持されている

核変換:ある核種が別の核種に変換されること

核子:原子核内の陽子と中性子の総称

核種:特定の同位体の原子核

親核種:自発的に別の(娘)核種へと変化する不安定な核種

粒子加速器:電場や磁場を利用して核変換反応に用いる原子核の運動エネルギーを増大させる装置

陽電子( \(\rm _{+1}^0 β\) または \(\rm _{+1}^0 e\)):電子に対する反粒子。陽電子は、電子と反対の(正の)電荷を持つことを除いては、電子と同じ性質を持つ

陽電子放出(または、β⁺崩壊):1つの陽子が、1つの中性子(原子核に残る)と1つの陽電子(放出される)に変換すること

放射線の吸収線量(ラド、rad):医療分野で頻繁に使われる放射線量を測定するSI単位。1 rad = 0.01 Gy

放射線量計:イオン化放射線を測定し、個人の放射線被曝量を判断するために使われる装置

放射線療法:高エネルギー放射線を用いてがん細胞のDNAを損傷させ、がん細胞を死滅させたり、細胞分裂を阻止したりする

放射性崩壊:不安定な核種から別の核種への自発的な崩壊

放射性崩壊系列:最終的に安定した最終生成物に至るような、一連の分裂(放射性崩壊)の鎖

放射性トレーサー(または、放射性ラベル):放射性同位体で、その放射性放出を監視することにより物質を追跡するために使用される

放射能:不安定な核子が自発的により安定な核子へと変化することによって示される現象。不安定な核子は放射性であると言われる

放射性炭素年代測定:かつて生きていた物質に由来する3万年から5万年前の対象物の年代測定についての非常に正確な方法。対象物中の\(\rm _6^{14}C: _6^{12} C\)の比率と、現在の大気中の\(\rm _6^{14}C: _6^{12} C\)の比率を計算することによって行われる

放射性同位体:不安定な同位体で、別のより安定な同位体への変換を起こすもの

放射性年代測定:放射性同位体とその性質を利用して、考古学的な人工物、かつての生物、または地質学的形成などの対象物が形成された年代を測定する

原子炉冷却材:原子炉での核分裂によって発生した熱を外部のボイラーやタービンに運び、電気に変換するために使われる設備

相対的生物学的効果比(RBE):放射線による相対的な損傷の尺度

人間のレントゲン当量(レム、rem):医療で頻繁に使われる放射線による損傷の単位。100 rem = 1 Sv

シンチレーションカウンター:イオン化放射線によって励起されたときに発光する物質であるシンチレーターを用いて放射線を検出・測定する装置

シーベルト(Sv):放射線によって引き起こされる組織損傷を測定するSI単位。放射線のエネルギーと生物学的効果を考慮に入れている

強い核力:核子の間の引力で原子核をまとめて保持する

臨界未満質量:連鎖反応を維持することのできない核分裂可能な物質の量。臨界質量より小さい

超臨界質量:核分裂の速度が増加していくような物質の量

核変換反応:ある種類の原子核に他の原子核や中性子を衝突させること

超ウラン元素:原子番号が92を超える元素。これらの元素は自然界には存在しない

重要な方程式

\(•E = mc^2\)
\(•崩壊速度 = λN\)
\(•t_{1/2} =\frac{\ln 2}{λ}=\frac{0.693}{λ}\)
\(•\rm rem = RBE × rad\)
\(•\rm Sv = RBE × Gy\)

この章のまとめ

21.1 核の構造と安定性

原子核は陽子と中性子からなり、それらは総称して「核子」と呼ばれます。陽子は互いに反発し合っていますが、原子核は、強い核力と呼ばれる短い距離ではあるものの非常に強い力によってしっかりとまとめて保持されています。原子核は、原子核を構成する核子の質量の合計よりも少ない質量を有しています。この「欠けている」質量が質量欠損であり、アインシュタインの質量-エネルギーの等価式E = mc²に従って、原子核をまとめて保持する結合エネルギーへと変換されたものです。多くの核種が存在する中で、安定な核種はごく少数です。偶数個の陽子や中性子を持つ核種や、魔法数の核子を持つ核種は、特に安定である可能性が高いです。これらの安定な核種は、陽子の数と中性子の数とのグラフ上で安定性の狭い帯を占めています。核子1個あたりの結合エネルギーは、質量数が56に近い元素で最も大きくなります。これらは最も安定な原子核です。

