付録3 キャリアを決定する際に避けるべき4つのバイアス

過去数十年の間に、私たちの意思決定は合理的とは程遠いということを示す多くの研究が発表され、その数は増え続けています。72私たちは、この研究がキャリアの意思決定にとってどのような意味を持つのかを見出すために、調査を行いました。

その結果、私たちは自分たちが思っているほど多くのことを知らず、過信しており、狭い視野で考える傾向があり、もはや自分にとってベストではない道を歩み続けるようだということがわかりました。私たちは、自らの意思決定に対して私たちがやりがちなものよりももっと懐疑的になり、選択肢を広げる方法を見つけ、キャリア選択に対してより体系的で証拠に基づいたアプローチをとる必要があるのです。

以下では、バイアスの主な原因をまとめ、それに対して何ができるかを概説します。

1. 狭い視野で考える

私たちは、どのような選択肢が利用可能で、それらを比較する上で何が重要かを考えるとき、あまりにも狭い範囲で考えがちです。

このことについての証拠は何か?

意思決定において、私たちは2つのやり方で「狭い枠組み」を使うことが分かっています。第一に、私たちは利用可能な選択肢について狭く考えすぎてしまいます。第二に、それらの選択肢を比較する際に、私たちの目的が何であるかについて狭く考えすぎてしまいます。73これは、直接的な研究によって、また、より一般的なバイアスの存在によって裏付けられています。すなわち、すぐに利用できる選択肢に注目する原因となる利用可能性ヒューリスティック、最初に与えられた情報を過大評価する傾向であるアンカリング、現在の状態を不合理に好む現状維持バイアス、すでに時間と労力を投資した選択肢をより重視する傾向であるサンクコストの誤謬です。

なぜそれがキャリアにとって問題なのか?

もし人々が一貫して、利用可能なすべての機会を考え抜くことができていないのであれば、多くの人々が現在よりも適性の高い、よりインパクトの大きなキャリアを歩むことができる可能性があると思われます。

上で説明したように、選択肢を見逃すことだけが問題なのではなく、それらをどのように比較するかも問題なのです。もしあなたが選択肢を比較する際に重要な考慮事項を無視したら、間違った理由で間違った選択肢を選ぶことになるかもしれません。ここでは、複合的な作用のリスクがあります:まず、どのような選択肢が自分にとって利用可能なのかについてあまりにも狭く考え、そのうえで、すでに限定されてしまった選択肢をどのように評価するかについてあまりにも狭く考えています。あなたが最適でないキャリアを選ぶ可能性は非常に高くなります。

どうすればいいのか?

視野を広げるために時間をかけてください。私たちの「選び方」のページ(http://80k.link/HWC)で提案されているような枠組みを利用して、新しい選択肢をブレインストーミングしてください。他の人と話をしたり、一緒に選択肢を比較したりして、視野を広げましょう。あなたが相談する人が多様であればあるほど望ましいです。それぞれの選択肢の長所について考えるだけでなく、なぜそれがあまり良くないかもしれないのかについても考えてみましょう。その選択肢が間違っているかもしれない理由は何でしょうか?

2. はまり込む

私たちはしばしば、変化したほうが実際にはより有益であるにもかかわらず、その道やキャリアを長く続けてしまうことがあります。

このことについての証拠は何か?

サンクコストの誤謬として知られるバイアスです。これは、すでに多くの時間やお金を注ぎ込んでしまったという理由だけで、もはや有益でないことをやり続ける傾向です。74これは非合理的です。なぜなら、時間やお金はすでに費やされており、したがってあなたが今やろうとしている意思決定とは無関係だからです。それらはサンクコストなのです。

なぜそれがキャリアにとって問題なのか?

夢のような仕事に就くために何年も働き、勉強してきたのに、まったく別のことをしたほうがはるかに大きなインパクトを与えられることに気づいたと想像してみてください。長年の努力を放棄すると考えただけでも辛いでしょう。物事が改善するのを願いながら、すでに色々なことを注ぎ込んでしまったものをやり続けたい誘惑にかられます。でも、あなたはすでに費やした年月を取り戻すことはできないのです。そして、続けることでおそらくさらに無駄を積み重ねることになります。キャリアにおけるサンクコストを放棄するのはひどく難しいことですが、できるだけ多くの違いを生み出したいのであれば、重要なことです。あなたは、あるキャリアを好むのは正当な理由によるものなのか、それとも単に過去に傾倒していたことが原因なのかを見極める必要があります。

どうすればいいのか?

