第7章 キャリアプランの立て方
私たちのところには、今後10年、20年の間に自分が何をすべきかを見出そうとしている人がよくやってきます。また、「自分に合ったキャリア」を見つけたいと言って、私たちのところにやってくる人もいます。
このような場合の問題は、あなたの計画がほぼ間違いなく変わってしまうということです:
- あなたは変わっていくでしょう(自分が思っている以上に)。
- 世界は変わっていくでしょう。私たちが見たように、今日ある多くの産業は、20年後には存在すらしないでしょう。
- あなたは、何が自分にとってベストなのかについてもっと学ぶことになるでしょう。前章で私たちが見たように、自分が何を得意になるかを前もって予測するのは非常に難しいです。
ある意味、単一の「自分に合ったキャリア」というものはありません。むしろ、世の中が変わり自分が多くを学ぶにつれて、最適な選択肢はどんどん変わっていくものです。だから、10年単位で計画を立てようとしても、状況は変わっていくのだから役には立ちません。それは新しい情報や選択肢に対してあなたから柔軟性を奪うことにもなりかねません。
一方、あなたは何の計画も持たずにしくじることも望まないでしょう。具体的な目標を持つことで、より成功しやすくなりますし、どのキャリアの選択肢が最適かを考えることは、やみくもに履歴書を送りつけるよりも良いことです。49
では、答えは何なのでしょうか?それは、柔軟な計画です。
ここでは、前章で選抜した選択肢の中から、具体的で柔軟性のある計画を立てる方法を説明します。
A/B/Zプラン
キャリアプランの書き方として便利なテンプレートがあります。これは、あなたのキャリアがどの時点であれ、今後数年間の計画を立てるのに使うことができます。
このフォーマットは、LinkedInの創業者であるリード・ホフマンのキャリアアドバイス本『スタートアップ!シリコンバレー流成功する自己実現の秘訣』のビジネス戦略から借用したものです。ビジネス戦略は、状況が不確実で変化が激しいので、キャリア戦略と似ています。私たちはこれまで、何種類かのキャリアプランを何千人もの利用者でテストしてきましたが、これが現在の本命です。
A/B/Zプランの考え方は、可能性のある選択肢をいくつか設定し、好みによってランク付けすることです。また、何がベストかについてのあなたの自信の度合いに応じて、いくつかの調整も加えました。
1. プランA - 最優先の選択肢
これは理想的なシナリオです。プランAには大きく分けて3つのオプションがあります。長期的に何を目指すかについて、あなたがどの程度自信があるかに基づき、次のいずれかを選んでください。
オプション1. もしあなたが最良の長期的な選択肢にそれなりの自信があるのなら、そこに到達するための方法を考えましょう。
その分野の人と話をしたり、成功した人の過去の行動を見たりすることによって、最優先の選択肢に至る最良のルートを決めてみましょう。特に、例外を探しましょう。異例の速さで、あるいは大きな挫折を経験しながらも、その立場にたどり着いた人はどのようにしていたのでしょうか?また、私たちのキャリア・レビューのアドバイスも再確認してください。
さらに、目標に向かって近づけてくれると同時に、柔軟なキャリア資本を構築できるような段階を探しましょう。そうすれば、仮にあなたのプランAがうまくいかなかったとしても、まだ選択肢は残っているでしょう。第5章にある、柔軟なキャリア資本を構築する選択肢についてのアドバイスを参考にしてください。
オプション2. もしあなたが最良の中期的な選択肢に確信を持てないならば、代わりに、上位2~4個の選択肢を今後数年間で試す計画を立てましょう。
前章で紹介した、選択肢を正しい順番で並べるなどの工夫をすることによって、選択肢を試すためのコストを最小限に抑えることができます。
オプション3. もしあなたが最良の長期的な選択肢にまったく確信を持てないならば、(i)もっとリサーチをし、(ii)その間に柔軟なキャリア資本を構築する必要があります。
リサーチのために一定の時間を確保してください。もしあなたがこれまであまりリサーチをしたことがないのであれば、2か月など短い期間を選びましょう。すでにいろいろと考えたことがあるのであれば、1~3年間は1つの選択肢に専念し、その後、再検討すればよいでしょう。
リサーチのために確保した時間には、どの選択肢が最良なのかをもっと知るための方法のリストを作成してください。
それ以外では、柔軟なキャリア資本を最もうまく構築することなら何でもやってみましょう。第5章にあるアドバイスを参考にしてください。
もしあなたがキャリアの初期にいるならば、おそらく最後の2つのカテゴリーのどちらかに入るでしょう。それでいいのです。すでにすべてを理解している必要はありません。
もし長期的な選択肢を見つけ出すのに手助けが必要なら、第4章に戻るか、あるいは第6章のブレインストーミングの質問を利用してください。もしこれらの選択肢を最初に絞り込むのに手助けが必要なら、第6章に戻りましょう。
2. プランB - 手近な代替案
これは、プランAがうまくいかなかった場合に切り替えられる選択肢や、プランAよりも優れていることが容易にわかる選択肢です。事前に書き出しておくことで、新しい機会に備えておくことができます。