21.2 核反応式

原子核は、その陽子の数、中性子の数、またはエネルギー状態を変化させる反応を起こすことができます。核反応には多くの異なる粒子が関与しています。最も一般的なものは、陽子、中性子、陽電子(正に帯電した電子)、アルファ(α)粒子(高エネルギーのヘリウム原子核)、ベータ(β)粒子(高エネルギーの電子)、およびガンマ(γ)線(高エネルギーの電磁放射を構成する)です。核反応は、化学反応と同じように、常にバランスが取れています。核反応が起こるときには、全体の質量(数)と全体の電荷は変化しません。

21.3 放射性崩壊

不安定なn:p比率を持つ原子核は、自発的に放射性崩壊を起こします。最も一般的な放射能の種類は、α崩壊、β崩壊、γ放出、陽電子放出、および電子捕獲です。また、核反応にはしばしばγ線が含まれていることがあり、電子捕獲によって崩壊する原子核もあります。これらの崩壊様式はそれぞれ、より安定なn:p比率を持つ新しい原子核の生成へとつながります。いくつかの物質は、安定な同位体で終わるまで複数の崩壊を経るような放射性崩壊系列をたどります。核崩壊の過程はすべて1次の反応速度論に基づいており、放射性同位体ごとに特徴的な半減期(原子の半分が崩壊するのに必要な時間)を有しています。核種の間の安定性の差が大きいため、放射性物質の半減期は、非常に広範囲にわたっています。これらの物質の多くは、医学的な診断や治療、考古学や地質学的な対象物の年代判定などの有用な応用が見出されています。

21.4 変換と核エネルギー

他の原子に原子核や高速粒子を衝突させることによって、新しい原子を生成することができます。これらの核変換反応の生成物は、安定なものもあれば放射性のものもあります。テクネチウム、アスタチン、および超ウラン元素を含む多くの人工元素がこの方法で生成されています。

原子力発電や核兵器の爆発は、核分裂(重い原子核が2つかそれ以上の軽い原子核と数個の中性子に分裂する反応)によって発生します。中性子が他の重い原子核と結合すると、さらなる核分裂反応を引き起こすことがあるため、連鎖反応を起こすことが可能です。核分裂プロセスが原子炉の中で行われると有用な電力が得られます。また、軽い原子核から重い原子核への変換(核融合)もエネルギーを生み出します。現在のところ、このエネルギーは十分に閉じ込められておらず、コストが高すぎて商業的なエネルギー生産は不可能です。

21.5 放射性同位体の利用

放射性トレーサーとして知られる化合物は、反応の観察、物質の分布の追跡、病状の診断や治療などに使用することができます。その他の放射性物質は、害虫の駆除、構造物の可視化、火災警報の提供など、多くの用途とって有用なものです。米国では、半減期が比較的短い多種多様な放射性同位体を用いて、毎年何億回もの核医学検査や処置が行われています。これらの放射性同位体のほとんどは半減期が比較的短く、中には医療施設において現場で作らなければならないほど短いものもあります。放射線治療は、高エネルギーの放射線を使用して、がん細胞のDNAに損傷を与えることによりがん細胞を死滅させます。この治療に使用される放射線は、外部から照射されることもあれば内部から照射されることもあります。

21.6 放射線の生物学的影響

私たちは、さまざまな自然に発生する源や人間が作り出した源からの放射線に常にさらされています。この放射線は生物に影響を与える可能性があります。イオン化放射線は、分子をイオン化させたり、化学結合を壊したりして、分子に損傷を与え、細胞プロセスの不具合を引き起こすため、最も有害です。それはまた、反応性のあるヒドロキシルラジカルを生成し、それが生体分子を損傷させたり、生理学的プロセスを混乱させたりすることもあります。放射線は身体的損傷や遺伝的損傷を引き起こすことがあり、急速に複製する細胞に対して最も有害です。放射線の種類によって、物質を透過して組織に損傷を与える能力が異なります。アルファ粒子は最も透過性が低いですが最も大きな損傷を与える可能性があり、ガンマ線は最も透過性が高いです。

ガイガーカウンター、シンチレーター、線量計などを含むさまざまな装置が、放射線の検出・測定、および放射線被曝の監視に使用されています。私たちは、放射線の測定のためにいくつかの単位を使用します:放射性崩壊の速度を表すベクレルまたはキュリー、吸収されたエネルギーを表すグレイまたはラド、そして放射線の生物学的影響を表すレムまたはシーベルトです。放射線への曝露は、軽度のものから重度のものまで、幅広い健康への影響を引き起こす可能性があり、そこには死亡も含まれます。私たちは、鉛のような密度の高い物質で遮蔽したり、放射線源から離れたり、被曝時間を制限したりすることにより、放射線の影響を最小限に抑えることができます。