悪いニュースとしては、サンクコストの誤謬について知っていたり、それについてよく考えたり、人と話し合ったりするだけでは、あまり効果がないように見えることです。しかし、良いニュースは、あなたが十分に努力し、正しい方法で意思決定について考えるならば、サンクコストに対抗することが可能であるということです:

  • 過去は無視する:あなたの現在の状況、持っている資格や経験を、まるでどこからともなく現れたかのように考えてください。

  • 将来のことを考える:これから選択するそれぞれの選択肢の長所と短所のリストを作りましょう。

  • 自分の意思決定の正当性を他の人に説明する:バイアスのある意思決定を他の人に向けて正当化するのは、かなり難しいことです!

3. 確率を見誤る

私たちは、さまざまなキャリアパスで成功する確率を見誤ることがあります。

このことについての証拠は何か?

成功の確率を判断するとき、私たちは代表性ヒューリスティックと呼ばれるものを使う傾向があります。これは、「私はこの分野で成功しそうな人間にどれくらい似て見えるだろうか」と尋ねるものです。このアプローチの問題点は、いくらあなたが成功しそうな人間に似て見えても、そもそもその分野で誰かが成功する確率が低ければ、あなたは自分の確率を過大評価してしまうことになる、ということです。これは「基準率の無視」として知られるもので、基礎となる確率、すなわち基準率を考慮するのを怠ることです。いくらあなたが独力でガンの治療法を見つけるような人に似て見えたとしても、あなたがそうなる確率は低いのです。それは、単純に人がそのようなことをできる確率が非常に低いからです。

また、一般に私たちは自信過剰になる傾向があるという研究からの証拠もあります:ほとんどの人は、自分は平均より優れていると思い、与えられたタスクを完了するのにかかる時間を過小評価します。

なぜそれがキャリアにとって問題なのか?

あなたが何をするにしても、成功することがインパクトを生み出すために重要であることは明らかです。基準率の無視と自信過剰の存在によって、私たちは、例えば、マラリアの治療法を見つけたり、世界で最も費用対効果の高い慈善事業の代表になったり、学問的なインセンティブを完全に改革したりする確率を過大評価する可能性が高いことが示唆されます。しかし、だからといって、誰もこれらのことをやってはいけないということにはなりません。75私たちに必要なのは、成功の確率を正確に判断できることであり、高い目標を掲げつつも、高くしすぎないことです。

どうすればいいのか?

ある分野やキャリアで成功する確率を判断するには、以下のようなアプローチが推奨されます:76

  1. 自分が検討している分野で成功するために、どの要素(性格特性、スキル、能力)が最も大切かを調べる。
  2. それらの要素について、自分を客観的に測定する方法を見つける。
  3. これらの情報をもとに、参考集団を自分に近い人へと絞り込む。
  4. この集団から、自分の「基準率」を得る。

4. 自分の直感に頼りすぎる

キャリアを決定する際に、「直感とともに進む」ことの重要性が、これまでの常識では強調されていますが、私たちは少なくともいくつかの直感的な判断には懐疑的であるべきでしょう。

どうすればいいのか?

直感をより体系的な方法と照らし合わせてダブルチェックし、より多くの証拠を手に入れましょう。例えば、自分の判断にとって重要な要素をすべて明示的に列挙し、その要素に基づいてさまざまな選択肢を採点し、比較してみるのもよいでしょう。この方法を必ずしも意思決定に使用する必要がなくても、第一印象で見落としていた要素が浮き彫りになり、より多くの情報を得る必要のある分野があることがわかるでしょう。


  1. 文献のレビューについては、Kahneman, D and Tversky, A (1974) “Judgement under Uncertainty: Heuristics and Biases”, Science, New Series, Vol. 185, No. 4157, pp. 1124-1131、および書籍のダニエル・カーネマン著『ファスト&スロー─あなたの意思はどのように決まるか?』とダン・アリエリー著『予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』を参照してください。↩︎

  2. Richard P. Larrick, “Broaden the decision frame to make effective decisions” in “Handbook of Principles of Organizational Behaviour: Indispensable Knowledge for Evidence-Based Management” (2009) edited by Edwin A. Locke, Second Edition, Wileyを参照してください。↩︎

  3. Arkes, H and Blumer, C, “The Psychology of Sunk Cost”, (1985) Organizational Behaviour and Human Decision Processes 35, pp. 124-140を参照してください。↩︎

  4. さらに、自信過剰や、より一般に楽観バイアスにはそれなりの利点があることを示す証拠があります:自信過剰になることは、リスクを取って一生懸命働くようになることで、実際には成功の確率を高めるかもしれません。では、どの程度楽観的であることが最適なのでしょうか?私たちは確信を持てませんが、自信過剰であるほうが、自信過少であるよりも良いようです。↩︎

  5. この方法の詳細については、https://80000hours.org/2012/12/how-to-judge-your-chances-of-success/を参照してください。↩︎