第4章 最も多くの人を助けることができるのはどのキャリアだろうか? なぜ、あなたがキャリアで良いことをすると聞いたことのあるアイデアがベストでないのか?

漫画はSMBCより。

多くの人がスーパーマンをヒーローだと思っています。しかし、彼はフィクションの世界で才能を生かしきれていない例としてうってつけかもしれません。彼が一件一件、犯罪と戦うことに人生を費やすのは大きな間違いでした。もし彼がもう少し創造的に考えていれば、もっといい結果を残せたはずです。超高速で世界中の人々にワクチンを届けるというのはどうでしょう?そうすれば、ほとんどの感染症が根絶され、何億人もの命が救われるはずです。

ここでは、自分のキャリアで違いを生み出そうと望む多くの人々が、スーパーマンと同じ罠に陥っていることを論じます。大学の卒業生たちは、医者や教師など、人々を直接的に助ける職業に就くことを想像しています。しかし、これらは彼らの特定の技能に最適なものではないかもしれません。また、それらの道では、犯罪と戦うスーパーマンのように、一度に限られた数の人しか助けられないことも多いのです。ノーベル賞受賞者のカール・ラントシュタイナーは、血液型を発見し、何億もの人の命を救う手術を可能にしました。彼は、自分自身だけではそれほど多くの手術を行うことはできなかったでしょう。

同時に、多くの大学の卒業生が、直接的に人を助ける仕事に就いていないために、キャリアに充実感を感じられないでいます。しかし、そうなる必要はありません。間接的に人を助けることで、充実感を感じることもできるのです。より多くの人が、良いことをすることについてもっと開かれた心を持ち、もっと創造的になることで、自分の独特な能力を生かしながら、他の人を助けるキャリアを見つけることができます。

以下では、あなたが取り組みたい社会問題(前章で私たちが特定したもの)の解決に貢献するようなキャリアの使い方を4つ紹介します。4つの方法とは、直接的に働くことに加えて、与えるために稼ぐ、アドボカシーをする、研究をする、です。私たちは、それぞれのアプローチを追求するための具体的な提案をしていきます。

あなたは、大きな貢献ができ、かつ自分自身に合った選択肢を見つけたいと望んでいます。全体として、問題が差し迫ったものであるほど、あなたの貢献が大きいほど、そしてあなたの個人的な適性に合っているほど、より大きなインパクトを与えることができます。「インパクトの大きい」道を追求しても、それがあなたのひどく苦手なものであれば意味がありません。このガイドの後半では、ここで取り上げた選択肢のうち、どれがあなたにとって最適なのかを考える手助けをします。

今はとにかく、あなたの選択肢を広げることを心がけてください。あなたが考慮する選択肢が多ければ多いほど、楽しくて、世の中に大きな好影響を与えるキャリアを見つけやすくなります。

アプローチ1:与えるために稼ぐ

もしビル・ゲイツが小さな非営利団体で働いていたら、彼はもっと良いことができたでしょうか?私たちは通常、ソフトウェア・エンジニアリングが良いことをするための道であるとは考えません。しかし、ゲイツはワクチンに資金を提供することによって、何百万人もの子供たちの命を救っています。これは、たとえあなたがマイクロソフトに興味がなくても、膨大な量の善行です。

私たちは、ソフトウェア・エンジニアリングのような高収入の仕事に興味があるけれども、自分が違いを生み出すことができないのではないかと心配している人々によく会います。その理由の一部は、私たちが通常、より多くのお金を稼ぐことを、良いことをしたい人が通る道とは考えていないからです。しかしながら、熱意あるスタッフを見つけるのに問題はないが、採用する資金がないという効果的な組織も多く存在します。高収入を得るという選択肢にうまく適している人は、こうした組織に寄付をし、間接的に大きな貢献をすることができます。

与えるために稼ぐことは、給与の高い業界で働きたい人だけのものではありません。より多くを与えるために、より多くの収入を得ようとする人は誰でも、この道を歩んでいるのです。

ボストン出身で2人の子供を持つカップルである、ジュリアとジェフの物語を考えてみましょう。ジュリアは、非営利団体の事務局から刑務所でのソーシャルワークに転職しました。ジェフは元々、研究技術者として働いていました。彼はソフトウェア・エンジニアになるための訓練を受けることを決意し、ついにはグーグルに就職しました。2倍以上の収入を得ることができるようになった夫妻は、毎年所得の約半分を慈善事業に寄付するようになりました。

そうすることで、おそらく彼らは、非営利団体で直接働くよりも大きなインパクトを与えていることになるでしょう。ジェフのインパクトと、非営利団体のCEOのインパクトを比べてみてください:

ジェフは、非営利団体で働く場合の約2倍の収入で生活することができ、それでもまだ非営利団体のCEO約2人分の給料に相当する額を寄付することができます。さらに、グーグルはグーグルマップやGmailといった価値あるイノベーションを開発しているため、彼は直接的に有益なインパクトを与えることができるかもしれません。そして彼はエンジニアリングを楽しんでいるので、自分の仕事で幸せであると考えています。

さらに、ジェフとジュリアは、それぞれが働く場所を変えるのは難しいですが、その時々に最も資金を必要としている団体に寄付を切り替えることはできます。将来、どの問題が最も差し迫ったものになるかわからないからこそ、このような柔軟性は特に貴重です(第5章参照)。

このような機会が存在するのは、第2章で取り上げたように、私たちがたまたま巨大な所得格差のある世界に住んでいるからです。教師や非営利団体の職員の数倍、そして世界の最貧困層の人々よりもはるかに多くの収入を得ることが可能なのです。同時に、所得の数%以上を寄付する人はほとんどいません。ですから、もしあなたがその気になれば、非常に幅広い仕事で驚くべきインパクトを与えることができるのです。

私たちは、先進国の大学を卒業した人であれば誰でも、効果的な慈善事業に収入の10%を寄付することによって、大きなインパクトを与えることができることを見ました。平均的な大卒者は生涯にわたって年間6万8000ドルを稼ぎますが、その10%を例えばアゲインスト・マラリア基金に寄付すれば、ほぼ100人の命を救うことができるのです。