練習問題

21.1 核の構造と安定性

1.以下の同位体をハイフンがついた形式(例:「炭素-14」)で書いてください。
\(\rm (a)_{11}^{24} Na\)
\(\rm (b)_{13}^{29} Al\)
\(\rm (c)_{36}^{73} Kr\)
\(\rm (d)_{77}^{194} Ir\)

2.以下の同位体を核種の表記(例:「\(\rm _6^{14}C\)」)で書いてください。
(a)酸素-14
(b)銅-70
(c)タンタル-175
(d)フランシウム-217

3.以下の情報が欠落している同位体について、欠落している情報を記入して表記を完成させてください。
\(\rm (a)_{14}^{34} X\)
\(\rm (b)_{X}^{36} P\)
\(\rm (c)_{X}^{57} Mn\)
\(\rm (d)_{56}^{121} X\)

4.練習問題21.1のそれぞれの同位体について、その同位体の中性原子に含まれる陽子、中性子、電子の数を決定してください。

5.以下のような特徴を持つ原子について、該当する場合は電荷も含めて、核種の表記を書いてください:
(a)陽子25個、中性子20個、電子24個
(b)陽子45個、中性子24個、電子43個
(c)陽子53個、中性子89個、電子54個
(d)陽子97個、中性子146個、電子97個

6.\(\rm _{12}^{24} Mg\)の原子核の密度をg/mLで計算してください。その核は、1×10⁻¹³cmという典型的な核の直径を持ち、球の形状であると仮定してください。

7.核反応と通常の化学的変化との主な違いは何ですか?

8.原子\(\rm _{11}^{23} Na\)の質量は22.9898 amuです。
(a)原子1個あたりの結合エネルギーをメガ電子ボルトで計算してください。
(b)核子1個あたりの結合エネルギーを計算してください。

9.以下の原子核のうち、図21.2に示される安定性の帯の中にあるものはどれですか?
(a)塩素-37
(b)カルシウム-40
(c)\(\rm ^{204} Bi\)
(d)\(\rm ^{56} Fe\)
(e)\(\rm ^{206} Pb\)
(f)\(\rm ^{211} Pb\)
(g)\(\rm ^{222} Rn\)
(h)炭素-14

10.以下の原子核のうち、図21.2に示される安定性の帯の中にあるものはどれですか?
(a)アルゴン-40
(b)酸素-16
(c)\(\rm ^{122} Ba\)
(d)\(\rm ^{58} Ni\)
(e)\(\rm ^{205} Tl\)
(f)\(\rm ^{210} Tl\)
(g)\(\rm ^{226} Ra\)
(h)マグネシウム-24

21.2 核反応式

11.以下のそれぞれの項目についての簡単な説明または定義を書いてください:
(a)核子
(b)α粒子
(c)β粒子
(d)陽電子
(e)γ線
(f)核種
(g)質量数
(h)原子番号

12.核反応で生成される可能性のあるさまざまな粒子(α粒子、β粒子など)のうち、実際に原子核であるものはどれですか?

13.以下のそれぞれの反応式を、欠落している種を加えることにより完成させてください:
\(\rm (a) _{13}^{27} Al +\ _{2}^{4} He ⟶\ ? +\ _0^1 n\)
\(\rm (b) _{94}^{239} Pu + \ ? ⟶\ _{96}^{242} Cm +\ _0^1 n\)
\(\rm (c) _{7}^{14} N +\ _{2}^{4} He ⟶\ ? +\ _1^1 H\)
\(\rm (d) _{92}^{235} U ⟶\ ? +\ _{55}^{135} Cs + 4\ _0^1 n\)

14.以下のそれぞれの反応式を完成させてください:
\(\rm (a) _{3}^{7} Li +\ ? ⟶ 2\ _2^4 He\)
\(\rm (b) _{6}^{14} C ⟶\ _{7}^{14} N +\ ?\)
\(\rm (c) _{13}^{27} Al +\ _2^4 He ⟶\ ? +\ _0^1 n\)
\(\rm (d) _{96}^{250} Cm ⟶\ ? +\ _{38}^{98} Sr + 4\ _0^1 n\)

15.以下のそれぞれの核反応について、バランスの取れた反応式を書いてください:
(a)α粒子の衝突により、14Nから17Oが生成される
(b)中性子の衝突により、14Nから14Cが生成される
(c)中性子の衝突により、232Thから233Thが生成される
(d)\(\rm _1^2 H\)の衝突により、238Uから239Uが生成される