プランBを選び出すには、プランAでうまくいかない可能性が最も高いものは何か、どんな障害に直面する可能性が最も高いかを自問します。そして、そうなった場合にどうすればいいかを考えてみましょう。2つか3つの代替案を見つけ出してください。
3. プランZ - 一時的な予備手段
これは、すべてがうまくいかなかったときに、立ち直りの時間を確保するために行うことです。それは、友人宅のソファで寝泊まりしながら、家庭教師やカフェで働いたりして生活費を稼ぐ、貯金を切り崩して生活する、元の仕事に戻る、などを意味するかもしれません。また、アジアに英語を教えに行くなどといったもっと冒険的なこともあるかもしれません。これは、新しい文化を知ることができる、意外と需要があり、競争の少ない仕事です。
プランZがあれば、リスクを取ることが容易になります。考えてみれば、プランZもおそらくそんなに悪くはないでしょう。食べ物も、友達も、ふかふかのベッドも、完璧な温度の部屋もあるのですから。それは、あらゆる歴史の中で、ほとんどの人が直面してきたよりも良い条件です。
しかしながら、あなたの収入に依存している人がいるなど、深刻なリスクに直面している場合は、プランAやBがうまくいかなかった場合にどうするかを真剣に検討することを望むでしょう。
不利な面を知っていれば怖さは減りますし、バックアッププランがあれば対処できる可能性が高くなります。
キャリアプランの一例
あなたは、中期的には開発経済学の研究や国際開発の非営利団体の設立に興味があるが、自分と学術界との相性はよくわからない、とします。
そうすると、あなたのプランはこうなるでしょう:
プランA:学生時代に、ある年の夏休みを利用して開発途上国で生活し(あなたが開発の道に進むために必要なことです)、別の年の夏休みは非営利団体で働きます。そして、2年間コンサルタントとして働き、その後、経済学の修士号を取得します。その時点で、あなたは経済学の学問の道を続けるか、非営利団体に転身するかのどちらかになるでしょう。
プランB:あなたはコンサルタントの仕事に就けないかもしれません。その場合、1年早く大学院に進学し、1年間は非営利団体でインターンをしたり、開発途上国で英語を教えたりすることができます。
プランZ:実家に戻り、去年の夏に働いていた総菜販売店で仕事をします。
計画を見直すことを約束する
あなたの計画は、あなたがより多くを学ぶにつれて変更されるべきです。しかし、すでに歩んでいる道には簡単にはまり込んでしまいます。より良い選択肢があるのに進路を変えないのは、心理学者が指摘する最も一般的な意思決定の間違いの1つで、「サンクコストの誤謬」または「現状維持バイアス」と呼ばれます。
この誤りを避けるためには、あなたは計画を常に見直す必要があります。以下に、いくつかのアイデアを紹介します:
- 半年後か1年後に自分のキャリアを見直す時間を確保しましょう。これを容易にするために、私たちのウェブサイトでは、簡単にキャリアを見直すことができるツールを用意しています。50自分ひとりで質問に取り組み、友人やメンターに自分の考えが正当だと説明してみましょう。他の人は、サンクコストバイアスをよりうまく発見することができ、他の人に自分の考えの正当性を説明することは、あなたのバイアスの度合いを減らすことが示されています。51
- 目安のポイントを設定しましょう。あなたが間違った道に進んでいることを示すであろう兆候のリストを作り、それが現れたら再評価することを約束しましょう。例えば、学術的なキャリアで成功するには、トップジャーナルで多くの論文を発表することが重要です。そこで、博士課程の終わりまでに一定数の論文を発表しなければ、学術的な道を見直すことを約束することができます。
自分のキャリアに当てはめてみる
上記のフォーマットを使ってあなたの計画を書き出してください。私たちは支援ツールを作成しました。私たちが扱った重要な考え方がすべて適用されているかどうかをそれでチェックすることができます。こちらをご覧ください:
http://80k.link/HWC
もしあなたが今すぐには時間がとれない場合は、どこかの日の午後の時間を空けて作業してください。
まとめ:キャリアプランの立て方
あなたはA/B/Z方式を用いることによって柔軟な計画を立てることができます:
プランAは、あなたが追求したい最優先の選択肢です。あなたが中期的にやりたいと望むことについて比較的自信を持っているならば、それに集中してください。どちらかといえば確信が持てない場合は、いくつかの選択肢を試してみましょう。もしあなたがまったく確信が持てない場合は、柔軟なキャリア資本を構築しながら、もっとリサーチする計画を立ててください。
プランBは、プランAが意図したほどにはうまくいかなかったときに切り替えることのできる、手近な代替案です。
プランZは、すべてがうまくいかなかったときの一時的な予備手段です。プランZを持つことで、より大きなリスクを取ることができます。
少なくとも年に一度は計画を見直すようにしましょう。私たちのウェブサイトにあるツールを使ってください:
https://80000hours.org/career-planning/annual-career-review/