第3章 生物心理学

図3.1 | さまざまな脳画像撮影技術により、科学者は人間の脳がどのように機能しているかについてのさまざまな側面からの洞察を得ることができます。左から右へ、PETスキャン(陽電子放出断層撮影法)、CTスキャン(コンピュータ断層撮影法)、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)という3種類の方法です。(credit “left”: modification of work by Health and Human Services Department, National Institutes of Health; credit “center”: modification of work by “Aceofhearts1968”/Wikimedia Commons; credit “right”: modification of work by Kim J, Matthews NL, Park S.)

この章の概要

3.1 人間の遺伝学
3.2 神経系の細胞
3.3 神経系の要素
3.4 脳と脊髄
3.5 内分泌系

はじめに

あなたは、機器を分解してその仕組みを調べたことがありますか?私たちの多くは、修理を試みるために、あるいは単に好奇心を満たすために、分解したことがあるでしょう。ある機器の内部の働きは、外見上のユーザーインターフェースとはしばしば異なります。たとえば、私たちが携帯電話の音量を上げるとき、マイクロチップや回路のことは考えません。その代わりに、私たちは「ちょうどいい音量にしよう」と考えます。同じように、人間の体の内部の働きは、それらの働きの外見上の表現とはしばしば異なります。これらの間のつながりを解明する(たとえば、何百万個ものニューロンの発火がどのようにして思考になるのかを解き明かす)のが、心理学者の仕事です。

この章では、行動の基礎となる生物学的メカニズムを説明することに努めます。これらの生理学的・解剖学的な基盤は、心理学の多くの分野の基礎となっています。この章では、あなたは遺伝が生理学的特性と心理的特性の両方にどのように影響するかを学びます。また、神経系の構造と機能についても慣れ親しむことになります。そして最後に、あなたは神経系が内分泌系とどのように相互作用するかを学びます。

3.1 人間の遺伝学

学習目標

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:

  • 自然選択による進化の理論の基本原則を説明する
  • 遺伝子型と表現型の違いを記述する
  • 遺伝子と環境の相互作用が、身体的・心理的特徴の発現にとっていかに重要であるかについて議論する

心理学の研究者は、特定の行動の原因となる生物学的要因をよりよく理解するために、遺伝学を研究しています。すべての人間は、ある種の生物学的メカニズムを共有していますが、私たちはそれぞれが独特なものです。また、私たちの体は、脳やホルモン、遺伝子コードを持つ細胞など、多くの同じ部分を有していますが、それらはさまざまな行動や思考、反応として表れています。

なぜ2人の人間が同じ病気に感染しても、1人は生き延びて1人は亡くなるという異なる結果となるのでしょうか?遺伝病はどのようにして家系を通じて伝わるのでしょうか?うつ病や統合失調症などの心理学的障害には遺伝的要素があるのでしょうか?子供の肥満などの健康状態には、どの程度、心理学的な根拠があるのでしょうか?

これらの質問を探求するため、ここでは鎌状赤血球貧血という特定の遺伝性疾患に焦点を当て、それがこの病気にかかった2人の姉妹にどのように現れるかを考えることから始めてみたいと思います。鎌状赤血球貧血は、通常は丸い赤血球が三日月のような形になる遺伝的な疾患です(図3.2)。それらの赤血球の変化した形態が、その機能に影響を与えます:鎌状の赤血球が血管を詰まらせて血流を妨げ、高熱、激しい痛み、腫れ、組織の損傷などの症状を引き起こします。

図3.2 | 正常な血球は血管の中を自由に移動しますが、鎌状の赤血球は血流を妨げる障害物を形成します。

鎌状赤血球貧血とその原因となる特定の遺伝子変異を持つ人の多くは、若くして亡くなります。「最適者生存」の考え方は、この病気の患者は生存率が低く、したがってこの疾患はまれなものになっていくということを示唆するかもしれませんが、実際にはそうではありません。鎌状赤血球の遺伝子は、この遺伝子変異に伴う進化上の悪影響にもかかわらず、アフリカ系の出自を持つ人々の間ではまだ比較的よく見られます。これはなぜなのでしょうか?その理由は、以下のようなシナリオでもって説明されます。

アフリカのザンビアの農村に住む2人の若い女性、ルウィとセナという姉妹のことを想像してみてください。ルウィは鎌状赤血球貧血の遺伝子を持っており、セナはその遺伝子を持っていません。鎌状赤血球の保有者は、鎌状赤血球遺伝子の片方のコピーを持っていますが、完全な鎌状赤血球貧血を発症することはありません。彼らは、重度に脱水したときや山登りなどで酸素不足に陥った場合にのみ症状が現れます。鎌状赤血球を持つ人は、マラリア(熱帯気候において蔓延しているしばしば致死性の病気)に対する免疫があると考えられています。なぜなら、彼らの血液の化学成分や免疫機能の変化が、マラリア原虫の影響を防ぐからです(Gong, Parikh, Rosenthal, & Greenhouse, 2013)。しかしながら、鎌状赤血球遺伝子のコピーが2つある本格的な鎌状赤血球貧血では、マラリアに対する免疫力は得られません。

学校からの帰り道、姉妹はマラリア原虫を媒介する蚊に刺されてしまいます。ルウィは鎌状赤血球の遺伝子変異を持っているので、マラリアから守られている一方、セナはマラリアを発症し、わずか2週間後に死亡してしまいます。ルウィは生き残り、やがて子供を授かり、その子供たちに鎌状赤血球の変異が受け継がれるかもしれません。

学習へのリンク

DNAの突然変異が鎌状赤血球貧血になる仕組みについては、こちらのサイト(http://openstax.org/l/sickle1)を訪れて、より詳しく学んでください。

アメリカ合衆国ではマラリアは稀なので、鎌状赤血球遺伝子は誰にも利益を与えることはありません:この遺伝子は、1つのコピーを持つ保有者には主として軽度の健康問題を、2つのコピーを持つ保有者には健康上の利益が何もない重度の本格的な病気を、それぞれ現します。しかしながら、世界の他の地域では状況が全く異なります。マラリアが流行しているアフリカの一部では、鎌状赤血球の変異を持っていると、保有者にとって健康上の利益(マラリアからの保護)があります。

マラリアの話は、チャールズ・ダーウィンの自然選択による進化の理論に合致します(図3.3)。簡単に言うと、この理論は、環境によりよく適した生物は生き残って繁殖する一方で、環境にうまく適していない生物は死滅する、ということを述べています。私たちの例では、ルウィが遺伝子変異の保有者であることは、彼女の故郷であるアフリカでは非常に適応的となることがわかります。しかしながら、彼女が(マラリアが稀である)アメリカに住んでいた場合、彼女の変異は、子孫に病気が発生する確率を高め、彼女自身の健康にも多少の問題を生じさせるという損害を与えることになるでしょう。

図3.3 | (a)1859年、チャールズ・ダーウィンは、著書『種の起源について』の中で、自然選択による進化の理論を提唱しました。(b)この本には、図がたった1枚だけ掲載されています:この図は、自然選択を通じて種が時間の経過とともに進化する様子を示しています。

深く掘り下げてみよう

遺伝と行動についての2つの視点

進化心理学と行動遺伝学という分野のように、遺伝子と環境の相互作用を研究する2つの分野は、混同されやすいものです。では、私たちはどのように見分ければよいのでしょうか?

どちらの分野でも、遺伝子は特定の形質をコードしているだけでなく、認知や行動のある種のパターンにも寄与していることが理解されています。進化心理学では、普遍的な行動パターンや認知プロセスが時間の経過とともにどのように進化してきたかに注目します。したがって、認知や行動のバリエーションによって、個人が生殖し、その遺伝子を彼らの子孫に受け渡すことがどの程度うまくいくかが決まります。進化心理学者は、恐怖反応、食べ物の好み、配偶者の選択、協調行動など、適応として進化したと思われるさまざまな心理現象を研究しています(Confer et al., 2010)。

進化心理学者が何百万年もかけて進化してきた普遍的なパターンに注目するのに対し、行動遺伝学者は、遺伝子と環境の相互作用を通じて、現在において個人の差がどのように生じるかを研究します。人間の行動を研究する際、行動遺伝学者は興味のある質問を調査するために、双子研究や養子研究をしばしば用います。双子研究では、一卵性双生児と二卵性双生児の間で特定の行動形質が共有される可能性を比較し、養子研究では、生物学的に関連のある親族と養子の親族の間でそれらの割合を比較します。どちらのアプローチでも、ある形質の発現における遺伝子と環境の相対的な重要性についての何らかの洞察が得られます。

学習へのリンク

著名な進化心理学者デヴィッド・バスのインタビュー(http://openstax.org/l/buss)を見て、心理学者がどのようにして進化にアプローチするのか、またこのアプローチが社会科学の中でどのように位置づけられるのかを学んでください。

遺伝的差異

遺伝的差異は、個体間の遺伝的な違いであり、種が環境に適応するのに貢献するものです。人間の場合、遺伝的差異は、1個の卵子、約1億個の精子、そして受精から始まります。妊娠可能な女性は、およそ月に一度、排卵します(つまり、1個の卵巣の中の卵胞から卵子を放出します)。この卵子が卵巣から卵管を通って子宮にたどり着くまでの旅の間に、精子が卵子に受精することがあります。

卵子と精子には、それぞれ23本の染色体が含まれています。染色体とは、デオキシリボ核酸(DNA)として知られる遺伝物質の長いひもです。DNAは、ヌクレオチドの塩基対で構成されたらせん状の分子です。それぞれの染色体には、目の色や髪の色など、形質として知られるいくつかの目に見える特徴を制御したり、あるいは、部分的に制御したりする遺伝子を構成するDNAの配列があります。1つの遺伝子には、複数の可能性のある差異(対立遺伝子)が存在する場合があります。対立遺伝子とは、遺伝子の特定のバージョンのことです。つまり、ある遺伝子が髪の色という形質をコードしていて、その遺伝子の異なる対立遺伝子が、個人の髪の色に影響を与えるということです。

精子と卵子が融合すると、それぞれの23本の染色体が結合して、46本(23対)の染色体を持つ接合子が作り出されます。したがって、それぞれの親は、子供が持つ遺伝情報の半分を提供していることになります。結果として生じる子供の身体的特徴(表現型と呼ばれます)は、親から提供された遺伝物質(遺伝子型と呼ばれます)の相互作用によって決定されます。人の遺伝子型とは、その個人の遺伝子構成のことです。一方、表現型とは、その個人の受け継がれた身体的特徴のことを指し、それは遺伝と環境の影響の組み合わせとなります(図3.4)。

図3.4 | (a)遺伝子型とは、両親から受け継いだ遺伝物質(DNA)に基づく個人の遺伝的構成のことを指します。(b)表現型とは、髪の色、肌の色、身長、体格など、個人の観察可能な特徴を表します。(credit a: modification of work by Caroline Davis; credit b: modification of work by Cory Zanker)

ほとんどの形質は複数の遺伝子によって制御されていますが、中には1つの遺伝子によって制御されている形質もあります。たとえば、割れ目のある顎のような特徴は、両親から受け継いだ1つの遺伝子によって影響を受けます。この例では、私たちは割れ目のある顎の遺伝子を「B」、割れ目のない顎の遺伝子を「b」と呼ぶことにします。割れ目のある顎は顕性形質です。これは、片方の親から顕性対立遺伝子を受け継ぐか(Bb)、または両方の親から顕性対立遺伝子を受け継ぐ(BB)と、必ず顕性対立遺伝子に関連した表現型になるということを意味します。ある人が同じ対立遺伝子の2つのコピーを持っている場合、彼らはその対立遺伝子についてホモ接合型であると言われます。ある人がある遺伝子について対立遺伝子の組み合わせを持っている場合、彼らはヘテロ接合型であると言われます。たとえば、割れ目のない顎は潜性形質です。これは、その潜性対立遺伝子をホモ接合型で持っている場合(bb)にのみ、割れ目のない顎の表現型を示すことを意味します。