16.テクネチウム-99は98 Moから調製されます。モリブデン-98は中性子と結合してモリブデン-99という不安定な同位体となり、β粒子を放出して励起された形のテクネチウム-99(\(\rm ^{99}Tc ^*\)として表されます)を生成します。この励起された原子核は、γ線を放出することにより、基底状態(\(\rm ^{99}Tc\)として表されます)へと緩和されます。そして、\(\rm ^{99}Tc\)の基底状態からβ粒子が放出されます。これらの核反応のそれぞれについて反応式を書いてください。

17.原子\(\rm _9^{19}F\)の質量は18.99840 amuです。
(a)原子1個あたりの結合エネルギーをメガ電子ボルトで計算してください。
(b)核子1個あたりの結合エネルギーを計算してください。

18.反応\(\rm _6^{14} C ⟶\ _7^{14} N +\ ?\)について、もし100.0 gの炭素が反応した場合、273K、1 atmでどれだけの体積の窒素気体(N₂)が生成されますか?

21.3 放射性崩壊

19.放射性元素の原子核から放出される放射線にはどのような種類がありますか?

20.以下のそれぞれの崩壊シナリオでは、原子番号と原子核の質量はどのように変化しますか?
(a)1つのα粒子が放出される
(b)1つのβ粒子が放出される
(c)γ線が放出される
(d)1つの陽電子が放出される
(e)1つの電子が捕獲される

21.以下の崩壊のシナリオによって生じる原子核の変化は何ですか?
(a)1つのβ粒子の放出
(b)1つのβ⁺粒子の放出
(c)1つの電子の捕獲

22.原子番号が83を超える核種の多くは、電子放出のような過程によって崩壊します。これらの不安定な核種からの放出には通常はα粒子も含まれている、という観察について説明してください。

23.なぜ電子捕獲はX線の放出を伴うのでしょうか?

24.図21.2の観点から、不安定な重い核種(原子番号 > 83)がどのように分解してより安定な核種を形成するのかについて、(a)それらが安定性の帯よりも下にある場合と、(b)安定性の帯よりも上にある場合とで、それぞれ説明してください。

25.以下の原子核のうち、陽電子放出によって崩壊する可能性が最も高いのはどれですか?あなたの選択について説明してください。
(a)クロム-53
(b)マンガン-51
(c)鉄-59

26.以下の原子核は安定性の帯の中にはありません。それらはどのようにして崩壊すると予想されますか?あなたの答えを説明してください。
\(\rm (a) _{15}^{34} P\)
\(\rm (b) _{92}^{239} U\)
\(\rm (c) _{20}^{38} Ca\)
\(\rm (d) _{1}^{3} H\)
\(\rm (e) _{94}^{245} Pu\)

27.以下の原子核は安定性の帯の中にはありません。それらはどのようにして崩壊すると予想されますか?
\(\rm (a) _{15}^{28} P\)
\(\rm (b) _{92}^{235} U\)
\(\rm (c) _{20}^{37} Ca\)
\(\rm (d) _{3}^{9} Li\)
\(\rm (e) _{96}^{245} Cm\)

28.以下の不安定な同位体のそれぞれが、どのような様式で自発的に放射性崩壊を起こすかを予測してください:
\(\rm (a) _{2}^{6} He\)
\(\rm (b) _{30}^{60} Zn\)
\(\rm (c) _{91}^{235} Pa\)
\(\rm (d) _{94}^{241} Np\)
\(\rm (e) ^{18} F\)
\(\rm (f) ^{129} Ba\)
\(\rm (g) ^{237} Pu\)

29.\(\rm _{98}^{238} U\)から\(\rm _{84}^{218} Po\)が形成される際のそれぞれの段階の核反応を書いてください。それは、α粒子、β粒子、β粒子、α粒子、α粒子、α粒子の順に段階的に放出される一連の崩壊反応によって進行します。

30.\(\rm _{90}^{228} Th\)から\(\rm _{82}^{208} Pb\)が形成される際のそれぞれの段階の核反応を書いてください。それは、α粒子、α粒子、α粒子、α粒子、β粒子、β粒子、α粒子の順に段階的に放出される一連の崩壊反応によって進行します。

31.半減期という言葉を定義し、例を挙げて説明してください。

32.ノーベリウム\(\rm _{102}^{254} No\)の1.00×10⁻⁶gの試料は、形成されてからの半減期が55秒です。以下の時刻に\(\rm _{102}^{254} No\) が残っている割合は何%ですか?
(a)形成された5分後
(b)形成された1時間後

33.239Puは半減期が2万4000年の核廃棄物の副生成物です。現在の239Puのうち、1000年後に存在する割合はどれだけですか?