もしあなたがあと10%多く稼いで、追加分を寄付することができれば、さらに倍のインパクトを与えることになります。また、アゲインスト・マラリア基金よりも、もっと良い資金提供先の団体(おそらく別の問題に取り組むことや研究、アドボカシー活動など)があると思っているならば、そのインパクトはさらに大きくなります。

2011年に私たちが「与えるために稼ぐ」というコンセプトを導入して以来、何百人もの人々がこのコンセプトを採用し、継続しています。多くは収入の30%程度、中には50%以上寄付している人もいます。合計すると、彼らは今後数年間で数千万ドルをインパクトの大きな慈善事業に寄付することになるでしょう。そうすることで、直接貢献したいけれども、そのための資源を持たないような情熱的な人たちに資金を提供しているのです。

2011年に私たちがアドバイスしたうちの1人であるマットは、20代のうちに100万ドル以上の寄付をし、ニューヨーク・タイムズ紙にも取り上げられました。彼は、仕事がもっと楽しくなったことにも気づいています。

また、ある人はソフトウェア・エンジニアの仕事を辞め、スタートアップを立ち上げました。彼は、最低賃金以上の収入をすべて慈善事業に寄付することを約束しています。もし彼のスタートアップの現在の評価額が正確であれば、彼は今後10年間で数百万ドルを寄付することになります。また、彼のスタートアップは、医師の事務作業を軽減するものであり、直接的なインパクトもあります。

与えるために稼ぐべきか?

与えるために稼ぐというのは、最も印象的で議論を呼ぶアイデアであり、BBC、ワシントン・ポスト紙、デイリー・メール紙など多くのメディアで取り上げられています。30

このため、これが私たちの最も勧めるものだと多くの人が考えています。しかし、そうではありません。それは、あなたの状況次第です。

私たちは、次のような場合、与えるために稼ぐことは検討する価値のある選択肢だと考えています:

  • あなたが、より高い収入を得る選択肢にかなり適性がある。あなたがソフトウェア・エンジニアを嫌っているならば、ソフトウェア・エンジニアにはならないようにしましょう。燃え尽きたり、長期的にキャリアが悪化したりする可能性がありますし、いずれにしてもそれほど多くの収入を得ることはできません。

  • あなたが、より収入の多い選択肢でスキルを身につけたいと望んでいる(後に、より直接的な仕事で使えるようにするために)。与えるために稼ぐことで、そうしている間にも、ソーシャルインパクトに関わり続けることができるかもしれません。(次章では、なぜ「キャリア資本」を得ることが重要なのかを説明します。)

  • どの問題が最も差し迫っているのかまったく確信がない。寄付をする場所を簡単に変更できたり、お金を貯めておいて後で寄付することもできるため、与えるために稼ぐことは最も柔軟性があります。

与えるために稼ぐことに対する一般的な反対意見

  • 人々は本当に続けられるのか?彼らは周りの人に影響されて、寄付よりも贅沢なことにお金を使ってしまうことにならないでしょうか?私たちがこのアイデアを最初に紹介したとき、このようなことが起こるのではないかと心配しましたが、そんなことはありませんでした。何百人もの人が与えるために稼ぐことを追求しており、中には他の場所でもっと良いことができると考えて去っていく人もいますが、私たちが知る限り、寄付をする計画を単純にあきらめた人はいません。これは、与えるために稼ぐことを追求する人々の多くが、しばしばGiving What We Can(https://www.givingwhatwecan.org/)を通じて、寄付の意思を公言しているためでもあります。また、与えるために稼ぐというコミュニティーが存在することで、今日ではずっと続けやすくなっています。

  • 多くの高収入の仕事は害をもたらすのではないか?私たちは、お金を寄付するために多くの害をもたらす仕事をすることはお勧めしません。実際には、与えるために稼ぐ人の多くは、テクノロジー、資産運用、医療、コンサルティングなどの分野で働いており、これらの職種は少ないながらも良いことをする、あるいは中立的であると私たちは考えています。もちろん、これらの業界にも害を及ぼす人はいますが、それはどの業界にも言えることです。
    もっと広く言えば、より多くのお金を稼ぐ方法はたくさんあり、そのすべてが有害であるとは思えません。また、内部から業界を良くしていくという選択肢もあります。もしあなたが社会的な動機を持っていて、害をなすことを気にしない人に取って代われば、そのほうが世の中のためになるかもしれません。

  • 高収入の仕事をやるのに私の意欲がわかないとしたら?その場合は、その仕事をやらないことです。私たちは、与えるために稼ぐことがあなたによく合っている場合にのみ、お勧めします。ただ、第1章で説明したように、あなたは自分が思っているよりも多くの仕事に興味を持つことができることも覚えておいてください。

  • 他のことをすれば、私はもっと大きなインパクトを与えられるのではないか?この章の続きで説明するように、あなたがそうできる可能性は十分にあります。

与えるために稼ぐには、何がベストな方法か?

もしあなたが、与えるために稼ぐことが自分には向いていないとすでに確信しているのであれば、ここを飛ばして「アプローチ2:アドボカシー」に進んでいただいて結構です。

もしあなたが興味があると考えるのでしたら、ここに私たちが今までに見つけた最も良い選択肢のいくつかが列挙してあります。それぞれの選択肢についての詳細は、付録8をご覧ください。

この2つの道は、競争は激しいですが、最も高収入で、自分のスキルを高めることができます。

  • テック系スタートアップの創業者
  • クオンツ・トレーディング

その他、私たちがアドバイスした多くの人が選んだ有望な選択肢には、次のようなものがあります:

  • 経営コンサルティング
  • スタートアップの初期従業員
  • ソフトウェア・エンジニアリング
  • データサイエンス

いずれも、大卒者の平均をはるかに上回る収入を得ながら、将来に向けてあなたのキャリアをより有利な立場にすることができるでしょう。

法律、投資銀行、医療も明らかに高収入の選択肢ですが、柔軟性、分野の成長、直接的なインパクトの組み合わせが弱いという点に基づくと、上記のものよりも少し劣ると考えています。