顎に割れ目のある女性と顎に割れ目のない男性が結婚したところを想像してください。彼らの子供はどのような顎を持つのでしょうか?その答えは、それぞれの親がどの対立遺伝子を持っているかによって決まります。もし、女性が顎の割れ目についてホモ接合型(BB)であれば、彼女の子供は常に割れ目のある顎を持ちます。しかしながら、もし母親がこの遺伝子についてヘテロ接合型(Bb)である場合は、もう少し複雑になります。父親は顎に割れ目がなく、したがって、潜性対立遺伝子についてホモ接合型(bb)であるので、子供は50%の確率で顎に割れ目があり、50%の確率で顎に割れ目がないと予想することができます(図3.5)。

図3.5 | (a)パネットの方形は、遺伝子がどのように相互作用して子供を生み出すかを予測するために使われる道具です。大文字のBは顕性対立遺伝子を、小文字のbは潜性対立遺伝子を表します。顎の割れ目の例では、Bは割れ目のある顎(顕性対立遺伝子)です。ペアに顕性対立遺伝子Bが含まれていれば、常に割れ目のある顎の表現型が期待できます。あなたは、潜性対立遺伝子の2つのコピーがある場合(bb)にのみ、割れ目のない顎の表現型が期待できます。(b)ここに示されている顎の割れ目は、遺伝性の形質です。

鎌状赤血球貧血では、ヘテロ接合型の保有者(例のルウィのような)はマラリア感染に対する血液抵抗性を獲得することができますが、ホモ接合型の保有者(セナのような)は致死的な可能性のある血液疾患を有することになります。鎌状赤血球貧血は、2つの潜性遺伝子が対になることによって引き起こされる数多くの遺伝性疾患の1つです。たとえば、フェニルケトン尿症(PKU)は、有害なアミノ酸を無害な副生成物へと通常は変換する酵素が欠損している個人に起こる症状です。もしこの症状を有する人が治療を受けないと、彼または彼女は、認知機能が著しく低下し、発作を起こし、さまざまな精神障害を発症するリスクが増大します。PKUは潜性形質であるため、この疾患を持つ子供を産むためには、それぞれの親が少なくとも1つの潜性対立遺伝子のコピーを持っていなければなりません(図3.6)。

ここまでは、私たちは1つの遺伝子だけが関与する形質について議論してきましたが、1つの遺伝子によって制御される人間の特性はほとんどありません。ほとんどの形質は、多遺伝子性、つまり複数の遺伝子によって制御されるものです。身長は、肌の色や体重と同様に、多遺伝子性の形質の一例です。

図3.6 | このパネットの方形では、Nは正常な対立遺伝子を、pはPKUに関連する潜性対立遺伝子を表しています。もしPKUに関連する対立遺伝子についてヘテロ接合型である2人が交配した場合、その子供は25%の確率でPKUの表現型を発現することになります。

PKUのような病気の原因となる有害な遺伝子はどこから来るのでしょうか?有害な遺伝子の原因の1つは、遺伝子の突然変異です。突然変異とは、ある遺伝子が突然、永久的に変化することです。多くの突然変異は、有害であったり、致命的であったりしますが、たまに、突然変異を持っていない人よりも持っている人に対して有利な条件を与えることでその人に利益をもたらします。進化の理論では、特定の環境に最も適応した個体が生殖し、その遺伝子を未来の世代に伝える可能性が高いと主張されていることを思い出してください。このプロセスが起こるためには、競争がなければなりません。より専門的に言えば、環境への適応度の変化を可能にするような、遺伝子(およびその結果としての形質)の変動がなければなりません。もしある集団が同一の個体で構成されていたとしたら、環境が劇的に変化すると全員が同じように影響を受けるため、選択において変動が存在しないことになります。一方、遺伝子とそれに関連する形質が多様であれば、環境の変化に直面したときに、ある個体が他の個体よりもわずかに優れた能力を発揮することができます。これにより、環境に最も適した個体は、生殖や遺伝子の伝達を成功させるという点で、明確な優位性を持つことになります。

深く掘り下げてみよう

人間の多様性

この章では、生物学に焦点を当てています。このコースの後半では、あなたは社会心理学や人種、先入観、および差別の問題について学ぶことになるでしょう。私たちが生物学に厳密に注目すると、人種は弱い構成概念になってしまいます。2000年代に入ってヒトゲノムの解読が行われた後、多くの科学者が、人種は遺伝子研究において有用な変数ではなく、人種を使い続けることは混乱や弊害の潜在的な源になると主張し始めました。一部の人が人間の遺伝的多様性の研究に役立つと信じていた人種のカテゴリーは、ほとんど無意味なものになっています。ある人の肌の色、目の色、髪の毛の質感などは、その人の遺伝的構成の働きによるものですが、実際には、ある人種カテゴリーの中での遺伝子の変動は、人種カテゴリー間の変動よりも大きいのです。場合によっては、鎌状赤血球貧血や嚢胞性線維症などの病気では、人種に注目することで誤診および/または過少診断の問題につながることもあります。一部の人は、私たちが先祖と人種を区別し、その上で先祖に焦点を当てる必要があると主張しています。このようなアプローチをとれば、人間の遺伝的多様性に対するより大きな理解が促進されるでしょう(Yudell, Roberts, DeSalle, & Tishkoff, 2016)。

遺伝子と環境の相互作用

遺伝子は真空状態の中に存在しているわけではありません。私たちは皆、生物ではありますが、私たちはまた、環境の中にも存在しています。この環境は、私たちの遺伝子がいつ、どのように発現するかだけでなく、どのような組み合わせで発現するかを決定する上で非常に重要なものです。私たちはそれぞれ、遺伝子構成と環境の間の独特な相互作用を表しており、この相互作用を表現する方法の1つが「反応の範囲」です。反応の範囲とは、私たちの遺伝子が私たちの活動できる範囲の境界線を定めるとともに、私たちの環境が遺伝子と相互に作用して、人間がその範囲内のどこに位置するかを決定する、ということを主張しています。たとえば、もしある人の遺伝子構成によってその人に高いレベルの知的潜在能力が授けられ、その人が豊かで刺激的な環境で育った場合、その人が持つ潜在能力を最大限に発揮できる可能性は、極端な欠乏の状況下で育った場合よりも高くなるでしょう。反応の範囲の概念によれば、遺伝子が潜在能力に対して有限の限界を設け、その潜在能力がどれだけ発揮できるかは環境によって決まります。一部の人はこの理論に同意せず、遺伝子はある人の潜在能力に制限を設けるものではなく、反応の基準は環境によって決まると主張しています。たとえば、個人が人生の早い段階でネグレクト(育児放棄)や虐待を経験した場合、彼らは心理的および/または身体的に不利な状態になりやすく、それが生涯を通じて続く可能性があります。これらの状態は、異なる遺伝的背景を持つ個人における負の環境の経験の作用として生じるのかもしれません(Miguel, Pereira, Silveira, & Meaney, 2019; Short & Baram, 2019)。

遺伝子と環境の相互作用に関する別の視点として、遺伝と環境の相関という概念があります。簡単に言うと、私たちの遺伝子は私たちの環境に影響を与え、私たちの環境は私たちの遺伝子の発現に影響を与えるということです(図3.7)。私たちの遺伝子と環境は、(反応の範囲のように)相互作用しているだけでなく、それらは双方向に影響し合っています。たとえば、NBA選手の子供は、おそらく幼い頃からバスケットボールに親しんでいるでしょう。そのように慣れ親しんでいることで、その子供は彼または彼女の遺伝的な運動能力を最大限に発揮できることになるかもしれません。このように、両親の遺伝子(子供が共有しているものです)が子供の環境に影響を与え、その環境が今度は子供の遺伝的な潜在能力をサポートするのに非常に適したものとなります。

図3.7 | 生まれと育ちは、人間のパズルの複雑なピースのように一緒に働きます。私たちの環境と遺伝子の相互作用が、私たちのことを現在そうであるような個人とします。(credit “puzzle”: modification of work by Cory Zanker; credit “houses”: modification of work by Ben Salter; credit “DNA”: modification of work by NHGRI)

遺伝子と環境の相互作用に関するもう1つのアプローチとして、エピジェネティクスの分野では、遺伝子型そのものを超えて、同じ遺伝子型がどのようにして異なる形で発現されるかを研究しています。言い換えれば、研究者は、同じ遺伝子型がどのようにして全く異なる表現型をもたらすのかを研究するのです。先に述べたように、遺伝子の発現はしばしば環境の事情によって、必ずしも明白ではないようなやり方で影響を受けています。たとえば、一卵性双生児は、同じ遺伝情報を共有しています(一卵性双生児は、1つの受精卵が分裂して生まれるので、それぞれの遺伝物質は全く同じです。一方、二卵性双生児は、通常、異なる精子が2つの異なる卵子を受精させて生まれるので、双生児でない兄弟姉妹と同様に、その遺伝物質は異なります)。しかし、同一の遺伝子を持っていても、双子の一生の間に遺伝子の発現がどのように展開するかは、信じられないほど大きなばらつきがあります。双子の片方が病気を発症し、双子のもう片方が病気を発症しないこともあります。ある例では、一卵性双生児のアリヤは7歳のときにがんで亡くなりましたが、彼女の双子は19歳になった今までがんになったことがありません。これらの個人は同一の遺伝子型を共有していますが、その遺伝子情報が時間の経過とともに、また、独特な環境との相互作用によってどのように発現されるかについての結果として表現型が異なります。エピジェネティックな視点は、反応の範囲とは大きく異なります。なぜなら、そこでは遺伝子型が固定されたものではなく、制限するものでもないからです。

学習へのリンク

双子研究のエピジェネティクスについてのこのビデオ(http://openstax.org/l/twinstudy)を見て、さらに学んでください。

遺伝子が影響するのは、私たちの身体的特徴だけではありません。実際、科学者たちは、基本的な人格特性から、性的指向、精神性に至るまで、多くの行動的特徴と遺伝子の関連性を発見しています(たとえば、Mustanski et al., 2005; Comings, Gonzales, Saucier, Johnson, & MacMurray, 2000を参照)。また遺伝子は、気質や、うつ病や統合失調症などといった多くの心理学的障害とも関連しています。このように、遺伝子が私たちの細胞、組織、器官、体の生物学的な設計図を提供していることは事実ですが、それらはまた私たちの経験や行動にも大きな影響を与えています。

統合失調症に関する以下の知見を、遺伝子と環境の相互作用に関する3つの見解に照らし合わせて見てみましょう。あなたはどの見解がこの証拠を最もうまく説明できると思いますか?