34.同位体208Tlは半減期3.1分でβ崩壊します。
(a)この崩壊によって生成される同位体は何ですか?
(b)純粋な208Tlの試料の99.0%が崩壊するまでにはどれだけの時間がかかりますか?
(c)純粋な208Tlの試料は、1.0時間後に何%が崩壊せずに残っていますか?

35.もし1.000 gの\(\rm _{88}^{226} Ra\)が24時間のうちにSTP(標準温度・標準圧力)で0.0001 mLの\(\rm _{86}^{222} Rn\)気体を生成した場合、\(\rm ^{226} Ra\)の半減期は何年ですか?

36.同位体\(\rm _{38}^{90} Sr\)は、原子力発電の残留物に含まれる非常に危険な種の1つです。0.500gの試料中のストロンチウムは10.0年で0.393gに減少します。半減期を計算してください。

37.テクネチウム-99は、ある種のテクネチウム化合物が損傷した組織に吸収されるため、心臓、肝臓、肺の損傷を評価するためにしばしば使用されます。テクネチウム-99の半減期は6.0時間です。\(\rm _{43}^{99} Tc\)の崩壊の速度定数を計算してください。

38.元の量の8.25%の14Cを含む霊長類のミイラ化した皮膚の年代は何ですか?

39.ある岩石の試料は、ルビジウム-87を8.23mg、ストロンチウム-87を0.47mg含んでいることがわかりました。
(a)β放出によるルビジウムの崩壊の半減期が4.7×10¹⁰年である場合、この岩石の年代を計算してください。
(b)当初にこの岩石の中にいくらかの\(\rm _{38}^{87} Sr\)が存在していた場合、その岩石は(a)で計算した年代よりも新しいでしょうか、古いでしょうか、それとも同じでしょうか?あなたの答えを説明してください。

40.あるウラン鉱石の試料は、\(\rm _{92}^{238} U\)を5.37 mg、\(\rm _{82}^{206} Pb\)を2.52 mg含んでいることが、実験室での調査でわかりました。この鉱石の年代を計算してください。\(\rm _{92}^{238} U\)の半減期は4.5×10⁹年です。

41.プルトニウムは、1941年にグレン・シーボーグと彼の同僚によって、天然ウラン鉱床から微量に検出されました。彼らは、この239Puの源は238Uの原子核が中性子を捕獲したものであると提案しました。なぜこのプルトニウムは、4.7×10⁹年前の太陽系形成時に閉じ込められたものでない可能性が高いのでしょうか?

42.1つの\(\rm _4^7 Be\)原子(質量 = 7.0169 amu)は、電子捕獲によって\(\rm _3^7 Li\)原子(質量 = 7.0160 amu)に崩壊します。この反応によって、どれだけのエネルギー(メガ電子ボルト、MeV単位)が生成されますか?

43.1つの\(\rm _5^8 B\)原子(質量 = 8.0246 amu)は、β⁺粒子(質量 = 0.00055 amu)の喪失または電子捕獲によって\(\rm _4^8 B\)原子(質量 = 8.0053 amu)に崩壊します。この反応によって、どれだけのエネルギー(メガ電子ボルト単位)が生成されますか?

44.26Al(半減期:7.2×10⁵年)などの同位体は、太陽系が形成されたときには存在していたと考えられていますが、その後崩壊し、現在では消滅核種と呼ばれています。
(a)26Alはβ⁺放出または電子捕獲によって崩壊します。この2つの核変換についての反応式を書いてください。
(b)地球は約4.7 × 10⁹年前(約47億年前)に形成されました。元々存在していた26Alの99.999999%が崩壊した時の地球の年齢は何ですか?