また、以下は将来性があり、もう少し参入しやすいと私たちは考えています:

  • マーケティング
  • 保険数理
  • エグゼクティブサーチ
  • 看護

もしあなたが大学の学位を持っていない場合は、プログラミングや営業も良い選択肢になります。また、職業によっては高収入を得られるものもあります。例えば、配管工の上位10%は1年あたり8万9000ドル超を稼いでおり、平均的な大卒者の年収を上回っています。

このほかにも、私たちがまだ検討していない道はたくさんあります。より多くの寄付をするためには、どんな職業でも与えるために稼ぐことは可能なのです(別の選択肢よりも多く稼いでいるのであれば)。ソーシャルワーカーとして働いているジュリアの例を思い出してください。

最後に、企業によっては、慈善事業への寄付金と同額、あるいはそれ以上の金額を寄付してくれるところもあります。このような雇用主を選べば、あなたは労せずして寄付を倍増させることができるかもしれません。31

どの慈善事業が最も効果的か?

多くの社会的な介入策は、(前章で見たように)効果が証明されておらず、他の多くの慈善事業は、粗末に運営されているブラックボックスです。ですから、もしあなたが間違った団体に寄付をすれば、大した成果は得られないでしょう。

一方で、少なくとも1つの資金提供するべき非常に効果的な組織がある限り、与えるために稼ぐことは大きなインパクトを持ちます。あなたは慈善事業に資金提供することに限定する必要すらありません。研究、政治的アドボカシー、良いことを目指す営利団体に資金を提供することもできます。

寄付先を決める際には、GiveWellが推奨する慈善事業がよい開始点となるでしょう。32GiveWellは、米国にある優れた非営利の評価機関であり、非常に効果的な団体を見つけるために膨大な量の調査を行っています。現在、先に言及したアゲインスト・マラリア基金を推奨しています。

もしあなたが多額の寄付をする場合、または国際開発に焦点を当てたくない場合は、自分自身で調査する価値があります。前章で取り上げたように、どの問題領域に焦点を当てたいかを選び、その領域で最も優れた団体を見つけ、より多くの資金を必要としている団体に寄付をしましょう。寄付先については、https://80000hours.org/articles/best-charity/でさらに詳しい説明を読むことができます。

アプローチ2:アドボカシー

与えるために稼ぐという方法に代わるものとして、アドボカシー(差し迫った問題に対する解決策を推進すること)があります。アドボカシーは、幅広いキャリアで追求することができ、与えるために稼ぐよりもさらに大きなインパクトを与えることができます。

次のような選択肢を考えてみてください:

  1. 自分が与えるために稼ぐ。
  2. 自分が与えるために稼ぎ、友人も与えるために稼ぐよう説得する。

2番目の方法は、より多くの良いことを行っており(実際のところおそらく約2倍)、これはアドボカシーの力を示しています。

歴史上、最もインパクトの大きな人物の多くは、ある種の唱道者でした。例えば、ローザ・パークスは、バスで白人男性に席を譲ることを拒否して抗議行動を起こし、人種隔離されたバスは違憲であるという最高裁判所の判決につながりました。パークスは、本業は裁縫でしたが、余暇には公民権運動に深くかかわっていました。逮捕された後、彼女とNAACPは、徹夜で何千枚ものチラシを作り、4万人のアフリカ系アメリカ人が住む都市でバスの全面ボイコットを開始し、同時に法的措置も推し進めるといったように、精力的に、そして戦略的に取り組みました。これが公民権の大きな進展につながったのです。

20世紀で最もインパクトの大きな人物の1人であるヴィクトル・ジダーノフなど、あなたがあまり耳にしたことのない例もたくさんあります。

20世紀には、天然痘によって約4億人が死亡しました。これは、すべての戦争や政治に起因する飢饉による死者をはるかに上回る数です。天然痘の根絶は、世界保健機関の根絶計画を担当したD・A・ヘンダーソンの功績としてたたえられることが多いです。しかしながら、この計画は彼が参加する前から存在していました。実際のところ、彼は当初この仕事を断っていました。ヘンダーソンが就任していなかったとしても、この計画は最終的にはおそらく成功していたでしょう。

ジダーノフは、独力でWHOに働きかけてそもそもの根絶運動を始めさせた人物です。彼の関与がなければ、根絶運動はずっと後まで実現しなかったでしょうし、まったく実現しなかったかもしれません。

では、なぜアドボカシーが過去においてそんなにも効果的だったのでしょうか?

第一に、アイデアはすぐに広まるので、アドボカシーは小さな集団が問題に対して大きな影響を与えることができる方法です。小さなチームが社会運動を起こしたり、政府に働きかけたり、世論に影響を与えるキャンペーンを始めたり、あるいは単に友人が主張を支持するように説得することができます。いずれの場合も、自分たちが直接達成できる範囲をはるかに超える、永続的なインパクトを問題に与えることができるのです。

第二に、アドボカシーは軽視されています。なぜなら、社会的に重要なアイデアを広めようとする商業的な動機が通常は存在しないからです。その代わり、アドボカシーは主に、世界をより良い場所にするためにキャリアを捧げようとする少数の人々によって追求されます。

また、アドボカシーが軽視されるのには、現状維持に立ち向かうのは気が引けるという理由や、自分の努力の効果が見えにくいことが多いので、直接的に良いことをするよりもモチベーションが上がらないという理由もあります。ジダーノフのほうがヘンダーソンよりも根絶の努力にとっては重要でしたが、功績はヘンダーソンのものとされました。これらのような理由から、アドボカシーは、取り組むことに意欲的な人にとってはインパクトの大きい道となり得るのです。

実際、与えるために稼ぐよりも、アドボカシーをするほうが一般的に良いと考える理由があります。その理由の1つは、誰もがより多くのお金を欲しがるため、競争が激しく、簡単に稼げる(そしてその後に寄付できる)金額には限界があることです。私たちが先ほど議論したいくつかの理由から、良いアイデアを広めるための競争はかなり少ないです。ですから、多くの人が、寄付できる額よりも多くのお金を動かすことができるようになると期待できます。

アドボカシーもまた、最も成功した取り組みが、その分野の典型的な取り組みよりもはるかに多くのことを行っている分野です。最も成功した唱道者は何百万人もの人々に影響を与えますが、他の人は数人の友人以上を説得するのに苦労するかもしれません。つまり、あなたがアドボカシーに適しているなら、それはしばしばあなたができる最善のことであり、あなたの代わりにアドボカシーに従事する誰かに資金を提供するよりも、あなた自身がそれを行うことではるかに多くのことを達成できる可能性が高いです。

唱道者になるための最良の方法は何か?