ティーナリと同僚による2004年の研究では、養子に出された人々のうち、生物学的な母親が統合失調症であり、荒れた家庭環境で育った養子は、研究の中の他のどのグループよりも統合失調症や他の精神病性障害を発症する可能性が高かったです:

  • 生物学的な母親が統合失調症であり(遺伝的リスクが高い)、荒れた家庭環境で育った養子のうち、36.8%が統合失調症を発症する可能性がありました。
  • 生物学的な母親が統合失調症であり(遺伝的リスクが高い)、健全な家庭環境で育った養子のうち、5.8%が統合失調症を発症する可能性がありました。
  • 遺伝的リスクが低く(母親が統合失調症ではない)、荒れた家庭環境で育った養子のうち、5.3%が統合失調症を発症する可能性がありました。
  • 遺伝的リスクが低く(母親が統合失調症ではない)、健全な家庭環境で育った養子のうち、4.8%が統合失調症を発症する可能性がありました。

この研究は、遺伝的リスクの高い養子が荒れた家庭環境で育った場合、統合失調症を発症する可能性が最も高いことを示しています。この研究は、統合失調症の発症には遺伝子の脆弱性と環境ストレスの両方が必要であり、遺伝子だけではすべてを語ることはできないという考え方に信憑性を与えています。

3.2 神経系の細胞

学習目標

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:

  • ニューロンの基本的な部分を特定する
  • ニューロンがどのようにしてお互いに通信するのかを記述する
  • ある神経伝達物質系に対して、薬物がどのようにして作用薬または拮抗薬として働くかを説明する

人間の心を理解しようと努力している心理学者は、神経系を研究することがあります。身体の細胞や器官がどのように機能しているかを学ぶことは、人間の心理の生物学的基盤を理解するのに役立ちます。神経系は、グリア細胞(グリアとしても知られています)とニューロンという2つの基本的な細胞タイプから構成されています。グリア細胞は、従来、物理的にも代謝的にもニューロンをサポートする役割を果たしていると考えられてきました。グリア細胞は、神経系を構築するための足場を提供し、ニューロンが互いに密接に並んでニューロン間伝達ができるようにし、ニューロンを絶縁し、栄養や廃棄生成物を輸送し、免疫反応を媒介します。長年、研究者たちは、グリア細胞の数はニューロンの数よりもかなり多いと考えていました。しかしながら、スザンナ・ヘルクラノ=ハウゼルの研究室による最近の研究では、この長年の仮定に疑問が投げかけられ、グリア細胞とニューロンの比率がほぼ1対1であろうという重要な証拠が得られました。このことは、人間の脳がこれまで考えられていたよりも他の霊長類の脳に似ていることを示唆しているので重要です(Azevedo et al, 2009; Hercaulano-Houzel, 2012; Herculano-Houzel, 2009)。一方、ニューロンは、神経系のすべての任務にとって不可欠な、相互に接続された情報処理機構として機能しています。この節では、ニューロンの構造と機能について簡単に記述します。

ニューロンの構造

ニューロンは、神経系の中心的な構成要素であり、誕生時には総数で1000億個ほどがあります。他の細胞と同様に、ニューロンはいくつかの異なる部分から構成され、それぞれが特殊な機能を果たしています(図3.8)。1つのニューロンの外表面は、半透膜でできています。この膜は、小さな分子や電荷を持たない分子を通過させる一方で、大きな分子や電荷を持つ分子を阻止します。

図3.8 | この図は、典型的なニューロンを示しています。ニューロンは、グリア細胞によって有髄となっています。

ニューロンの核は、ソーマ、すなわち細胞体の中に位置しています。ソーマには、樹状突起として知られる枝分かれした伸長部分があります。ニューロンは小さな情報処理機構であり、樹状突起は他のニューロンから信号を受け取る入力部位として機能します。これらの信号は、ソーマを横切って、軸索として知られるソーマからの主要な延長部を通って電気的に伝達されます。軸索は、複数の終末ボタンで終わります。終末ボタンには、神経系の化学伝達物質である神経伝達物質を収容しているシナプス小胞があります。

軸索の長さは、1インチに満たないものから数フィートのものまでさまざまです。一部の軸索では、グリア細胞がミエリン鞘として知られる脂肪質の物質を形成し、これが軸索を覆って絶縁体の役割を果たし、信号の伝達速度を高めています。ミエリン鞘は連続的ではなく、軸索の長さ方向に沿って小さな隙間が生じています。このミエリン鞘の隙間はランヴィエの絞輪として知られています。ミエリン鞘は、神経系のニューロンが正常に機能するために非常に重要です:ミエリン鞘が提供する絶縁性が失われると、正常な機能に悪影響を及ぼす可能性があります。この仕組みを理解するために、例を考えてみましょう。前で議論した遺伝性疾患の1つであるPKUでは、ミエリンが減少し、皮質や皮質下の白質構造に異常をきたします。この病気は、重度の認知障害、過度の反射、発作などさまざまな問題を伴います(Anderson & Leuzzi, 2010; Huttenlocher, 2000)。また、自己免疫疾患のひとつである多発性硬化症(MS)では、神経系全体の軸索のミエリン鞘が大規模に失われます。その結果、電気信号に支障が生じ、ニューロンによる情報の迅速な伝達が妨げられ、めまい、疲労、運動制御の低下、性機能不全などのさまざまな症状が引き起こされます。多発性硬化症は、いくつかの治療法によっては病気の進行を修正したり、特定の症状を抑えたりすることができますが、現在のところ完全な治癒法は確立されていません。

健康な個人の場合、ニューロンの信号は軸索を素早く移動して終末ボタンに到達し、そこでシナプス小胞が神経伝達物質をシナプス間隙に放出します(図3.9)。シナプス間隙は、2つのニューロンの間にある非常に小さな空間で、ニューロン間の通信が行われる重要な場所です。神経伝達物質がシナプス間隙に放出されると、神経伝達物質はシナプス間隙を横切るように移動し、隣接するニューロンの樹状突起にある対応する受容体と結合します。受容体とは、神経伝達物質が結合する細胞表面のタンパク質のことで、その形状はさまざまであり、それぞれの形態がさまざまな神経伝達物質と「合致」します。

神経伝達物質は、どの受容体に結合するかをどのようにして「知る」のでしょうか?神経伝達物質と受容体は「鍵と錠の関係」と呼ばれるものを有しています。鍵が錠前に合うのと同じように、特定の神経伝達物質が特定の受容体に合うようになっています。神経伝達物質は、自分に合ったものであればどの受容体にも結合します。

図3.9 | (a)シナプス間隙とは、あるニューロンの終末ボタンと別のニューロンの樹状突起の間の空間のことです。(b)走査型電子顕微鏡の疑似カラー画像では、終末ボタン(緑色)が開かれ、内側のシナプス小胞(オレンジ色と青色)が見えています。それぞれの小胞には、約1万個の神経伝達物質分子が含まれています。(credit b: modification of work by Tina Carvalho, NIH-NIGMS; scale-bar data from Matt Russell)

ニューロンの通信

ここまで、私たちはニューロンの基本的な構造と、これらの構造がニューロンの通信に果たす役割について学んできました。今度は、信号そのもの—信号がニューロンの中を移動し、隣のニューロンに飛び移って、そこでそのプロセスが繰り返されるという仕組み—を詳しく見てみましょう。

私たちは、ニューロン膜から始めます。ニューロンは、流体環境の中に存在しています。それは、細胞外液に囲まれ、細胞内液(すなわち、細胞質)を含んでいます。この2つの液体を分けているのがニューロン膜であり、この役割は重要なものです。なぜなら、ニューロンを通過する電気信号は、細胞内液と細胞外液の電気的な差に依存しているからです。この膜を横切る電荷の差は膜電位と呼ばれ、信号のためのエネルギーを提供します。

これらの液体の電荷は、液体に溶解している電荷を帯びた分子(イオン)によって生じます。ニューロン膜は半透膜の性質を持つため、これらの荷電分子の動きがいくらか制限され、その結果、荷電粒子の一部が細胞の内側あるいは外側に、より集中する傾向があります。

信号と信号の間、ニューロン膜の電位は静止電位と呼ばれる待機状態にとどめられます。輪ゴムが引き伸ばされ、跳ねて動き出すのを待っているときのように、イオンは細胞膜の両側に並んでおり、ニューロンが活動を開始して膜がゲートを開くと、膜を横切って突進できるようになっています。高濃度の領域にあるイオンは低濃度の領域に移動できるようになっており、陽イオンは負の電荷を持つ領域に移動できるようになっています。

静止状態では、ナトリウム(Na+)は細胞の外側の方で濃度が高いので、細胞の内側へと移動する傾向があります。一方、カリウム(K+)は、細胞の内側の方で濃度が高いため、細胞の外側へと移動する傾向があります(図3.10)。さらに、細胞の内側は外側に比べてわずかに負に帯電していますが、これはナトリウム-カリウムポンプの働きによるものです。このポンプは、カリウムイオン2個を細胞の中に運ぶごとにナトリウムイオン3個を能動的に細胞の外に運び出し、細胞内に正味の負電荷を生じさせます。これにより、ナトリウムに付加的な力が加わり、ナトリウムを細胞内に移動させるようになります。

図3.10 | 静止電位では、Na+(青色の五角形)は細胞の外側の細胞外液(青色で表示)に高濃度で存在しており、K+(紫色の四角形)は膜の近くの細胞質または細胞内液に高濃度で存在しています。また、塩化物イオン(黄色の丸)や負の電荷を帯びたタンパク質(茶色の四角形)などの他の分子も、細胞外液では正味の正の電荷、細胞内液では正味の負の電荷に寄与しています。

ニューロンが信号を受け取ると、この静止電位の状態から、その状態が急激に変化します(図3.11)。隣接するニューロンからの神経伝達物質が受容体に結合することによりニューロンが樹状突起で信号を受け取ると、ニューロン膜に小さな孔(ゲート)が開き、電荷と濃度の差による推進力を持つNa+イオンが細胞の内側に流入します。この陽イオンの流入により、細胞内の電荷は正になります。もしこの電荷が励起の閾値と呼ばれる一定のレベルに達すると、ニューロンは活性化し、活動電位が開始します。

さらに多くの孔が開き、Na+イオンが大量に流入し、膜電位の正の方向の大きなスパイク、すなわちピーク活動電位を生じさせます。このスパイクがピークに達すると、ナトリウムゲートが閉じ、カリウムゲートが開きます。正の電荷を帯びたカリウムイオンが出ていくと、細胞はすぐに再分極を始めます。細胞は最初は過分極し(静止電位よりもわずかに負になり)、その後、水平になり、静止電位に戻ります。

図3.11 | 活動電位では、膜の電荷が劇的に変化します。

この正のスパイクが活動電位を構成します。活動電位とは、通常、細胞体から軸索を通って軸索終末まで移動する電気信号です。この電気信号は、ランヴィエの絞輪の間をインパルスが飛び跳ねるようにして軸索を進んでいきます。ランヴィエの絞輪とは、ミエリン鞘の自然な隙間のことです。それぞれの場所では、細胞に入ったナトリウムイオンの一部が軸索の次の節に拡散し、電荷が励起の閾値を超えて上昇し、ナトリウムイオンの新たな流入を誘発します。活動電位は、このようにして軸索を伝わり、終末ボタンに到達します。

活動電位は、全か無かの現象です。簡単に言えば、他のニューロンからの信号が、励起の閾値に達するのに十分か不十分かのどちらかであるということを意味します。その中間はなく、一度始まった活動電位を止めることもできません。電子メールやテキストメッセージを送るようなものだと思ってください。あなたは望むだけいくらでも送ることを考えることはできますが、送信ボタンを押すまではメッセージは送られません。しかも、一度メッセージを送ってしまったら、もう止めることはできません。

活動電位は「全か無か」のものであるため、それは軸索に沿ったすべての場所で、その完全な強さでもって再構築され、伝播していきます。点火された爆竹の導火線のように、それは軸索を伝わっていくうちに消えてしまうことはありません。足のつま先のように遠く離れた体の部位が傷ついても、鼻が傷ついても同じようにあなたの脳が痛みを感じるという事実は、この「全か無か」の特性によって説明がつきます。

前述したように、活動電位が終末ボタンに到達すると、シナプス小胞が神経伝達物質をシナプス間隙に放出します。神経伝達物質はシナプスを渡るように移動し、隣接するニューロンの樹状突起上の受容体に結合し、このプロセスが新しいニューロンで繰り返されます(信号が活動電位を引き起こすのに十分な強さであることが前提です)。ひとたび信号が伝達されると、シナプス間隙にある余分な神経伝達物質は、漂ったり、不活性な断片に分解されたり、再取り込みとして知られるプロセスで再吸収されたりします。再取り込みとは、シナプスを元に戻すために、神経伝達物質を放出したニューロンに神経伝達物質が戻されることです(図3.12)。シナプスを元に戻すことは、信号間の「オン」と「オフ」の状態を明確にすることと、神経伝達物質の生成を調節することの両方の役割を果たします(シナプス小胞が満杯になると、追加の神経伝達物質を生成する必要がないことを示す信号が送られます)。

図3.12 | 再取り込みとは、神経伝達物質をシナプスから、それらが放出された軸索終末へと戻すことです。

ニューロンの通信は、しばしば電気化学的事象と呼ばれます。活動電位が軸索の長さ方向に沿って移動することが電気的な事象であり、神経伝達物質がシナプス空間を移動することがこのプロセスの化学的な部分を表しています。しかしながら、ニューロン間の特殊な結合には、完全に電気的なものもあります。このような場合、それらのニューロンは電気シナプスを介して通信していると言われます。そのような場合では、2つのニューロンはギャップ結合を介してお互いに物理的に接続されており、一方の細胞から隣の細胞に電流を流すことができます。脳内の電気シナプスの数は非常に少ないですが、実際に存在するシナプスでは上述の化学的シナプスよりもはるかに高速です(Connors & Long, 2004)。