45.以下のそれぞれの核反応について、バランスの取れた反応式を書いてください:
(a)ビスマス-212がポロニウム-212へと崩壊する
(b)ある不安定な原子核の崩壊により、ベリリウム-8と1つの陽電子が生成される
(c)ウラン238と1つの中性子が反応してネプツニウム-239が生成し、その後で自発的にプルトニウム-239へと変換する
(d)ストロンチウム-90がイットリウム-90へと崩壊する

46.以下のそれぞれの核反応について、バランスの取れた反応式を書いてください:
(a)水銀-180が白金-176へと崩壊する
(b)ある不安定な原子核の崩壊により、ジルコニウム-90と1つの電子が生成される
(c)トリウム-232が崩壊して1つのα粒子とラジウム-228原子核を生成し、それがβ崩壊によりアクチニウム-228へと崩壊する
(d)ネオン-19がフッ素-19へと崩壊する

21.4 変換と核エネルギー

47.以下の超ウラン元素の生成について、バランスの取れた核反応式を書いてください:
(a)Am-241とHe-4の反応により生成されるバークリウム-244
(b)Pu-239と多数の中性子の反応により生成されるフェルミウム-254
(c)Cf-250とB-11の反応により生成されるローレンシウム-257
(d)Cf-249とN-15の反応により生成されるドブニウム-260

48.核分裂と核融合はどのように異なりますか?どちらの過程も発熱性であるのはなぜですか?

49.核融合も核分裂も核反応です。核融合には非常に高い温度が必要ですが、核分裂には必要ではないのはなぜですか?

50.核の連鎖反応が起こるために必要な条件を挙げてください。爆発を起こさないように制御してエネルギーを発生させる方法を説明してください。

51.原子炉の構成要素を記述してください。

52.通常の実践では、エネルギー生産を目的とした核連鎖反応を安全に運用するためには、減速材と制御棒の両方が必要です。それぞれの機能を述べて、なぜ両方が必要なのかを説明してください。

53.原子力発電所において、ウランのポテンシャルエネルギーがどのようにして電気エネルギーへと変換されるかを記述してください。

54.水素原子(\(\rm _1^1H\))の質量は1.007825 amu、トリチウム原子(\(\rm _1^3 H\))の質量は3.01605 amu、α粒子の質量は4.00150 amuです。以下の核融合反応によって、生成される\(\rm _2^4He\)の1モルあたりで何キロジュールのエネルギーが放出されますか?
\(\rm _1^1 H +\ _1^3 H ⟶\ _2^4 He\)

21.5 放射性同位体の利用

55.どのようにして放射性核種を使えば、以下の平衡:
AgCl(s) ⇌ Ag⁺(aq) + Cl⁻(aq)
が動的平衡であることを示すことができるでしょうか?

56.テクネチウム-99mの半減期は6.01時間です。もしテクネチウム-99mを注射された患者が、投与量の75%が崩壊したときには退院しても安全であるならば、この患者はいつ退院することができるでしょうか?

57.体内に入ったヨウ素は甲状腺に貯蔵され、そこから放出されて成長や代謝を制御します。ヨウ素-131を体内に注入すると甲状腺の画像撮影ができます。また、より大量に投与されることにより、I-131は甲状腺がんの治療手段として使われることもあります。I-131の半減期は8.70日であり、β-放出により崩壊します。
(a)この崩壊についての反応式を書いてください。
(b)I-131の投与量の95.0%が崩壊するまでにどれだけの時間がかかりますか?

21.6 放射線の生物学的影響

58.ある病院が放射性同位体を保管する場合、防護のために必要な最低限の格納容器は何ですか:
(a)コバルト-60(放射線治療に使用される強力なγ放射体)
(b)モリブデン-99(画像撮影用のテクネチウム-99を生成するために使用されるβ放射体)

59.ラドン-222の主要な崩壊方法について知られていることに基づくと、なぜ吸入がそれほど危険なのでしょうか?

60.同じ質量のウラン-232(t1/2 = 68.9 年)とウラン-233(t1/2 = 15万9200 年)の試料があるとしたら、どちらの方がより大きな放射能を有していますか?また、それはなぜですか?

61.ある科学者がトリウム-229(t1/2 = 7340 年)の2.234 gの試料を実験室で研究しています。
(a)その放射能はBqでは何ですか?
(b)その放射能はCiでは何ですか?

62.同じ質量のネオン-24(t1/2 = 3.38分)とビスマス-211(t1/2 = 2.14分)の試料があるとしたら、どちらの方がより大きな放射能を有していますか?また、それはなぜですか?