もしあなたが、アドボカシーが自分には向いていないとすでに確信しているのであれば、ここを飛ばして「アプローチ3:研究」に進んでいただいて結構です。

お金を寄付するのと同じように、あなたはどんな仕事に就いていても、差し迫った問題の解決策を提唱することができます。

そのためには、(前章のやり方で)最も差し迫っていると思われる問題を調べ、選挙での投票や特定の慈善事業への寄付のように、普及すれば違いを生み出すであろう小さな行動やアイデアを探して奨励します。多くの場合、押しつけがましくなるのではなく、模範を示して期待を持たせることがベストです。

安定した仕事に就きながら、パートタイムでアドボカシー活動を行うことは、効果的です。なぜなら、あなたはアドボカシー活動の資金繰りを心配する必要がないため、自立してより大きなリスクを取ることができるようになるからです。あなたはまた、より公平とみなされるでしょう。

最後に、もしあなたが自分の分野で成功すれば、あなたはより信頼され、より影響力のある人脈ができるため、差し迫った問題への注意を促すために、より有利な立場に立つことができるようになります。ですから、アドボカシーのための最善の道は、最も成功する可能性の高い分野に参入することである場合もあります。その方法については、第6章で説明します。

しかし、もしあなたがもっと直接的にアドボカシーに集中したい場合はどうすればよいでしょうか?ここでは、あなたに合う場合に有望な選択肢を、おおよそ影響力の大きい順に紹介します。詳しいプロファイルは、本書の最後のほうに掲載されています。どれか、あなたに合うものはあるでしょうか?

1. 政治的・政策的な立場

好むと好まざるとにかかわらず、政治家は大きな影響力を持っています。同時に、政治家になろうとしたり、政治家に助言したりする人は比較的少ないです。これは、それぞれの関係者が潜在的に大きな影響力を持つことを意味します(定量的な試算はhttps://80000hours.org/career-reviews/party-politics-uk/で見ることができます)。ですから、私たちは、このようなポジションにはできるだけ有能で利他的な人を必要とします。

こうした理由から、もし政党政治があなたにとって真剣な選択肢であり、あなたに向いているのであれば、それが最も影響力のある道である可能性が高いでしょう。また、自分が最前線に行くことを望んでいなくとも、スタッフや研究者、政党の他の場所で働くなど、影響力の大きいアドバイザー的な立場がたくさんあることも覚えておいてください。

また、影響力や政治的ネットワークを提供できる有望な政策的立場もあります:

  • 政府機関で働くこと。特に、より権威のある地位(例:英国のシビル・サービス・ファスト・ストリーム(幹部職員の選抜試験制度))に就くことができる場合、あるいは、自分が最も差し迫っていると考える問題に特に関連する職(例:国際開発に焦点を当てるなら援助部門、バイオセキュリティーに焦点を当てるなら防衛部門)に就くことができる場合。

  • シンクタンクの研究者やロビイストなど、「インフルエンサー」的な立場。

ただし、もしあなたがもともと推進されるはずであったものよりも悪い政策を推進すれば、良いことではなく、大きな害を及ぼす可能性があることを心に留めておいてください。あなたの影響力が大きければ大きいほど、良い面も悪い面も大きくなります。ですから、政治的な地位を求めるのは、その仕事がうまくやれると期待できる正当な理由がある場合、あるいは軽視された政策を推進する場合にのみ良いアイデアとなるでしょう。

:オーウェンは純粋数学の研究をしていましたが、ほとんどインパクトを持たないだろうと考えていました。しかし、彼は、優れた分析能力を持つ人材を必要とする、小さくて新しい分野であるグローバルな優先課題の研究に移りました。彼は、どの地球規模の問題が最も緊急性が高いかを政策立案者に助言するグローバル・プライオリティーズ・プロジェクトの最初の職員となり、すでに英国政府の高官にも助言しています。

2. 公のプラットフォームを持つ立場

いくつかの仕事は多くの人に影響を及ぼすことができます。例えば:

  • ジャーナリズム。大手メディア企業の通常の記事は1万から10万ビューを誇るので、新しいアイデアを人々に伝える大きな余地があります。Vox.comは定期的にゲーム・オブ・スローンズについて記事を書いてトラフィックを増やしていますが、効果的な慈善事業についての記事も書いています。昨年、彼らはGiveWellのサイトへ約1万回の閲覧をもたらし、すでに200人の新しい寄付者を生み出し、その人々は合計で10万ドル以上の寄付を行いました。また、ジャーナリストは良いネットワークを築くこともできます。

  • 公的な知識人。もしあなたが学術的な立場を得ることができれば、研究よりもアドボカシーに時間を割くことができるでしょう。一流大学の学者に与えられる地位のため、追随者を作り、メディアの注目を集めることは比較的容易です。

  • メディアにおける立場。芸術やエンターテインメントで名声を追求することも選択肢の1つですが、成功する確率が極めて低いため、私たちは通常はお勧めしません。しかしながら、重要な問題に注意を引きつけるようなニュース、ドキュメンタリー、コメディーを制作するテレビの仕事など、メディアにおける他の立場には有望なものがあると期待しています。