学習へのリンク

ニューロンの通信についてのこのビデオ(http://openstax.org/l/neuroncom)を見て、さらに学んでください。

神経伝達物質と薬物

異なるニューロンによって放出される神経伝達物質にはいくつかの種類があり、私たちはそれぞれの神経伝達物質に関連する機能の種類について大まかに説明することができます(表3.1)。心理学者が神経伝達物質の機能について知っていることの多くは、心理学的障害における薬物の効果に関する研究から得られています。生物学的な視点を取り、行動の生理学的原因に注目する心理学者は、うつ病や統合失調症などの心理学的障害は、1つかそれ以上の神経伝達物質系の不均衡に関連していると主張しています。このような観点では、向精神薬はこれらの障害に伴う症状を改善するのに役立ちます。向精神薬とは、神経伝達物質のバランスを回復させることによって、精神症状を治療する薬です。

表3.1

向精神薬は、所与の神経伝達物質系の作用薬または拮抗薬として作用することができます。作用薬は、受容体の部位で神経伝達物質を模倣する化学物質です。一方、拮抗薬は、受容体における神経伝達物質の正常な活動を阻止または阻害します。作用薬と拮抗薬は、人の疾患の根底にある特定の神経伝達物質の不均衡を修正するために処方される薬です。たとえば、進行性の神経系疾患であるパーキンソン病は、ドーパミンの濃度が低いことに関連付けられています。そのため、パーキンソン病の一般的な治療戦略は、ドーパミン受容体に結合することによってドーパミンの作用を模倣するドーパミン作用薬を使用することです。

統合失調症のいくつかの症状は、ドーパミン神経伝達の過剰な働きと関連しています。このような症状の治療に用いられる抗精神病薬は、ドーパミンの拮抗薬です。それらは、ドーパミンの受容体を活性化することなく結合することによって、ドーパミンの作用を阻害します。つまり、それらは、あるニューロンから放出されたドーパミンが、隣接するニューロンに情報を伝達するのを妨げます。

作用薬と拮抗薬がどちらも受容体の部位に結合することによって作用するのに対し、再取り込み阻害薬は使われなかった神経伝達物質がニューロンに戻されるのを防ぎます。これにより、神経伝達物質がシナプス間隙でより長く作用し続けることができ、その効果が高まります。うつ病は、セロトニン濃度の低下と一貫して関連しており、一般的には選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)で治療されます。SSRIは、セロトニンの再取り込みを阻害することにより、セロトニンの効果を強め、セロトニンが樹状突起上のセロトニン受容体と相互作用する時間を長くします。現在市販されている一般的なSSRIには、プロザック、パキシル、ゾロフトなどが含まれます。LSDという薬物は、構造的にセロトニンと非常によく似ており、セロトニンと同じニューロンや受容体に作用します。向精神薬は、心理学的障害に苦しんでいる人々にとって即効性のある解決策ではありません。多くの場合、改善が見られるまでには数週間服用しなければならず、多くの向精神薬には重大な副作用があります。さらに、薬物に対する反応の仕方は個人によって劇的に異なります。成功の可能性を高めるために、人々が薬物療法に加えて、心理療法および/または行動療法を併用することも珍しくはありません。一部の研究は、薬物療法と他の形態の治療法を組み合わせることで、1つの治療法だけの場合よりも効果的になる傾向があるということを示唆しています(その一例として、March et al., 2007を参照)。

3.3 神経系の要素

学習目標

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:

  • 中枢神経系と末梢神経系の違いを記述する
  • 体性神経系と自律神経系の違いを説明する
  • 自律神経系の交感神経系と副交感神経系を区別する

神経系は、図3.13に示されるように、中枢神経系(CNS)末梢神経系(PNS)の2つに大きく分けることができます。中枢神経系は脳と脊髄で構成されており、末梢神経系はCNSと体の他の部分をつないでいます。この節では、私たちは末梢神経系に焦点を当て、脳と脊髄については後の方で見ていきます。

図3.13 | 神経系は、大きく2つの部分に分かれています:(a)中枢神経系と(b)末梢神経系です。

末梢神経系

末梢神経系は、神経と呼ばれる軸索の太い束で構成されており、CNSと体の周辺部の筋肉、器官、感覚器官(すなわち、CNS以外のすべての場所)との間でメッセージをやり取りします。PNSは、体性神経系と自律神経系の2つの主要な部分に分かれています。

体性神経系は、従来、意識的または自発的と考えられてきた活動に関連しています。体性神経系は、CNSとの間の感覚情報および運動情報の伝達に関与しており、したがって、それは運動ニューロンと感覚ニューロンから構成されています。運動ニューロンは、CNSからの指示を筋肉に伝えるもので、遠心性線維です(遠心性とは「離れていく」ことを意味します)。感覚ニューロンは、感覚情報をCNSに伝えるもので、求心性線維です(求心性とは「向かっていく」ことを意味します)。これを覚えるために便利なやり方は、「遠心性(efferent)」=出発(exit)、「求心性(afferent)」=到着(arrive)、というものです。それぞれの神経は、基本的には、双方向の高速道路を形成するニューロンの束であり、遠心性および求心性の両方の数千本の軸索を含んでいます。

自律神経系は、私たちの内部器官や腺を制御しており、一般的には、自発的な制御の領域外にあると考えられています。自律神経系は、さらに交感神経系と副交感神経系に分けられます(図3.14)。交感神経系は、ストレスが関連する活動のために身体を準備することに関与しており、副交感神経系は、身体をありふれた日常的な活動に戻すことに関連しています。この2つの神経系は相補的な機能を持ち、連動して身体の恒常性を維持するように働いています。恒常性とは、体温などの生物学的条件が最適なレベルに維持されている平衡状態、またはバランスのとれた状態のことです。

図3.14 | 自律神経系の交感神経系と副交感神経系は、さまざまな系に相反する作用を及ぼします。

交感神経系は、私たちがストレスのある状況、または覚醒度の高い状況に直面したときに活性化します。この神経系の活動は、私たちの祖先にとって適応的なものであり、彼らの生存の可能性を高めました。たとえば、小動物を狩っていた私たちの初期の祖先の1人が、子熊を連れた大きな熊を刺激してしまったところを想像してみてください。その瞬間、交感神経の活性化の直接的な作用として、彼の体は一連の変化を起こし、脅威に立ち向かう準備をします。瞳孔は散大し、心拍数と血圧が上昇し、膀胱が緩み、肝臓からグルコースが放出され、アドレナリンが血中で急上昇します。このような一連の生理学的変化は、「闘争か、逃走か」反応として知られており、脅威に対抗したり、安全な場所に逃げたりするために、身体が蓄えられたエネルギーと高められた感覚能力を利用することを可能にします。

学習へのリンク

闘争・逃走・硬直反応についてのこのビデオ(http://openstax.org/l/response)を見て、さらに学んでください。

このような反応は、現実の物理的な脅威に満ちた世界に住んでいた私たちの祖先が生き延びるために死活的に重要であったことは明らかですが、現代社会で私たちが直面している覚醒度の高い状況の多くは、より心理的な性質を持っています。たとえば、部屋が一杯になるほどの人の前に立ち、プレゼンテーションをしなければならないときや、大きな試験を受ける直前の時に、あなたがどう感じるかを考えてみてください。このような状況では、あなたに物理的な危険はありませんが、あなたは脅威を感じると「闘争か、逃走か」反応を起こすように進化してきました。現代社会では、このような種類の反応はほとんど適応的ではありません。実際、私たちが闘うことも逃げることもできない心理的な脅威に常に直面していると、私たちは健康への悪影響に苦しむことになります。最近の研究は、心臓疾患の罹患率の増加(Chandola, Brunner, & Marmot, 2006)や免疫系の機能低下(Glaser & Kiecolt-Glaser, 2005)など、ストレスの多い状況に継続的かつ反復的にさらされることで生じるさまざまな悪影響を示唆しています。このようなストレス反応性の傾向の一部は、幼少期の心的外傷の経験に結び付けられるかもしれません。

脅威が解消されると、副交感神経系が取って代わり、身体機能をリラックスした状態に戻します。狩猟者の心拍数と血圧は正常に戻り、瞳孔が収縮し、膀胱のコントロールが回復し、肝臓は将来の使用に備えてグルコースをグリコーゲンの形態で貯蔵し始めます。これらの回復プロセスは、副交感神経系の活性化に関連しています。

3.4 脳と脊髄

学習目標

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:

  • 脊髄の機能を説明する
  • 脳の半球と葉を特定する
  • 臨床医や研究者が脳の画像化やスキャンに利用することのできる技術の種類を記述する

脳は何十億もの相互接続されたニューロンとグリアからなる際立って複雑な器官です。脳は左右相称性の(すなわち、2つの側がある)構造をしており、区別することのできる葉に分けられます。それぞれの葉は特定の種類の機能に関連していますが、究極的には、脳のすべての領域が相互作用し合って、私たちの思考や行動の基盤を提供します。この節では、私たちは脳の全体的な構成と、脳の各領域に関連する機能について議論します。まずは、脳の延長として見ることのできるもの、つまり脊髄から始めます。

脊髄

脊髄は、脳と外側の世界とをつなぐものであると言うことができます。それがあるからこそ、脳は機能できるのです。脊髄は中継所に似ていますが、非常に賢いものです。それは脳との間でメッセージをやり取りするだけでなく、反射と呼ばれる自動的なプロセスの独自のシステムを持っています。

脊髄の一番上の部分は神経の束であり、それは脳幹と合流します。脳幹は呼吸や消化などの生命の基本的なプロセスを制御します。反対の方向では、脊髄は肋骨のすぐ下で終わっています(私たちの予想に反して、脊髄は脊柱の基部まで伸びてはいません)。

脊髄は、機能的には30の分節で構成されており、それらは椎骨に対応しています。それぞれの分節は、末梢神経系を通じて体の特定の部分に接続されています。神経は、それぞれの椎骨の場所で脊柱から分岐しています。感覚神経はメッセージを取り込み、運動神経は筋肉や器官にメッセージを送ります。メッセージはすべての分節を通って脳との間を行き来します。

感覚メッセージの中には、脳からの入力がなくても、脊髄によって直ちに機能するものがあります。熱いものから手を引っ込めることや膝蓋反射などがその例です。感覚メッセージが特定のパラメータを満たすと、脊髄は自動的な反射を開始します。信号は感覚神経から単純な処理中枢に送られ、それが運動の指令を発出します。メッセージが脳に行き、処理され、送り返される必要がないので、時間が節約できます。生存に関わる問題では、脊髄反射によって身体は非常に速く反応することができます。

脊髄は骨性の椎骨によって保護され、脳脊髄液で緩衝されていますが、それでも損傷は起こります。脊髄が特定の分節で損傷すると、それより下の分節はすべて脳から遮断され、麻痺が生じます。そのため、脊髄の損傷が起こる場所が下の方になるほど、怪我をした個人が失う機能は少なくなります。

神経可塑性

ABCのレポーターであるボブ・ウッドラフは、イラクでのニュース取材中に乗っていた車の横で爆弾が爆発し、外傷性脳損傷を負いました。それらの損傷の結果、ウッドラフは、記憶や言語の困難を含む多くの認知障害を経験しました。しかしながら、時間の経過とともに、そして集中的な認知療法や言語療法の助けによって、ウッドラフは驚異的な機能回復を見せました(Fernandez, 2008, October 16)。