解答のヒント

1.(a)ナトリウム-24、(b)アルミニウム-29、(c)クリプトン-73、(d)イリジウム-194

3.\(\rm (a)_{14}^{34} Si、(b)_{15}^{36} P、(c)_{25}^{57} Mn、(d)_{56}^{121} Ba\)

5.\(\rm (a)_{25}^{45} Mn^{+1}、(b)_{45}^{69} Rh^{+2}、(c)_{53}^{142} I^{−1}、(d)_{97}^{243} Bk\)

7.核反応は通常、ある種の原子核を別の原子核に変化させます。化学的変化は原子を再配列させます。核反応は化学反応よりもはるかに大きなエネルギーが伴い、測定可能な質量の変化もあります。

9.(a)、(b)、(c)、(d)、および(e)

11.(a)核子は、原子の原子核に含まれる任意の粒子であり、陽子や中性子のことを指します。(b)α粒子は、自然の放射能の生成物の1つであり、ヘリウム原子の原子核です。(c)β粒子は、自然の放射能の生成物であり、高速の電子です。(d)陽電子は、電子と同じ質量を持ち、正の電荷を持つ粒子です。(e)ガンマ線は、高エネルギーで短波長の電磁放射を構成しています。(f)核種は、単一の種類の原子核を指すときに使われる用語です。(g)質量数は、ある元素の中の陽子の数と中性子の数の合計です。(h)原子番号は、ある元素の原子核に含まれる陽子の数です。

13.
\(\rm (a)_{13}^{27} Al +\ _2^4 He ⟶\ _{15}^{30} P +\ _0^1 n\)
\(\rm (b)_{94}^{239} Pu +\ _2^4 He ⟶\ _{96}^{242} Cm +\ _0^1 n\)
\(\rm (c)_{7}^{14} N +\ _2^4 He ⟶\ _{8}^{17} O +\ _1^1 H\)
\(\rm (d)_{92}^{235} U ⟶\ _{37}^{96} Rb +\ _{55}^{135} Cs +\ 4\ _0^1 n\)

15.
\(\rm (a)_{7}^{14} N +\ _2^4 He ⟶\ _{8}^{17} O +\ _1^1 H\)
\(\rm (b)_{7}^{14} C +\ _0^1 n ⟶\ _{6}^{14} C +\ _1^1 H\)
\(\rm (c)_{90}^{232} Th +\ _0^1 n ⟶\ _{90}^{233} Th\)
\(\rm (d)_{92}^{238} U +\ _1^2 H ⟶\ _{92}^{239} U +\ _1^1 H\)

17.(a)148.8 MeV/原子、(b)7.808 MeV/核子

19.放射性元素からは、α(ヘリウム原子核)、β(電子)、β⁺(陽電子)、η(中性子)が放出されることがありますが、これらはすべて粒子です。γ線も放出されることがあります。

21.(a)中性子から陽子への変換:
\(\rm _0^1 n ⟶\ _1^1 p +\ _{+1}^0 e\)
(b)中性子から陽子への変換。陽電子は電子と同じ質量を持ち、電子が持つ負の電荷と同じ大きさの正の電荷を持ちます。原子核のn:p比率が低すぎると、陽電子が放出されて陽子が中性子に変換されます:
\(\rm _1^1 p ⟶\ _0^1 n +\ _{+1}^0 e\)
(c)陽子が豊富な原子核では、原子の内側の電子が吸収されることがあります。最も単純な形では、これは陽子を中性子に変えます:
\(\rm _1^1 p +\ _{-1}^0 e ⟶\ _0^1 p\)

23.原子核に引き込まれた電子は1s軌道にあった可能性が最も高いです。その電子を置き換えるために別の電子が高いエネルギー準位から落下すると、置換する電子の2つのエネルギー準位のエネルギー差がX線として放出されます。

25.マンガン-51は陽電子放出により崩壊する可能性が最も高いです。Cr-53のn:p比率は29/24=1.21、Mn-51のn:p比率は26/25=1.04、Fe-59のn:p比率は33/26=1.27です。陽電子崩壊はn:p比率が低いときに起こります。Mn-51はn:p比率が最も低いため、陽電子放出によって崩壊する可能性が最も高いです。また、\(\rm _{24}^{53} Cr\)は安定同位体であり、\(\rm _{26}^{59} Fe\)はβ放出により崩壊します。

27.(a)β崩壊、(b)α崩壊、(c)陽電子放出、(d)β崩壊、(e)α崩壊

29.
\(\rm _{92}^{238} U ⟶\ _{90}^{234} Th +\ _2^4 He\)
\(\rm _{90}^{234} Th ⟶\ _{91}^{234} Pa +\ _{-1}^{0} e\)
\(\rm _{91}^{234} Pa ⟶\ _{92}^{234} U +\ _{-1}^{0} e\)
\(\rm _{92}^{234} U ⟶\ _{90}^{230} Th +\ _2^4 He\)
\(\rm _{90}^{230} Th ⟶\ _{88}^{226} Ra +\ _2^4 He\)
\(\rm _{88}^{226} Ra ⟶\ _{86}^{222} Rn +\ _2^4 He\)
\(\rm _{86}^{222} Rn ⟶\ _{84}^{218} Po +\ _2^4 He\)