3. 影響力のある組織のマネジャーや助成金管理者

大きな予算について発言権を持つ仕事もあります。これらの仕事は、その影響力の大きさに比べて、地味で、あまり知られていないことがしばしばです。

私たちが検討した1つの道は、ゲイツ財団のような大規模な慈善財団の助成金管理者になることです。プログラム担当者は通常、年間約1000万ドルの予算を監督します。もしあなたがこの資金を少しでもより効果的に使う新しい方法を導入することができれば、与えるために稼いだり直接活動したりするよりも簡単に大きなインパクトを与えることができます。

私たちは、以下の道もこのカテゴリーに入るのではないかと考えていますが、まだ深く検討していません:

  • 国際機関のプログラム・マネジャー
  • 科学の助成金管理者
  • 政府の助成金管理者

4. 影響力のある人に多く出会える職業上の立場

私たちは、以下のものを検討しました:

  • テック系スタートアップの創業者
  • 経営コンサルティング
  • 国際開発非営利団体(その他の効果的な非営利団体)の設立

これらの立場は、副業としてアドボカシーをしやすくすることもできますが、それがこれらの立場になることの主な理由ではありません。

法律、金融、医療もこのカテゴリーに入りますが、次章で取り上げるコンサルティングと比べるといくつかの不都合な点もあります。同様に、プロフェッショナルサービスやエグゼクティブサーチもありますが、これらは競争は少ないものの、コンサルティングに比べると権威が劣ります。

このカテゴリーには、慈善活動のアドバイザーや才能豊かな生徒の教師など、私たちがまだ検討していない良い道がもっとあるはずです。

アプローチ3:研究

人はしばしば、学者は象牙の塔の知識人であり、その著作は何のインパクトも与えない、とけなします。そして、私たちは、学問の世界には多くの問題があり、そのために普通の研究者がもしかしたら可能であったほどには成果を実現することができないということに同意します。しかしながら、私たちは、学術界の中でも外でも、研究はしばしば大きなインパクトを与えると考えます。

唱道者とともに、歴史上最もインパクトの大きな人物の多くが研究者です。アラン・チューリングを考えてみましょう。チューリングは数学者で、第二次世界大戦中、連合国がナチスのUボートに対してはるかに効果的に対抗できるよう、暗号解読機を開発しました。このおかげで、第二次世界大戦の終戦の日を1年早めることができたと推定する歴史家もいます。第二次世界大戦では年間1000万人が死亡しているので、チューリングは約1000万人の命を救ったことになるのかもしれません。

そして、彼はコンピュータを発明しました。

チューリングの例は、研究が理論的であると同時に大きなインパクトを与えることができることを示しています。彼の研究の多くは、コンピュータの抽象的な数学に関するもので、当初は実用的なものではありませんでしたが、時が経つにつれて重要なものとなっていきました。

応用面では、第2章において大きなインパクトのある医学研究の例をたくさん見てきました。

もちろん、誰もがアラン・チューリングのようになれるわけではありませんし、すべての発見が実地で採用されるわけでもありません。それでも、平均して研究は効果的であり、問題に直接取り組むよりも良いことが多いと私たちは考えています。なぜでしょうか?

第一に、新しいアイデアが発見された場合、それは非常に安価に普及させることができるので、たった1人のキャリアが分野を変えることができる方法となります。さらに、新しいアイデアは時間とともに蓄積されるので、研究は長期的な進歩のかなりの部分に貢献します。

しかしながら、研究に従事している人は比較的少数です。人口のわずか0.1%が研究者であり33、歴史上その割合はずっと小さいものでした。もし少数の人々が進歩の大きな割合を占めるのであれば、平均してそれぞれの人の努力は重要なものです。

第二に、これはまさに経済理論から予想されることです。ほとんどの研究者は、たとえその発見が非常に価値のあるものであっても、お金持ちになることはありません。チューリングはコンピュータの発見でまったく儲かりませんでしたが、それは今日では数十億ドルの産業になっています。これは、研究の成果が出るのはずっと先のことであり、通常、特許で保護することができないからです。つまり、研究の重要性に比べて、研究を行う商業的なインセンティブがほとんどないのです。ですから、もしあなたが利益よりもソーシャルインパクトを重視するのであれば、これは良い機会です。

実際、基礎的な研究ほど商業化が難しいので、他の条件が同じなら、応用研究よりも基礎研究のほうが軽視され、その分インパクトが大きいと期待されます。残念ながら、インパクトを与えたいと望む人は、基礎的な問題よりも、より応用的な問題に焦点を当てることが多いです。(ただし、応用的な問題は、しばしば基本的な問題よりも緊急性が高いことを念頭に置いてください。)

アドボカシーと同様、研究も、最も優秀な研究者が中央値よりもはるかに多くの成果をあげるため、あなたに良い適性があるのであれば特に有望です。ほとんどの論文が1回しか引用されないのに対し、上位0.1%の論文は1000回以上引用されています。また、私たちが生物医学研究について事例研究をしたところ、このような発言が典型的でした:

1人の優秀な人材が5人分の仕事をこなす。これは誇張ではない。

もしあなたが、差し迫った問題領域でトップ10%の研究者になれるかもしれないとしたら、それはあなたにとって最も大きなインパクトを持つ道である可能性が高いです。

どのような研究分野がインパクトが大きいのか?

学術界の内外を問わず、インパクトの大きな研究を行うための完全なガイドについては、付録5を参照してください。

:ハウクは神経科学の博士課程に在籍中、学術界で彼がインパクトを与える可能性に不満を感じるようになりました。彼は、私たちが推奨する上位のキャリアパスのほとんどに応募し、Giving What We Canから仕事のオファーを受けました。現在は、さまざまな慈善事業の費用対効果を研究する同団体の取り組みを率いています。

支援する立場も忘れない

学術界の管理者になることは、インパクトの大きなキャリアには聞こえませんが、それこそがまさにその理由です。研究が進展するためには、管理者、マネジャー、助成金管理者、そしてコミュニケーターが必要です。これらの役割の多くは、研究を理解する非常に優秀な人材を必要としますが、華やかでも高給でもないため、適切な人材を集めるのは困難です。このため、もしあなたがこのような職務に合っていれば、有望といえるでしょう。最終的に重要なのは、誰が研究を行うかではなく、研究を成し遂げることです。