この回復を可能にした要因の1つが、神経可塑性でした。神経可塑性とは、神経系がどのように変化し、適応することができるかを指します。神経可塑性は、個人的な経験や発達過程、あるいはウッドラフの場合のように何らかの怪我や損傷が起きたことへの反応としてなど、さまざまな形で発生します。神経可塑性には、新しいシナプスの形成、使われなくなったシナプスの刈り込み、グリア細胞の変化、さらには新しいニューロンの誕生などがあります。神経可塑性のおかげで、私たちの脳は常に変化し、適応しています。そして、私たちの神経系の可塑性が最も高いのは幼少期ですが、ウッドラフの事例が示すように、人生の後の方になっても顕著な変化を遂げることができます。

2つの半球

図3.15に示されるように、大脳皮質として知られる脳の表面は非常にでこぼこしており、脳回として知られるひだや隆起、およびとして知られる裂け目からなる独特なパターンによって特徴付けられています。これらの脳回と溝は、私たちが脳をいくつかの機能的な中枢に分けるための重要な目印となります。大脳縦裂として知られる最も顕著な溝が、脳を2つの半分、すなわち半球:左半球と右半球に分ける深い裂け目です。

図3.15 | 脳の表面は脳回と溝で覆われています。深い溝は大脳縦裂のように裂と呼ばれます。大脳縦裂は、脳を左半球と右半球に分けます。(credit: modification of work by Bruce Blaus)

それぞれの半球に機能の特殊化(側性化と呼ばれます)があるという証拠があり、左半球と右半球では主に言語機能に違いがあります。左半球は右半身を、右半球は左半身を制御しています。マイケル・ガザニガと彼の同僚による機能の側性化に関する数十年にわたる研究によると、因果関係の推論から自己認識に至るまでのさまざまな機能が、ある程度の半球の優位性を示唆するパターンに従っているであろうことが示されています(Gazzaniga, 2005)。たとえば、左半球は、記憶の関連付けの形成、選択的注意、および肯定的な感情に優越していることが示されています。一方、右半球は、音の高さの知覚、覚醒、および否定的な感情に優越していることが示されています(Ehret, 2006)。しかしながら、さまざまな異なる行動においてどちらの半球が優位であるかという研究では、一貫性のない結果が得られていることを指摘しておくべきでしょう。したがって、ある行動を一方の半球と他方の半球のどちらかに帰属させるのではなく、2つの半球がどのように相互作用して特定の行動を生み出すかを考える方がよいでしょう(Banich & Heller, 1998)。

2つの半球は、約2億本の軸索からなる脳梁として知られる神経線維の太い束によって結ばれています。この脳梁によって、2つの半球は互いに連絡を取り合い、脳の片側で処理されている情報を脳のもう一方の側で共有することができます。

通常、私たちは、2つの半球が日常の機能において果たす役割の違いを意識することはありませんが、2つの半球の能力と機能をよく知るようになった人もいます。一部の重度のてんかんの事例では、発作の拡大を制御する手段として、医師は脳梁を切断することを選びます(図3.16)。これは有効な治療の選択肢ですが、その結果として人は「分離脳」を有することになります。手術後、それらの分離脳の患者は、さまざまな興味深い行動を示します。たとえば、分離脳の患者は、左側の視野に表示された絵の名前を挙げることができません。なぜなら、その情報は、ほとんど非言語的である右半球でのみ利用可能だからです。しかしながら、彼らは、右半球によって制御されている左手を使って絵を再現することはできます。言語能力の高い左半球がその手の描いた絵を見ると、患者はその絵の名前を挙げることができます(左半球が左手で描いたものを解釈できると仮定して)。

図3.16 | (a、b)脳梁は、脳の左半球と右半球を繋いでいます。(c)科学者がこの解剖されたヒツジの脳を広げて、半球の間にある脳梁を示しています。(credit c: modification of work by Aaron Bornstein)

脳のさまざまな領域の機能について私たちが知っていることの多くは、脳に損傷を受けた人の行動や能力の変化を調べることで得られるものです。たとえば、研究者は、脳卒中によって引き起こされた行動の変化を調べることで、特定の脳領域の機能について学ぶことができます。脳卒中は、脳のある部位への血流が途絶えることによって引き起こされ、その影響を受けた部位の脳機能が失われます。脳卒中の被害は小さな範囲にとどまることもありますが、その場合には、結果として生じた行動の変化と特定の部位とを関連付けるための機会を研究者に与えます。脳卒中後に現れる障害の種類は、脳のどこに損傷があったかに大きく依存します。

テオナという、知的で自立した62歳の女性について考えてみましょう。最近、彼女は右半球の前部に脳卒中を発症しました。その結果、彼女は左足を動かすことが非常に困難になりました。(あなたが前で学んだように、右半球は身体の左側を制御します。また、脳の主要な運動中枢は頭の前の方にある前頭葉に位置しています。)また、テオナは行動面でも変化を経験しました。たとえば、彼女は時々、食料品店の青果売り場でブドウやイチゴ、リンゴなどを、お金を払う前に箱から直接食べてしまうことがあります。この行動(それは、脳卒中が起こる前であれば、彼女にとって非常に恥ずかしいことだったでしょう)は、前頭葉の別の領域である前頭前皮質の損傷と一致しています。前頭前皮質は、判断、推論、衝動の制御に関連しています。

前脳の構造

大脳皮質の2つの半球は、前脳の一部です(図3.17)。前脳は脳で最も大きな部分です。前脳には、大脳皮質と、その皮質の下にある他の多くの構造物(皮質下構造:視床、視床下部、脳下垂体、およびいくつかの構造の集合体である大脳辺縁系)があります。大脳皮質は、脳の外側の表面であり、意識、思考、感情、推論、言語、記憶などの高次の処理に関連しています。それぞれの半球は4つの葉に分けることができ、それぞれが異なる機能に関連しています。

図3.17 | 脳とその部分は、前脳、中脳、後脳の3つに大別されます。

脳の葉

脳には、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉の4つの葉があります(図3.18)。前頭葉は、脳の前方に位置し、中心溝として知られる裂に達するまで後ろ側に伸びています。前頭葉は、推論、運動制御、感情、および言語に関与しています。前頭葉には、運動の計画と調整を行う運動皮質、高次の認知機能をつかさどる前頭前皮質、および言葉の生成に不可欠なブローカ野があります。

図3.18 | 脳の葉が示されています。

ブローカ野に損傷を受けた人は、どのような形態であっても言葉を生み出すことが非常に困難になります(図3.18)。たとえば、パドマは電気技師で、社会的にも活発で、親としてもよく関わり面倒見の良い人でした。約20年前、彼女は交通事故に遭い、ブローカ野に損傷を受けました。彼女は、意味のある言葉を話したり形成したりする能力を完全に失ってしまいました。口や声帯には何の問題もありませんが、彼女は言葉を発することができません。彼女は指示に従うことはできますが、言葉で答えることはできず、読むことはできても書くことはできません。彼女は商店に牛乳を買いに行くなどの日常的な作業はこなせますが、いざというときに言葉でコミュニケーションをとることができません。

おそらく前頭葉の損傷で最も有名な事例は、フィニアス・ゲージという名前の男性のものでしょう。1848年9月13日、ゲージ(当時25歳)はバーモント州で鉄道の作業主任として働いていました。彼と作業員は、鉄の棒を使って発破孔に爆薬を詰め込み、線路の経路上にある岩石を除去していました。不幸にも、その鉄棒が火花を散らして爆発を引き起こし、発破孔から鉄棒が飛び出してゲージの顔面に入り、頭蓋骨を貫通してしまいました(図3.19)。自分の血だまりの中に横たわり、頭から脳内の物質が出ていたものの、ゲージには意識があり、起き上がって歩き、話すことができました。しかし、事故から数か月後、人々は彼の人格が変わったことに気づきました。彼の友人の多くは、彼がもはや彼自身ではなくなったと表現しました。事故前のゲージは、礼儀正しく、物腰の柔らかい男性だったと言われていますが、事故後は奇妙で不適切な行動をとるようになりました。このような人格の変化は、前頭葉の機能である衝動制御の喪失と一致するでしょう。

前頭葉の損傷だけでなく、その後の鉄の棒の経路の調査では、前頭葉と大脳辺縁系を含む他の脳構造との間の経路にも損傷があった可能性が指摘されました。前頭葉の計画機能と大脳辺縁系の情動プロセスとのつながりが断たれたことで、ゲージは感情的な衝動を制御することが困難になりました。

しかしながら、ゲージの人格の劇的な変化は、誇張され、脚色されたものであることを示唆する証拠もあります。ゲージの事例は、19世紀に行われた局在化(脳の特定の領域が特定の機能と関連しているかどうか)に関する議論の真っ只中で起こったものです。ゲージ、彼の負傷の程度、および彼の事故前後の生活についての極めて限られた情報を基にすると、科学者たちは論争のどの側にいたとしても自分たちの見解に対する裏付けを見出す傾向がありました(Macmillan, 1999)。

図3.19 | (a)1848年の鉄道建設現場での事故で自身の頭蓋骨を貫通した鉄棒を持つフィニアス・ゲージ。(b)ゲージの前頭前皮質は左半球で大きく損傷していました。鉄棒はゲージの顔の左側から入り、目の後ろを通って、頭蓋骨の上部から出て、約80フィート離れたところに落ちました。(credit a: modification of work by Jack and Beverly Wilgus)

脳の頭頂葉は、前頭葉のすぐ後ろに位置し、身体の感覚器官から得られる情報を処理する役割を担っています。頭頂葉には体性感覚皮質があり、これは触覚、温度、痛みなどの体全体からの感覚情報を処理するのに不可欠な部分です。体性感覚皮質は、触覚や感覚を処理する脳の領域です。体性感覚皮質は、この皮質の異なる領域のそれぞれがあなたの体の異なる部位からの感覚を処理するという点で魅力的なものです。さらに、体の特定の部位の表面積が大きく、その体の部位の神経の量が多いほど、体性感覚皮質でその部位からの感覚を処理するための領域が大きくなります。例えば、手の指は足の指よりも多くのスペースを占めています。あなたが図からわかるように(図3.20)、手の指からの感覚を処理するためのスペースの量は、足の指のための量よりもはるかに大きいです。

学習へのリンク

神経可塑性の興味深い例として、四肢の切断後の体性感覚皮質の再編成が挙げられます。切断後の「幻肢」に関する切断者の経験についてのNPRの番組を聴いて(http://openstax.org/l/phantomlimb)、さらに学んでください。

図3.20 | 身体での空間的な関係性は、体性感覚皮質の構成に反映されます。

側頭葉は、頭の側面に位置し(側頭葉(temporal lobe)の temporal は、「こめかみ(temple)の近く」の意味)、聴覚、記憶、感情、そして言語の一部の側面に関連しています。聴覚情報を処理することを担う主な領域である聴覚皮質は、側頭葉の中にあります。また、音声の理解に重要な役割を果たすウェルニッケ野もここにあります。ブローカ野に損傷を受けた人は、言葉を生み出すことが困難であるのに対し、ウェルニッケ野に損傷を受けた人は、理解可能な言葉を生み出すことはできても、それを理解することはできません(図3.21)。

図3.21 | ブローカ野またはウェルニッケ野のいずれかが損傷すると、言語障害が生じます。しかしながら、どちらの領域が影響を受けるかによって、障害の種類は大きく異なります。

後頭葉は、脳の最後部に位置し、入力された視覚情報の解釈を担う一次視覚皮質を収容しています。後頭皮質はレティノトピカルに構成されています。レティノトピカルとは、ある人の視野内の物体の位置と、その物体が皮質上で表現される位置との間には密接な関係性があることを意味します。あなたは、後頭葉で視覚情報がどのように処理されるかについては、感覚と知覚を学習する際に詳しく学ぶことになるでしょう。

前脳の他の領域

大脳皮質の下にある前脳の他の領域には、視床と大脳辺縁系が含まれます。視床は、脳にとっての感覚の中継役です。嗅覚を除くすべての感覚は、視床を経由して、脳の他の領域に送られ、処理されます(図3.22)。