31.半減期とは、試料中の原子の半分が崩壊するまでに必要な時間のことです。例(答えは異なるものであり得ます):C-14の半減期は5770年です。C-14の10gの試料は5770年後に5gのC-14を含むことになり、C-14の0.20gの試料は5770年後に0.10gのC-14を含むことになります。

33.(1/2)0.04 = 0.973 または 97.3%

35.2 × 10³年

37.0.12 時間⁻¹

39.(a)38億年、(b)この岩石は、設問(a)で計算した年代よりも新しいでしょう。もし岩石の中に元々Srが含まれていたとすると、放射性崩壊によって生成される量は、現在の量から初期の量を差し引いた量になります。この量は岩石の年代の計算に用いた量よりも少なくなり、年代はSrの量に比例するので、岩石はより新しいものとなるでしょう。

41.c = 0。これは、地球が形成された時から残っているPu-239はないことを示しています。したがって、現在において存在しているプルトニウムは、ウランと一緒に形成されたものではありません。

43.17.5 MeV

45.
\(\rm (a)_{83}^{212} Bi ⟶\ _{84}^{212} Po +\ _{-1}^0 e\)
\(\rm (b)_5^8 B ⟶\ _4^8 Be +\ _{-1}^0 e\)
\(\rm (c)_{92}^{238} U +\ _0^1 n ⟶\ _{93}^{239} Np +\ _{-1}^0 e\ ,\ _{93}^{239} Np ⟶\ _{94}^{239} Pu +\ _{-1}^0 e\)
\(\rm (d)_{38}^{90} Sr ⟶\ _{39}^{90} Y +\ _{-1}^0 e\)

47.
\(\rm (a)_{95}^{241} Am +\ _2^4 He ⟶\ _{97}^{244} Bk +\ _0^1 n\)
\(\rm (b)_{94}^{239} Pu +\ 15\ _0^1 n ⟶\ _{100}^{254} Fm +\ 6\ _{−1}^0 e\)
\(\rm (c)_{98}^{250} Cf +\ _5^{11} B ⟶\ _{103}^{257} Lr +\ 4\ _0^1 n\)
\(\rm (d)_{98}^{249} Cf +\ _7^{15} N ⟶\ _{105}^{260} Db +\ 4\ _0^1 n\)

49.核融合を起こすには2つの原子核が衝突しなければなりません。それらの正電荷に起因する非常に強い反発力を克服するのに十分な運動エネルギーを原子核に与えるためには、高温が必要です。

51.原子炉は以下のものから構成されています:

  1. 核燃料。核分裂可能な同位体が、制御された連鎖反応を維持するのに十分な量で存在していなければなりません。放射性同位体は、燃料棒と呼ばれる管の中に入っています。

  2. 減速材。減速材は、核反応で生成された中性子を減速させて、それらが燃料に吸収されて追加の核反応を起こすことができるようにします。

  3. 冷却材。冷却材は、核分裂反応で発生した熱を外部のボイラーやタービンに運び、そこで電気に変換します。

  4. 制御系。制御系は、中性子を吸収するために燃料棒の間に配置された制御棒で構成され、中性子の数を調整して連鎖反応の速度を安全なレベルに保つために使用されます。

  5. 遮蔽体および格納容器系。この構成要素の機能は、核反応によって発生する放射線から作業員を守り、高温反応に起因する高圧に耐えることです。

53.ウランの核分裂により熱が発生し、その熱は外部の蒸気発生器(ボイラー)へと運ばれます。発生した蒸気はタービンを回し、発電機に動力を与えます。

55.述べられた反応を含む溶液に放射性Ag⁺または放射性Cl⁻のいずれかを導入し、その後の所定の時間で平衡化すると、元々は放射線を含まなかったものの放射性となった沈殿物が生成されるでしょう。

57.(a)\(\rm _{53}^{133} I ⟶\ _{54}^{133} Xe +\ _{−1}^0 e\)、(b)37.6日

59.α粒子は非常に薄い遮蔽物で止めることができますが、β粒子やX線、γ線よりもはるかに強いイオン化能力を持っています。吸入すると、肺の細胞を覆っている保護皮膚がないため、その細胞の中のDNAを傷つけてがんを引き起こすことが可能になります。

61.(a)7.64 × 10⁹Bq、(b)2.06 × 10⁻²Ci


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