私たちのヒーローは、ショーン・オヘイゲルタイです。彼は比較ゲノム学の博士号を取得するために勉強しましたが、最終的には学術的なプロジェクトマネジメントの道に進むことを決意しました。彼は人類の未来研究所のマネジャーとなりました。この研究所は、人為的なパンデミックなど、新たな大惨事のリスクについての軽視されている研究を行っています。資金が急増していく中、彼は裏方に徹して英雄的な量の仕事をこなし、運営を支えました。ケンブリッジ大学に新しいグループを立ち上げる機会があると、彼はそれまでに学んだことを活かしてそこでの取り組みを率い、一時は両グループを管理するまでになったのです。彼のマネジメントがなければ、この分野はもっとゆっくり進んでいたことでしょう。

もしあなたがこのような立場に興味があるのであれば、博士号を取得し、分野を決めてから研究グループに応募するのが通常は最も良い方法でしょう。

アプローチ4:直接的な仕事

もしあなたが直接的に手助けをしたいのであれば、どうすれば最も効果的にできるでしょうか?

多くの直接的な仕事の立場に伴う問題とは、それが軽視されていないということです。例えば、第2章では、豊かな国の臨床医は通常大きなインパクトを与えないことを見ました。なぜなら、これらの国にはすでに多くの医師がいるので、最も重要でインパクトのある処置はいずれ行われることになるからです。第3章では、豊かな国での社会的な介入策のほとんどは、その効果が証明されていないことを見ました。もっと軽視されているアプローチに注力したほうがより効果的です。

もう1つの問題は、熱意ある人の数によってというよりも資金によって制約されている組織で働きたいと望む人が多くいるということです。つまり、もしあなたがその仕事を引き受けなくとも、ほとんど同じくらい優秀な人を見つけるのは簡単なことなのです。炊き出しのボランティアをする弁護士を考えてみてください。彼らにとってはモチベーションが上がるかもしれませんが、それが彼らのできる最も効果的なことだとは到底思えません。1時間か2時間の給料を寄付すれば、数人のより良い訓練を受けた人に代わりに仕事をしてもらうことができます。あるいは、彼らはプロボノとして法律関係の仕事をし、その価値あるスキルを生かす形で貢献することもできるでしょう。

その他、直接的に仕事をする立場では、潜在的な影響力が制限されます。スーパーマンが犯罪者と1人ずつ戦っている姿を思い浮かべてください。

しかしながら、直接的に仕事をすることが最も効果的な場面は他にたくさんあります。差し迫った問題に対して、革新的で軽視されている解決策に取り組んでいる素晴らしいチームがたくさんあります。もしあなたがそのうちの1つに適任で、そのチームが採用難に陥っている(彼らが「人材に制約がある」)なら、それが最良の選択肢になりえます。

:マリアはコスタリカ出身のグラフィックデザイナーで、ニューヨークのアートスクールに通っていました。彼女は、与えるために稼ぐことも考えましたが、その代わりに、生活費を削減するためにコスタリカに戻り、インパクトが大きく、自分のスキルを必要としていると思う慈善事業でフリーランスの仕事をすることにしました。

もし、その地域に効果的な組織が存在しないのであれば、設立する手助けをすればよいでしょう。これは、私たちが80,000 Hoursを立ち上げる時に考えていたことです。私たちは、このような調査を体系的に行っている人は他にいないと思っていました。

もう1つ、この考え方が正しいかもしれない分野を紹介しましょう。この10年の間に、ゲイツ財団、CIFF、オープン・フィランソロピー・プロジェクト(GiveWellと提携しています)など、証拠に基づく健康への介入策を実施する慈善事業に資金提供したいと望む非常に大きな財団がいくつか設立されました。しかしながら、これらの財団は、その基準を満たすプロジェクトが不足しています。もしあなたが健康への介入策を効率的に実施するための専門知識を身につけることができれば、これらの財団から数千万ドルの資金を集め、与えるために稼ぐよりもはるかに大きなインパクトを与えることができるでしょう。

これは、ジョーイとケイトがやっていることです。彼らは、アゲインスト・マラリア基金のような慈善事業の資金調達に専念するために、大学を早期に離れました。しかしながら、彼らは何か新しいものを立ち上げようとするほうが、さらに大きなインパクトを与えることに気づきました。彼らは6か月かけて健康への介入策のリストを見直し、効果がありそうで、展開が簡単で、しかもそれに注力している慈善事業がないものを見つけたのです。

彼らはインドでワクチン接種の注意喚起のメッセージをテキストで送信することにしました。これは4つの無作為化比較試験で、人々がワクチン接種を受ける可能性を著しく高めることが示されています。彼らは今、この組織を立ち上げ、すでにオープン・フィランソロピー・プロジェクトから20万ドルを調達しています。

しかしながら、あなたが組織のリーダーになる必要はありません。研究マネジメントと同様、運営業務の役割は必要不可欠であると同時に難しい仕事ですが、こうした立場には華やかさがないため、適切な人材を引き付けることが困難です。

最後に、直接的に働くのは非営利である場合もあれば、営利である場合もあります。例えば、センド・ウェーヴは、アフリカの出稼ぎ労働者がモバイルアプリを通じて家族に送金する際の手数料を、ウェスタン・ユニオンの10%ではなく、3%で実現しています。つまり、彼らの1ドルの収益ごとに、世界の最貧困層の人々を数ドル豊かにすることができるのです。彼らはすでに数百万ドルの寄付に匹敵するインパクトを与え、しかも急成長しています。市場規模は数千億ドルで、すべての援助支出の数倍にもなります。もし彼らがより安価な送金方法の普及を少しでも加速させることができれば、大きなインパクトを与えることができるでしょう。

もしあなたが受益者に直接サービスを提供するのであれば、営利事業のほうがより効果的です。なぜなら、そのサービスが役に立っているかどうかに関するより良いフィードバックが得られ、より迅速にスケールアップすることができるからです。非営利組織は、研究、アドボカシー、クリーンな環境のような公共財の提供、あるいは教育のような投資回収に時間がかかるサービスなど、商業化が非常に困難なことを行っている場合に最適と言えます。

しかしながら、時には、社会的に重要な研究や公共財の提供に営利企業を利用することも可能です。イーロン・マスクのテスラは、富裕な人々に高級な電気自動車を売っていますが、これはあまり大きなインパクトを与えるものではありません。しかし、同社の真の使命は、グリーン経済への移行をより容易にし、最終的にはすべての輸送手段を電化するために、より安価なバッテリーを開発することです。また、マスクはNASAに安価なロケットを売って儲けるスペースX社を作りましたが、この会社の本当の使命は、宇宙の開拓を加速させ、人類が地球上の災害から生き残る可能性を高めることにあります。

良い直接的な仕事の立場を見つけるにはどうしたらよいか?