図3.22 | 視床は、ほとんどの感覚が処理される際に通過する脳の中継センターの役割を果たしています。

大脳辺縁系は、感情や記憶の処理に関わっています。興味深いことに、嗅覚は大脳辺縁系に直接投影されます。したがって、驚くことではないですが、匂いは他の感覚の様相ではできないような方法で感情的な反応を呼び起こすことができます。大脳辺縁系は、さまざまな構造からなりますが、中でも重要なのは、海馬、扁桃体、視床下部の3つです(図3.23)。海馬は、学習と記憶に不可欠な構造です。扁桃体は、私たちが感情を経験したり、感情の意味を記憶に結びつけたりするのに関わっています。視床下部は、体温、食欲、血圧の調整など、多くの恒常性維持プロセスを調節しています。また、視床下部は、神経系と内分泌系の橋渡しとしてや、性的動機付けと行動の制御にも関与しています。

図3.23 | 大脳辺縁系は、感情的な反応と記憶の仲介に関与しています。

ヘンリー・モレゾン(H.M.)の事例

1953年、ヘンリー・グスタフ・モレゾン(H.M.)は激しいてんかんの発作を経験している27歳の男性でした。H.M.は発作を制御するための試みとして、海馬と扁桃体を切除する脳手術を受けました。手術後、H.M.の発作はかなり軽くなりましたが、その一方で、予期していなかった、そして悲惨な結果を被ることにもなりました:彼は、多くの種類の新しい記憶を形成する能力を失いました。たとえば、誰がアメリカの大統領であるかというような新しい事実を学ぶことができませんでした。また、彼は新しい技術を学ぶことはできましたが、その後、それらを学んだことを覚えていませんでした。たとえば、彼はコンピュータの使い方を学んだとしても、それを使ったことがあるという意識的な記憶を持っていませんでした。彼は初めて見る顔を覚えることができず、何らかの出来事があってもそれが起きた直後であってさえ覚えていることができませんでした。研究者たちは彼の経験に魅了され、彼は医学的・心理学的な歴史の中で最も研究された事例のひとつとされています(Hardt, Einarsson, & Nader, 2010; Squire, 2009)。実際、彼の事例は、新しい学習を顕在記憶に固定させる際に海馬が果たす役割について、非常に大きな洞察を与えています。

学習へのリンク

熟練の音楽家であるクライヴ・ウェアリングは、病気によって海馬に損傷を受け、新しい記憶を形成する能力を失いました。この人と彼の症状についてのドキュメンタリービデオ(http://openstax.org/l/wearing)の最初の数分を見て、さらに学んでください。

中脳と後脳の構造

中脳は、前脳と後脳の間の、脳の深くに位置するいくつかの構造からなります。網様体は中脳の中心にありますが、実際には上側の前脳にも下側の後脳にも伸びています。網様体は、睡眠/覚醒サイクル、興奮、注意力、運動活動などの調節において重要な役割を果たしています。

黒質(substantia nigra:ラテン語で「黒い物質」の意味)と腹側被蓋野(VTA)も中脳の中に位置します(図3.24)。どちらの領域にも神経伝達物質のドーパミンを生成する細胞体があり、両者とも運動には欠かせません。パーキンソン病には、黒質とVTAの変性が関わっています。さらに、これらの構造は、気分、報酬、嗜癖にも関与しています(Berridge & Robinson, 1998; Gardner, 2011; George, Le Moal, & Koob, 2012)。

図3.24 | 黒質と腹側被蓋野(VTA)は中脳の中に位置します。

後脳は頭の後ろに位置し、脊髄の延長部分のように見えます。後脳には、延髄、橋、小脳が含まれます(図3.25)。延髄は、呼吸、血圧、心拍数などの自律神経系の自動的なプロセスを制御しています。は、文字通り「橋」を意味し、その名前が示すように、後脳と脳の残りの部分とをつなぐ役割を果たしています。それはまた、睡眠時の脳活動の調節にも関与しています。延髄、橋、およびその他の構造物は脳幹として知られており、脳幹の外観は中脳と後脳の両方にまたがっています。

図3.25 | 橋、延髄、小脳が後脳を構成します。

小脳(cerebellum:ラテン語で「小さな脳」の意味)は、筋肉、腱、関節、耳の構造からのメッセージを受け取り、バランス、協調、動き、および運動技能を制御します。また、小脳は、ある種の記憶を処理するのに重要な部位であると考えられています。特に、手続き記憶、つまり、課題のやり方を学んだり覚えたりすることに関連する記憶は、小脳と関連があると考えられています。H.M.は、新しい顕在記憶を形成することはできませんでしたが、新しい課題を学習することはできたことを思い出してください。これは、H.M.の小脳がそのまま残っていたという事実によるものだと思われます。

あなたはどう考えますか?

脳死と生命維持装置について

もし、あなたの配偶者や恋人が、脳死状態と診断されたにもかかわらず、彼または彼女の身体が医療機器によって生かされているとしたら、あなたはどうしますか?栄養チューブを外すかどうかは、誰が決めるべきでしょうか?医療費は考慮事項とされるべきでしょうか?

1990年2月25日、フロリダ州のテリー・シアボという女性が、明らかに過食エピソードをきっかけにして心停止しました。結局、彼女は蘇生しましたが、彼女の脳は長い時間、酸素が不足していました。脳スキャンの結果、彼女の大脳皮質は全く活動しておらず、重度の永続的な脳萎縮に陥っていることが判明しました。要するに、シアボは植物状態にありました。医療専門家は、彼女が二度と動くことも、話すことも、どのような形で反応することもできないだろうと判断しました。彼女を生かし続けるためには栄養チューブが必要で、彼女の状況が改善される見込みはありませんでした。

時折、シアボの目が動いたり、また、彼女がうめき声をあげたりすることもありました。医師がきっぱりと否定しているにもかかわらず、彼女の両親は、これは彼女が自分たちとコミュニケーションをとろうとしているサインだと信じていました。

12年後、シアボの夫は、妻は感情や感覚、脳の活動がない状態で生かされ続けることを望まないだろうと主張しました。しかしながら、彼女の両親は、栄養チューブを外すことに強く反対しました。結局、この事例はフロリダ州と連邦政府の両方の法廷へと持ち込まれました。2005年になると、裁判所はシアボの夫を支持し、2005年3月18日に栄養チューブが取り外されました。シアボはその13日後に亡くなりました。

なぜシアボの目は時折動いたのでしょうか?そして、なぜ彼女はうめき声をあげたのでしょうか?思考、自発的な運動、感情をつかさどる脳の部分は完全に損傷していましたが、彼女の脳幹はまだ無傷でした。延髄と橋は呼吸を維持し、目の不随意の運動と時折のうめき声を引き起こしていました。栄養チューブをつけていた15年間で、シアボの医療費は700万ドルを超えたかもしれません(Arnst, 2003)。

このような質問は、数十年前にテリー・シアボの事例で大衆の良心に訴えかけられましたが、今もなお続いています。2013年、扁桃腺の手術後に合併症を起こした13歳の少女が、脳死状態にあると宣言されました。彼女に生命維持装置をつけたままにしておきたいという彼女の家族と、脳死の宣告を受けた人に関する病院の方針が対立しました。2013-14年にテキサス州で起きた別の複雑な事例では、脳死状態と宣告された妊娠中の救急救命士が、そのような状況になった場合の彼女の希望に基づいた配偶者の指示にもかかわらず、数週間にわたって生かされました。この事例では、胎児の生存が不可能であると医師が判断するまで、未出生の胎児を保護するための州法が考慮されました。

脳死と宣言された患者への医療対応をめぐる判断は複雑です。あなたはそれらの問題についてどのように考えますか?

脳画像撮影

あなたは、脳の損傷によって、脳のさまざまな部分の機能についての情報が得られることを学んできました。しかしながら、最近では、脳に損傷を受けていない人でも、脳画像撮影技術を使って情報を得ることができるようになってきました。この項目では、私たちは、放射線、磁場、または脳内の電気的活動などを利用するものを含め、脳を画像化するために利用可能な技術のいくつかについて、詳細に見ていきます。

放射線が関与する技術

コンピュータ断層撮影法(CT)スキャンでは、ある人の体や脳の特定の部分のX線写真を何枚も撮影します(図3.26)。X線は密度の異なる組織を異なる速度で通過するため、コンピュータはスキャンされた体の領域の全体像を構築することができます。CTスキャンは、しばしば腫瘍や著しい脳の萎縮があるかどうかを判断するために用いられます。

図3.26 | CTスキャンは脳腫瘍の診断にも使われます。(a)左側の画像は健康な脳を示しており、(b)右側の画像は左前頭葉の脳腫瘍を示しています。(credit a: modification of work by “Aceofhearts1968”/Wikimedia Commons; credit b: modification of work by Roland Schmitt et al)

陽電子放射断層撮影法(PET)スキャンでは、生きており、活動している脳の写真を撮影することができます(図3.27)。PET検査を受ける人は、トレーサーと呼ばれる微弱な放射性物質を飲んだり注射されたりします。血液中に入ったトレーサーは、脳の任意の領域における量をモニターすることができます。脳のある領域が活発になればなるほど、その領域に流れ込む血液の量が多くなります。コンピュータがトレーサーの動きを監視し、ある行動の際における脳の活動領域と非活動領域の大まかな地図を作成します。PETスキャンは、あまり詳細を示すことがなく、事象を時間的に正確に特定することができない上、脳を放射線にさらす必要があるため、この技術は代替的な診断の道具としてのfMRIに取って代わられています。しかしながら、CTと組み合わせることで、PET技術は特定の文脈においてまだ使用されています。たとえば、CT/PETスキャンは、神経伝達物質の受容体の活動をよりうまく撮影することができ、統合失調症の研究に新たな道を開いています。このハイブリッドCT/PET技術では、CTが脳の構造を鮮明に映し出し、PETが脳の活動を示します。

図3.27 | PETスキャンは、脳のさまざまな部分の活動を示すのに役立ちます。(credit: Health and Human Services Department, National Institutes of Health)

磁場が関与する技術

磁気共鳴画像法(MRI)では、強力な磁場を発生させる装置の中に人を入れます。この磁場によって、体の細胞内の水素原子が動きます。磁場が止まると、水素原子は元の位置に戻る際に電磁信号を出します。密度の異なる組織からは異なる信号が出ており、それをコンピュータが解釈してモニターに表示します。機能的磁気共鳴画像法(fMRI)は、同じ原理で作動しますが、血流と酸素レベルを追跡することにより、脳活動の時間的変化を示します。fMRIでは、PETスキャンよりも詳細な脳の構造の画像が得られるとともに、時間的な精度も向上します(図3.28)。MRIとfMRIは、その詳細さゆえに、健康な人の脳と心理学的障害と診断された人の脳を比較するためにしばしば使われます。この比較は、これらの人々の間にどのような構造的・機能的な違いがあるかを明らかにするのに役立ちます。

図3.28 | fMRIは、脳の活動を時間の経過にわたって示します。この画像は、fMRIの1フレームを表しています。(credit: modification of work by Kim J, Matthews NL, Park S.)