  1. どの問題が最も差し迫っていると思うかを決めます(前章を利用してください)。

  2. それらの分野の中で、特に資金調達よりも人材に制限のある、最良の組織を特定します。私たちのオンラインの問題プロファイルのそれぞれの中にある組織のリストや、このリストで見つけることができます:
    https://wiki.80000hours.org/index.php/Places_we_sometimes_recommend_people_apply_to_work

  3. 自分が最も適した立場を見つけます。

どのアプローチが問題に合うか?

私たちは、直接的な仕事だけでなく、与えるために稼ぐ、アドボカシー、研究など、幅広く考えることにより、差し迫った問題に大きく貢献する方法がたくさん見つかることを見てきました。

これで、あなたが自分のできる仕事について、いくつかの新しいアイデアが浮かんだならば幸いです。さて、これらの選択肢の中から最適なものを見つけるには、どのようにして絞り込めばよいのでしょうか?

まず注意したいのは、この4つのアプローチは排他的ではなく、あなたは同時に複数のことをできるということです。例えば、教師は生徒を助ける(直接的なインパクト)だけでなく、新しい教育テクニックを開発したり(研究)、差し迫った問題について生徒に伝えたり(アドボカシー)することも可能です。私たちは、より多くの寄付をするために家庭教師をした先生を知っています(与えるために稼ぐ)。これまで見てきたように、あなたのインパクトは、立場そのものよりも、その立場をどのように利用するかにあることが多いのです。つまり、直接的に貢献する方法、アドボカシーを通じて貢献する方法、寄付を通じて貢献する方法のバランスが最も良い立場を探せばよいのです。私たちのキャリア・レビューでは、この3つの貢献の仕方でそれぞれの道を評価しています。

2つ目のポイントは、すべての問題に対して最適な単一のアプローチはないということです。むしろ、あなたが解決したいと望んでいる問題で最も必要とされているアプローチに焦点を当てることです。例えば、乳がんの場合、ほとんどの人が乳がんを問題視しているので、認知度の向上のための社会的なアドボカシーは必要ないでしょう。むしろ、より良い治療法を開発するために、より優れた研究者を必要としているはずです。もしあなたが認知度を上げることだけに注力していたのでは、その努力は大して報われることはないでしょう。

グローバル・プライオリティーズ・プロジェクトは、違いを生み出すための最良の方法をまとめたフローチャートを作成しました。サイズが大きいので、ここに転載することはできませんが、ぜひ一度ご覧になることをお勧めします: https://tinyurl.com/gmfbh46

しかし、一番大事なのは、自分が得意な選択肢を見つけることです。

自分が抜きんでる可能性のあることをやる

この章を通じて心に留めておくべき1つのきわめて重要な一般原則があります:ある分野で最も成功したキャリアは、一般的なキャリアよりもはるかに大きなインパクトを与えるというものです。つまり、あなたにとって最も効果的なアプローチとは、あなたのスキルやモチベーションによく合ったものであるということです。

並外れた業績をあげる人に関する画期的な研究では、以下のことが判明しています:34

どの領域でも、ごく一部の労働者が仕事の大部分を担っている。一般に、最も生産性の高い上位10%のエリートは、全貢献の約50%を占めることができ、一方、最も生産性の低い下位50%の労働者は、全仕事の15%しか負担していない。また、最も生産性の高い貢献者は、通常、最も低い貢献者の約100倍の生産性を有している。

つまり、成功の度合いをグラフにプロットすると、このようになります:

これは、前の2つの章で見たグラフと同じ形です。

これまで私たちが見てきたように、研究やアドボカシーなどの分野では特に極端ですが、それでもある主要な研究によると、ほとんどすべての分野で優秀な人は、典型的な人よりもかなり多くの成果をあげていることが分かっています。35その領域が複雑であればあるほど、この効果は顕著で、経営、販売、医療などの専門職で特に目立ちます。

これらの差の一部はただ単に運によるものです。たとえ全員が同じように適性があったとしても、ある人はたまたま運が良かったが、他の人はそうではなかったという理由だけで、アウトプットに大きな差が生じることがあります。しかしながら、一部の要素は技能によるものです。そしてこれは、自分が得意である可能性のある分野を選べば、あなたはより大きなインパクトを与えられるであろうということを意味します。

さらに、ほとんどすべての分野において、成功した人は影響力を得ることができ、重要な問題について唱道するために自分の立場を利用することにより、その影響力を良いインパクトに変えることができます。つまり、優れた慈善活動家は、平凡なエンジニアが与えるために稼ぐよりも、より多くの良いことをする可能性が高く、その逆もまた真なのです。

このことは、あなたが楽しめず、仕事の満足度の他の構成要素(没頭できる仕事など)に欠ける「インパクトの大きい」選択肢を取ることは、おそらく避けるべきであるということを意味しています。もしあなたが仕事を楽しめないのであれば、燃え尽きる可能性が高くなり、長期的に抜きんでる可能性も低くなります。

そこで、長期的に目指すべきインパクトの大きな道について何らかのアイデアが得られたら、仕事の満足度と個人的な適性に基づいて絞り込んでいくことをお勧めします。 その方法については、第6章で説明します。

結論:どの仕事で最も多くの人を助けることができるのか?