学習へのリンク

MRIとfMRIについてのバーチャル実験室(http://openstax.org/l/mri)を訪れて、さらに学んでください。

電気的活動が関与する技術

いくつかの状況では、活動の実際の場所に関する情報を必要とせず、人の脳の全体的な活動の理解を得るだけで有用なことがあります。脳波記録法(EEG)は、脳の電気的活動の測定手段を提供することにより、この目的のために役立ちます。人の頭の周りには電極が配置されます(図3.29)。電極で受信した信号は、脳の電気的活動(脳波)として印刷され、記録された脳波の周波数(1秒あたりの波の数)と振幅(高さ)が、ミリ秒以内の精度で表示されます。このような情報は、睡眠障害のある人の睡眠パターンを調査する研究者にとって特に有用です。

図3.29 | 現代のEEG研究では、電極付きの帽子を使って、脳全体の活動の正確なタイミングを調べることができます。(credit: SMI Eye Tracking)

3.5 内分泌系

学習目標

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:

  • 内分泌系の主要な腺を特定する
  • それぞれの腺から分泌されるホルモンを特定する
  • 身体機能の調節におけるそれぞれのホルモンの役割を記述する

内分泌系は、ホルモンとして知られる化学物質を産生する一連の腺から構成されています(図3.30)。ホルモンは、神経伝達物質と同じように、信号を送るためには受容体に結合しなければならないような化学伝達物質です。しかしながら、受容体のある細胞の近くで放出される神経伝達物質とは異なり、ホルモンは血液中に分泌されて全身を巡り、そのホルモンの受容体のあるどのような細胞にも影響を与えます。このように、神経伝達物質の作用が局所的であるのに対し、ホルモンの作用は広範囲に及びます。また、ホルモンは効果が現れるのが遅く、効果が長く続く傾向があります。

図3.30 | 内分泌系の主要な腺が示されています。

ホルモンは、あらゆる種類の身体機能の調節に関与しており、究極的には、視床下部(中枢神経系)と脳下垂体(内分泌系)の相互作用によって制御されます。ホルモンの不均衡は、さまざまな疾患に関係しています。この節では、内分泌系を構成する主要な腺のいくつかと、それらの腺から分泌されるホルモンについて探求します(表3.2)。

主要な腺

脳下垂体は、脳の基底部にある視床下部から垂れ下がっており、視床下部と密接に関連して活動します。脳下垂体は、大体において視床下部からの指示を遂行しているだけであるにもかかわらず、そのメッセンジャーホルモンが内分泌系の他のすべての腺を制御していることから、しばしば「主たる腺」と呼ばれています。脳下垂体は、メッセンジャーホルモンに加えて、成長ホルモン、痛みを和らげるエンドルフィン、体内の水分量を調節する多くの重要なホルモンを分泌しています。

甲状腺は首に位置し、成長、代謝、食欲を調節するホルモンを放出します。甲状腺機能亢進症(グレーブス病)では、甲状腺がサイロキシンというホルモンを過剰に分泌し、興奮状態、突出した眼球、体重減少などを引き起こします。甲状腺機能低下症では、ホルモンの分泌量が減ることで、患者は疲労を感じ、しばしば寒さを感じると訴えることもあります。幸いなことに、甲状腺疾患は、甲状腺から分泌されるホルモンのバランスを取り戻すための薬物によって治療可能な場合が多いです。

副腎は、腎臓の上に位置し、エピネフリン(アドレナリン)やノルエピネフリン(ノルアドレナリン)など、ストレス反応に関わるホルモンを分泌します。膵臓は、血糖値を調節するホルモン:インスリンとグルカゴンを分泌する内部器官です。これらの膵臓ホルモンは、血糖値を下げたり(インスリン)、上げたり(グルカゴン)することにより、一日中安定した血糖値を維持するのに欠かせません。糖尿病の人は十分なインスリンを産生しないため、彼らはインスリンの生産を促す薬や補充する薬を服用したり、糖分や炭水化物の摂取量を厳密に制御したりしなければなりません。

性腺は、生殖に重要な性ホルモンを分泌し、性的な動機付けと行動の両方を仲介します。女性の性腺は卵巣、男性の性腺は精巣です。卵巣はエストロゲンやプロゲステロンを分泌し、精巣はテストステロンなどのアンドロゲンを分泌します。

表3.2

深く掘り下げてみよう

スポーツ選手とアナボリックステロイド

アナボリックステロイド薬は連邦法に違反しており、多くのプロスポーツ団体(たとえばナショナル・フットボール・リーグ)が使用を禁止しているにもかかわらず、アマチュアやプロのスポーツ選手によって使用され続けています。この薬物は、運動能力を高めると考えられています。アナボリックステロイド薬は、テストステロンやその誘導体のような、体内のステロイドホルモンの効果を模倣しています。これらの薬物は、筋肉量、強度、持久力を増加させることにより、競争力を高める可能性がありますが、すべての使用者がこのような結果を経験するとは限りません。さらに、能力向上薬物(PEDs)の使用にはリスクがつきものです。アナボリックステロイドの使用は、さまざまな潜在的な悪影響に結び付けられており、その重大性は主として外見上の問題(にきび)から生命を脅かす問題(心臓発作)にまでわたります。さらに、これらの物質の使用は、気分に大きな変化をもたらし、攻撃的な行動を増加させることがあります(National Institute on Drug Abuse, 2001)。

野球選手のアレックス・ロドリゲス(A-Rod)は、違法なPEDsの使用に関して、メディアの騒乱の中心となっています。PEDsを使用していた間、ロドリゲスのフィールド上での成績は他に類を見ないものでした。彼の成功は、プロ野球選手として最高額の報酬を得るための契約交渉において大きな役割を果たしました。ロドリゲスはここ数年、PEDsを使用していないと主張していますが、2013年にはかなりの試合数の出場停止処分を受けており、この処分が維持されれば、2000万ドル以上の収入が失われることになります(Gaines, 2013)。スポーツ選手とドーピングについて、あなたはどのように考えますか?PEDsの使用を禁止すべき理由、または禁止すべきでない理由は何ですか?あなたなら、PEDsの使用を検討しているスポーツ選手にどのようなアドバイスをしますか?

重要用語

活動電位:ニューロンの軸索を移動する電気信号

副腎:腎臓の上に位置し、ストレス反応に関わるホルモンを分泌する

作用薬:神経伝達物質の作用を模倣したり強化したりする薬物

全か無か:他のニューロンからの信号が、励起の閾値に達するのに十分か不十分かのどちらかであるという現象

対立遺伝子:遺伝子の特定のバージョン

扁桃体:大脳辺縁系の構造で、私たちが感情を経験したり、感情の意味を記憶に結びつけたりするのに関与する

拮抗薬:特定の神経伝達物質の正常な活動を阻止または阻害する薬物

聴覚皮質:側頭葉にある大脳皮質の一片で、聴覚情報の処理を担う

自律神経系:内部器官や腺を制御する

軸索:ソーマの主要な延長部

生物学的な視点:うつ病や統合失調症などの心理学的障害は、1つかそれ以上の神経伝達物質系の不均衡に関連しているという見解

ブローカ野:左半球にあり、言葉の生成に不可欠な領域

中枢神経系(CNS):脳と脊髄

小脳:後脳の構造であり、バランス、協調、動き、および運動能力を制御し、ある種の記憶の処理にも重要であると考えられている

大脳皮質:人間の最も高い精神的能力に関連する脳の表面

染色体:遺伝情報の長いひも

コンピュータ断層撮影法(CT):コンピュータを使って特定の部位の複数のX線写真を調整・統合する画像撮影技術

脳梁:脳の2つの半球をつなぐ神経線維の太い束

樹状突起:他のニューロンからの信号を受け取るソーマの枝分かれした伸長部分

デオキシリボ核酸(DNA):ヌクレオチドの塩基対で構成されたらせん状の分子

糖尿病:インスリンの産生が不十分なために起こる病気

顕性対立遺伝子:その対立遺伝子を持っている個人で表現型が発現する対立遺伝子

脳波記録法(EEG):頭皮の電極を介して脳の電気的活動を記録する

内分泌系:ホルモンとして知られる化学物質を産生する一連の腺

エピジェネティクス:同じ遺伝子型がどのようにして異なる表現型をもたらすかなどの、遺伝子と環境の相互作用に関する研究

「闘争か、逃走か」反応:自律神経系の交感神経系が活性化することで、蓄えたエネルギーを利用したり、感覚を高めたりして、脅威に対抗したり、安全な場所に逃げたりすることができる

前脳:脳の最も大きな部分であり、大脳皮質、視床、大脳辺縁系などの構造がある

二卵性双生児:異なる精子によって受精した2つの異なる卵子から生まれた双子で、双生児でない兄弟姉妹と同様に、その遺伝物質は異なる

前頭葉:推論、運動制御、感情、および言語に関与する大脳皮質の一部で、運動皮質を含む

機能的磁気共鳴画像法(fMRI):代謝活動の時間的変化を示すMRI

遺伝子:身体的特徴を制御する、または部分的に制御するDNAの配列

遺伝と環境の相関:私たちの遺伝子は私たちの環境に影響を与え、私たちの環境は私たちの遺伝子の発現に影響を与えるとする、遺伝子と環境の相互作用に関する見解

遺伝子型:ある個人の遺伝子構成

グリア細胞:ニューロンの絶縁や通信、栄養や廃棄物の輸送など、ニューロンを物理的および代謝的にサポートする神経系の細胞

性腺:生殖を成功させるために重要な性ホルモンを分泌し、性的動機付けと行動の両方を仲介する

脳回:大脳皮質にある隆起や突起

半球:脳の左半分または右半分

ヘテロ接合型:2つの異なる対立遺伝子からなる

後脳:脳の一部で、延髄、橋、小脳を含む

海馬:学習と記憶に関連する側頭葉の構造

恒常性:体温などの生物学的条件が最適なレベルに維持されている平衡状態

ホモ接合型:2つの同一の対立遺伝子からなる

ホルモン:内分泌腺によって放出される化学伝達物質

視床下部:性的動機付けや行動、多くの恒常性維持プロセスを調節する前脳の構造で、神経系と内分泌系の橋渡しとしての役割を果たす

一卵性双生児:同じ精子と卵子から生まれた双生児

側性化:脳のそれぞれの半球が特殊な機能に関連しているという概念

大脳辺縁系:感情や記憶の処理に関与する構造の集合体

大脳縦裂:脳の皮質にある深い溝

磁気共鳴画像法(MRI):磁場を使用して画像化された組織の像を生成する

延髄:呼吸、血圧、心拍数などの自動的なプロセスを制御する後脳の構造

膜電位:ニューロン膜を横切る電荷の差

中脳:前脳と後脳の間に位置する脳の一部で、網様体を含む

運動皮質:運動の計画と調整に関与する大脳皮質の一片

突然変異:遺伝子の突然の永久的な変化

ミエリン鞘:軸索を絶縁する脂肪質の物質

ニューロン:神経系のすべての任務にとって不可欠な、相互に接続された情報処理機構として機能する神経系の細胞

神経可塑性:神経系の変化する能力

神経伝達物質:神経系の化学伝達物質

ランヴィエの絞輪:軸索を包むミエリン鞘にある隙間

後頭葉:視覚処理に関連する大脳皮質の一部で、一次視覚皮質を収容する

膵臓:血糖値を調節するホルモンを分泌する

副交感神経系:ありふれた日常的な体の活動に関連する

頭頂葉:さまざまな感覚情報や知覚情報を処理する大脳皮質の一部で、一次体性感覚皮質を収容する

末梢神経系(PNS):脳や脊髄と、身体の周辺にある筋肉や器官、感覚器官とをつなぐ

表現型:個人の遺伝性の身体的特徴

脳下垂体:体内の水分量を調節するいくつかの重要なホルモンと、内分泌系の他の腺の活動を指示するいくつかのメッセンジャーホルモンを分泌する

多遺伝子性:複数の遺伝子が1つの形質に影響を与えること

橋:脳と脊髄をつなぐ後脳の構造で、睡眠中の脳活動の調節に関与する

陽電子放射断層撮影法(PET):個人に微弱な放射性物質を注射し、脳のさまざまな部位の血流の変化を観察する

前頭前皮質:前頭葉に位置し、高次の認知機能をつかさどる領域

向精神薬:神経伝達物質のバランスを回復させることによって精神症状を治療する薬

反応の範囲:私たちの遺伝子が私たちの活動できる範囲の境界線を定めるとともに、私たちの環境が遺伝子と相互に作用して、人間がその範囲内のどこに位置するかを決定する、ということを主張する