私たちが普段注目している以上に、あなたのキャリアにおいて他の人を助けるための道はたくさんあります。ビル・ゲイツはソフトウェア・エンジニアとしてスタートし、与えるために稼ぐことで何百万人もの命を救いました。ローザ・パークスは裁縫を生業としていましたが、アドボカシーを通じて、アメリカの公民権運動のきっかけを作りました。アラン・チューリングは数学者であり、コンピュータを発明しただけでなく、研究を通じて第二次世界大戦の終結に貢献しました。イーロン・マスクは実業家ですが、自動車や宇宙産業に革命を起こす手助けをし、人類の未来へのリスクを減らすことに貢献しています。

ほとんどの人はビル・ゲイツではありませんが、普通の大卒者の給料であっても、誰でも与えるために稼ぐことで驚くべきインパクトを与え、文字通り何百人もの命を救うことができるのです。また、アドボカシーや研究、直接的な仕事を通じて、さらに多くのことを行うのが可能な場合も少なくありません。

さらに、もしあなたが、解決したいと望む問題に最も適したアプローチや、個人的な適性に最もうまく当てはまる場所に焦点を当てれば、またさらに多くの良いことを行うことができます。

このように、医者や教師になりたくない人でも、通常考えられているよりはるかに多くの良いことをキャリアで行うことが可能なのです。

これまでのガイドを振り返って

第1章では、充実した夢のような仕事というものを見てきました:

  1. 他の人を助ける。
  2. 自分が得意なこと。
  3. 適切な支えてくれる環境がある(例えば、没頭できる仕事、人生の他の部分と調和する仕事)。

また、本当に他の人を助ける仕事を見つけるには、次のようなことが必要です:

  1. 第3章で扱ったように、どの問題が最も差し迫っているのか、つまり、規模が大きく、軽視されており、解決可能な問題なのかを見極めること。
  2. 最も効果的なアプローチを選択すること。直接的に働くだけでなく、研究、アドボカシー、与えるために稼ぐことなども視野に入れて幅広く考え、その問題に最も適したアプローチを選ぶこと。
  3. 自分が抜きんでる可能性のあるところで、楽しめることをすること。

あなたは犠牲を払うべきか?

私たちはよく、より大きなインパクトを与えるために、自分の楽しめることを犠牲にするべきかと質問されます。しかし、私たちは、良いことをするというのは、当初思うよりも犠牲を払うものではないと考えています。私たちが上で見たように、個人的に満足できる仕事は他人を助けることを伴うものであり、大きなインパクトを与える仕事は個人的に満足できるものでもあります。つまり、重なる部分がたくさんあるのです。

しかし、トレードオフがまったくないわけではありません。あなた個人にとって最高のキャリアが、世の中に最も利益をもたらすものである可能性は極めて低いでしょう。究極的には、他の人を助けることと自分の利益をどう天秤にかけるか、難しい価値判断を迫られることになります。しかしながら、そのトレードオフは、最初に考えたよりもずっと小さいものです。

自分のキャリアに当てはめてみる

次に進む前に、長期的に取り組める充実した、インパクトの大きいキャリアについて、手始めとなる短いリストを作りましょう。以下の手順が参考になるでしょう:

  1. あなたが最も差し迫っていると考える問題を2~5個決めます。

  2. 私たちのウェブサイトで関連する問題プロファイルを探し、それぞれのプロファイルにあるキャリアの手がかりのリストを読み、自分に合いそうなものを書き留めます。

  3. この章で取り上げた4つのアプローチを検討し、自分に合いそうな選択肢があれば、リストアップします。

この時点では、あくまで選択肢を増やすことが目的です。絞り込みの方法は、後の章で説明します。

もしあなたがキャリアの初期にいる場合は、私たちのキャリアクイズに挑戦してみてください

これは6つの質問からなるクイズで、あなたの回答に基づいて、お勧めのキャリアのリストを絞り込みます:
http://80k.link/APT

もしあなたがすでに経験を積んでいる場合は、分野別のアドバイスを読んでみてください

https://80000hours.org/articles/advice-by-expertise/

まとめ:最も良いことができるのはどのキャリアだろうか?

  • 第3章で取り上げたやり方で問題を選んだら、次のステップは、その問題の解決に貢献する最善の方法を見つけ出すことです。

  • 直接的な仕事だけでなく、研究やアドボカシー、与えるために稼ぐなどの間接的なアプローチも考えてみましょう。より影響力のある道や、より自分に合った道を見つけることができるかもしれません。

  • そして、自分の問題領域で最も必要とされているアプローチに焦点を当てましょう。ある問題は、政策を変えることで解決するのが最も効果的です。他の問題は研究を最も必要としており、さらに他の問題は資金を必要としているなど、さまざまです。

  • 最後に、ある分野で最も成功している人は、一般的な人よりもはるかに多くのことを成し遂げているため、自分が抜きんでる可能性のあることを選びましょう。より大きなインパクトを与えるために、自分が楽しめないことをするのはやめましょう。

  • 究極的には、(i)問題がどれだけ差し迫っているか(ii)自分の貢献度がどの程度か(iii)自分の個人的な適性に合っているか、を組み合わせて最良の選択肢を探します。


  1. https://www.bbc.co.uk/news/education-15820786
    https://www.washingtonpost.com/news/wonk/wp/2013/05/31/join-wall-street-save-the-world/
    https://www.dailymail.co.uk/news/article-2334682/Young-professionals-joining-Wall-Street-save-world.html↩︎

  2. https://80000hours.org/2013/05/how-to-double-your-donations-with-no-extra-effort/↩︎

  3. https://www.givewell.org/charities/top-charities↩︎

  4. https://richardprice.io/post/12855561694/the-number-of-academics-and-graduate-students-inを参照してください。↩︎

  5. Simonton, Dean K. “Age and outstanding achievement: What do we know after a century of research?” Psychological bulletin 104.2 (1988): 251.↩︎

  6. Hunter, J. E., Schmidt, F. L., Judiesch, M. K., (1990) “Individual Differences in Output Variability as a Function of Job Complexity”, Journal of Applied Psychology.↩︎