受容体:神経伝達物質が結合する細胞表面のタンパク質

潜性対立遺伝子:個人がその対立遺伝子についてホモ接合型である場合にのみ、表現型が発現する対立遺伝子

静止電位:信号と信号の間の、ニューロン膜の電位の待機状態

網様体:中脳の構造で、睡眠/覚醒サイクル、興奮、注意力、運動活動などの調節において重要な役割を果たしている

再取り込み:神経伝達物質が、それを放出したニューロンに戻されること

半透膜:小さな分子や電荷を持たない分子を通過させる一方で、大きな分子や高電荷を持つ分子は阻止する細胞膜

ソーマ:細胞体

体性神経系:感覚情報と運動情報を中枢神経系との間で伝達する

体性感覚皮質:触覚、温度、痛みなどの体全体からの感覚情報を処理するのに不可欠な部分

黒質:ドーパミンが生成される中脳の構造で、運動の制御に関与する

溝:大脳皮質のくぼみや裂け目

交感神経系:ストレスが関連する活動や機能に関与する

シナプス間隙:2つのニューロンの間にある小さな隙間で、通信が行われる場所

シナプス小胞:神経伝達物質の貯蔵場所

側頭葉:聴覚、記憶、感情、および言語の一部の側面に関連する大脳皮質の一部で、一次聴覚皮質を収容する

終末ボタン:シナプス小胞を含む軸索の末端

視床:脳の感覚の中継役

自然選択による進化の理論:環境によりよく適した生物は、環境にうまく適していない生物よりも生存し、繁殖するということを述べる

励起の閾値:ニューロンが活動を開始するための膜の電荷のレベル

甲状腺:成長、代謝、食欲などを調節するホルモンを分泌する

腹側被蓋野(VTA):ドーパミンが生成される中脳の構造で、気分、報酬、嗜癖に関連する

ウェルニッケ野:音声の理解に重要な領域

この章のまとめ

3.1 人間の遺伝学

遺伝子とは、特定の形質をコードするDNAの配列です。ある遺伝子の異なるバージョンは対立遺伝子と呼ばれます。対立遺伝子は顕性または潜性として分類されることもあります。顕性対立遺伝子は、常に顕性の表現型をもたらします。潜性の表現型を示すためには、個人は潜性対立遺伝子についてホモ接合型でなければなりません。遺伝子は、身体的および心理的特性に影響を与えます。究極的には、遺伝子がいつ、どのように発現するか、そして身体的・心理的特性という点においてどのような結果になるかは、私たちの遺伝子と私たちの環境との相互作用の結果です。

3.2 神経系の細胞

神経系を構成する細胞には、グリアとニューロンの2種類があります。グリアは一般的に補助的な役割を果たしている一方で、ニューロン間の通信は、神経系に関連するすべての機能にとっての基本です。ニューロンの通信は、ニューロンの特殊な構造によって可能になります。ソーマは細胞核を含み、樹状突起はソーマから木のように枝分かれして伸びています。軸索は細胞体のもう1つの主要な延長部分です。軸索はしばしばミエリン鞘で覆われており、ミエリン鞘は神経インパルスの伝達速度を高めます。軸索の末端には、神経伝達物質の入ったシナプス小胞を含む終末ボタンがあります。

ニューロンの通信は、電気化学的な事象です。樹状突起には、近くのニューロンによって放出された神経伝達物質のための受容体があります。もし他のニューロンから受信した信号が十分に強ければ、活動電位が軸索に沿って移動して終末ボタンに到達し、その結果、神経伝達物質がシナプス間隙に放出されます。活動電位は、「全か無か」の原理で作動し、ニューロン膜を横切るようなNa+とK+の移動を伴います。

異なる神経伝達物質は、異なる機能に関連付けられます。心理学的障害は、しばしば特定の神経伝達物質系のバランスの崩れが関与しています。そのため、神経伝達物質のバランスを取り戻すために、向精神薬が処方されます。薬物は、特定の神経伝達物質系の作用薬として、あるいは拮抗薬として作用します。

3.3 神経系の要素

脳と脊髄が中枢神経系を構成しています。末梢神経系は、体性神経系と自律神経系で構成されています。体性神経系は、中枢神経系との間で感覚信号および運動信号をやり取りします。自律神経系は、器官や腺の機能を制御するもので、交感神経系と副交感神経系に分けられます。交感神経系の活性化は私たちを闘争や逃走のために備えさせるものであり、副交感神経系の活性化はリラックスした状態での正常な機能に関連するものです。

3.4 脳と脊髄

脳は2つの半球から構成されており、それぞれが体の反対側を制御しています。それぞれの半球は、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉という異なる葉に分かれています。大脳皮質の葉に加えて、前脳には視床(感覚の中継役)と大脳辺縁系(感情と記憶の回路)が含まれています。中脳には、睡眠や覚醒にとって重要な網様体や、黒質や腹側被蓋野があります。これらの構造は、運動、報酬、嗜癖のプロセスにとって重要です。後脳には、呼吸や血圧などの自動的な機能を制御する脳幹の構造(延髄、橋、中脳)があります。後脳には、運動やある種の記憶を調整するのに役立つ小脳も含まれています。

脳に損傷を受けた人は広範に研究され、脳のさまざまな領域の役割についての情報を提供してくれます。また、最近の技術の進歩により、私たちは脳の構造と機能を画像化することで同様の情報を得ることができるようになりました。それらの技術には、CT、PET、MRI、fMRI、EEGが含まれます。

3.5 内分泌系

内分泌系の腺は、体の正常な機能を調節するためにホルモンを分泌します。視床下部は、神経系と内分泌系の橋渡しとしての役割を果たし、脳下垂体の分泌物を制御しています。脳下垂体は、他のすべての腺の分泌物を制御する主たる腺としての役割を果たしています。甲状腺からは基礎代謝プロセスや成長にとって重要なサイロキシンが分泌され、副腎からはストレス応答に関与するホルモンが分泌され、膵臓からは血糖値を調節するホルモンが分泌され、卵巣と精巣は性的動機付けや行動を調節する性ホルモンを産生します。

レビュー問題

1.________とは、DNAの配列における突然の永続的な変化のことです。
a.対立遺伝子
b.染色体
c.エピジェネティック
d.突然変異

2.(1)________は人の遺伝的構成を指し、(2)________は人の身体的特徴を指します。
a.(1)表現型、(2)遺伝子型
b.(1)遺伝子型、(2)表現型
c.(1)DNA、(2)遺伝子
d.(1)遺伝子、(2)DNA

3.________は、遺伝子とその発現に焦点を当てた研究分野です。
a.社会心理学
b.進化心理学
c.エピジェネティクス
d.行動神経科学

4.人間には、________対の染色体があります。
a.15
b.23
c.46
d.78

5.________は、他のニューロンからの入力信号を受け取ります。
a.ソーマ
b.終末ボタン
c.ミエリン鞘
d.樹状突起

6.________は所与の神経伝達物質系の活動を促進したり、模倣したりします。
a.軸索
b.SSRI
c.作用薬
d.拮抗薬

7.多発性硬化症は、________の絶縁破壊を伴います。
a.ソーマ
b.ミエリン鞘
c.シナプス小胞
d.樹状突起

8.活動電位は、Na+が細胞の(1)________へ移動し、K+が細胞の(2)________へ移動することを伴います。
a.(1)内側、(2)外側
b.(1)外側、(2)内側
c.(1)内側、(2)内側
d.(1)外側、(2)外側

9.私たちが部屋を横切るときに足を動かす能力は、________神経系によって制御されています。
a.自律
b.体性
c.交感
d.副交感

10.もしあなたの________が活性化されていれば、あなたは比較的気楽さを感じているでしょう。
a.体性神経系
b.交感神経系
c.副交感神経系
d.脊髄

11.中枢神経系は、________で構成されています。
a.交感神経系と副交感神経系
b.器官と腺
c.体性神経系と自律神経系
d.脳と脊髄

12.交感神経の活性化は、________に関連しています。
a.瞳孔の散大
b.肝臓へのグルコースの貯蔵
c.心拍数の増加
d.aとcの両方

13.________は、嗅覚を除くすべての感覚情報が、脳の他の領域に送られてさらに処理される前に向かう、感覚の中継基地です。
a.扁桃体
b.海馬
c.視床下部
d.視床

14.________の損傷は、言語を理解する能力を混乱させますが、言葉を作り出す能力は損なわれません。
a.扁桃体
b.ブローカ野
c.ウェルニッケ野
d.後頭葉

15.________は、磁場を利用して、任意の組織の写真を作成します。
a.EEG
b.MRI
c.PETスキャン
d.CTスキャン

16.以下のうち、前脳の構造ではないものはどれですか?
a.視床
b.海馬
c.扁桃体
d.黒質

17.膵臓から分泌される2つの主要なホルモンは以下の通りです:
a.エストロゲンとプロゲステロン
b.ノルエピネフリンとエピネフリン
c.サイロキシンとオキシトシン
d.グルカゴンとインスリン

18.________は、他の内分泌腺の機能を指示するメッセンジャーホルモンを分泌します。
a.卵巣
b.甲状腺
c.脳下垂体
d.膵臓

19.________は、エピネフリンを分泌します。
a.副腎
b.甲状腺
c.脳下垂体
d.主たる腺

20.________は、体の水分量を調節するホルモンを分泌します。
a.副腎
b.脳下垂体
c.精巣
d.甲状腺

批判的思考の問題

21.自然選択による進化の理論では、所与の形質についての変動性が必要です。なぜ変動性が必要なのでしょうか?それはどこから来るのでしょうか?

22.コカインはシナプス伝達に対して、2つの作用を及ぼします:それは、ドーパミンの再取り込みを阻害するとともに、シナプス間隙により多くのドーパミンを放出させます。コカインは作用薬と拮抗薬のどちらに分類されるでしょうか?その理由は何ですか?

23.リドカインやノボカインなどの薬物は、Na+チャネル遮断薬として作用します。言い換えれば、それらは、ナトリウムがニューロン膜を横切って移動するのを防ぎます。なぜこの特定の作用によって、これらの薬物が効果的な局所麻酔薬になるのでしょうか?

24.慢性的なストレスにさらされた結果として免疫機能が低下することの意味合いは何でしょうか?

25.交感神経系の活性化の影響を示した図3.14を見てください。これらの事柄すべては「闘争か、逃走か」反応にどのように関わってきますか?

26.現代の画像撮影技術が登場する前は、科学者や臨床医は、脳のさまざまな領域がどのように影響を受けたかを判断するために、脳に損傷を受けて行動が変化した人の解剖に頼っていました。このようなアプローチに付随する限界は何でしょうか?

27.網様体の活動が睡眠や覚醒にどのように関係しているかをあなたが調べるためには、議論されたもののうちどの技術が有望な選択肢となるでしょうか?その理由は何ですか?

28.ホルモンの分泌は、しばしば負のフィードバック機構によって調節されています。つまり、一度ホルモンが分泌されると、視床下部と脳下垂体は、そもそもホルモンを分泌するのに必要な信号の生成を停止してしまいます。経口避妊薬の多くは、少量のエストロゲンおよび/またはプロゲステロンでできています。なぜこれが効果的な避妊手段になるのでしょうか?

29.化学伝達物質は、神経系と内分泌系の両方で使用されています。この2つの系はどのような性質を共有していますか?どのような性質が異なりますか?どちらの方が速いでしょうか?どちらの方がより長く続く変化をもたらすでしょうか?

個人的に当てはめてみる問題

30.あなたは、自身の遺伝子の半分を両親のそれぞれと共有していますが、間違いなく両親のどちらとも大きく異なっています。数分をかけてあなたと両親の間の共通点と相違点を書き出してみてください。あなたの独自の環境や経験が、その違いのいくつかにどのように寄与していると思いますか?

31.あなたやあなたの知り合いは、向精神薬を処方されたことがありますか?その場合、その治療にはどのような副作用が伴いましたか?

32.おそらく、あなたは日常的に潜在的な捕食者からの現実の物理的な脅威に直面してはいないでしょう。しかしながら、あなたにはそれなりのストレスがあるはずです。あなたの最もありふれたストレスの源はどのような状況ですか?それらの特定のストレス要因があなたの生活にもたらす悪影響を最小限に抑えるために、あなたは何ができるでしょうか?

33.あなたは、海馬と扁桃体を両側から除去した後のH.M.の記憶障害について読みました。あなたは、本やテレビ番組、映画などで、記憶障害を持つキャラクターに出会ったことがありますか?そのキャラクターは、H.M.とどのように似ていて、どのように違っていましたか?

34.アナボリックステロイドの使用に関連する健康への悪影響を考えると、人がステロイドを使用するかどうかの決定においてはどのような考慮事項が含まれるでしょうか?

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