付録6 違いを生み出すために待つべきか?
もしあなたが自分のキャリアでもって違いを生み出そうとするのであれば、今、良いことをするのと、後に良いことをするための土台を築くこととの間に緊張関係があることに気づくかもしれません。
例えば、次のような場合です:
来年、あなたには2つの選択肢があります。あなたはある効果的な慈善団体で働き、その受益者にすぐに違いを生み出すことができます。あるいは、大学院に進学してキャリア資本を築き、(願わくは)後に大きなインパクトを与えられるようになることができます。
あるいは、あなたがまとまった額のお金を持っているとします。あなたは今すぐ寄付することもできますし、そのお金を投資して成長させ、後で大きな金額を寄付することもできます。
あなたはこれらの選択肢の間で、どのように判断したらよいのでしょうか?ここでは、私たちの調査結果を要約して紹介します。調査の全容は、オックスフォード大学のグローバル・プライオリティーズ・プロジェクトにより発表されています(http://globalprioritiesproject.org/2015/02/give-now-or-later/)。
まとめ:お金を寄付するのは今か、後か?
まず、収入がない状態で少なくとも6か月間生活できるだけの貯蓄をすることに集中し、その後、妥当なレベルの老後資金の積み立て(一般的なアドバイスとしては収入の15%)を始め、金利の高い負債は返済していきましょう。この間、1%の寄付を目標にすることで、寄付を続け、どの慈善事業が最も効果的かを学び続けましょう。
その後、今すぐ寄付するか、後で寄付するかは、いくつかの要因によります。もし、どこに寄付するのが一番効果的かについて確信が持てない場合は、お金を投資しておいて後で寄付するのがおそらく一番でしょう。税金を節約するために、ドナー・アドバイズド・ファンドで行うことをお勧めします(https://www.benkuhn.net/giving-101/#donor-advised-fundsにガイドがあります)。
もしあなたがすでに問題領域を決めているのであれば、その問題がどの程度緊急性の高いものであるかによります。それが急速に成長している未開拓の分野であるならば、おそらく早めに寄付をすることが重要でしょう。もし、より確立された分野であるならば、資金を複利で運用し、寄付をするのは後にしたほうがよいかもしれません。
これは特にあなたがキャリアの初期にいる場合に当てはまることです。なぜなら、おそらくあなたには大きなリターンが期待できる自己投資の方法があるからです。例えば、大学院で勉強したり、プログラミングのブートキャンプに行ったり、適切なカンファレンスに参加するなどしてあなたのキャリアを後押ししてくれる人に会うためにお金を使ったりすることが挙げられます。
まとめ:時間を割くのは今か、後か?
キャリア初期には、キャリア資本の構築に注力することをお勧めします。なぜなら、一般的に、スキルを向上させ、長期的に違いを生み出すのにより良い立場に身を置くためにあなたにできることがたくさんあると私たちは考えているからです。
しかしながら、この時期にも、ソーシャルインパクトについて学び続けるとともに自分の価値観を貫くために、良いことをしたいと望む他の人々と関わり続けるようにしてください。(そして、キャリア資本の構築とソーシャルインパクトの両方を実現できるような何かを見つけるのが理想的です。)
その後、どの問題が最も差し迫っていると考えるかによってバランスは変わります。より緊急性の高い問題であれば、短期的なインパクトをより重視し、そうでなければキャリア資本を重視しましょう。
もし、どの問題が最も差し迫っているのかにまったく確信が持てないのであれば、マーケティングやマネジメントなどの転用可能なスキルを学ぶなど、柔軟なキャリア資本を構築することに重点を置いてください。
主な要素についての詳細
良いことをする機会の減少
今すぐ良いことをするべきという主な論拠は、最高の機会が次々と奪われ、待てば待つほど、自分の仕事や寄付で同じインパクトを与えるのが難しくなるということです。より大きく、より介入が容易な機会はすぐに利用される可能性が高く、その後に、より小さく、より困難な分野に目を向ける価値があると見なされるでしょう。
介入策に対する理解の向上
一方、どのような介入策が効果的であるかについては、研究によって絶えず理解が深まっています。その結果、良いことをする機会は時間とともに増えていくかもしれません。ある介入策が大きくて簡単だからといって、20年前にそれが可能だと知っていた人がいるとは限りません!
投資に対するリターン
あなたの時間や資金を投資することで、将来的にどの程度のリターンを得られるかということも検討するべき重要な要素です。投資したお金は、生涯を通じて、ごく普通の割合で増えていきます。これとは対照的に、キャリアの早い段階で自分への投資を優先させれば、より高い報酬を得られる可能性があります。多くの人は、仕事を始めてから20年の間に、スキルを身につけ、昇進し、さらに勉強し、ネットワークを構築することによって、お金を稼いだり、世界を変えたりする能力を飛躍的に高めるようになります。
キャリアの初期によくあることですが、自分に投資する良い機会がたくさんあるのなら、私たちがお勧めするのは「待つことに意味がある」ということになります。あなたは今は自分のキャリア資本を優先し、後で違いを生み出すように集中することによって、長期的により大きなインパクトを与えることができるでしょう。(しかし、私たちは、良いことをするのを完全に無視することを推奨しているわけではありません:以下の燃え尽きに関する項目を参照してください。)
目標の有効性に関する確信
あなたは、どの目標が最も優れているかについて、自分の見解にどの程度確信がありますか?もし、あなたの見解が不安定であれば、どちらかといえばより確信が持てるまで待つことに傾くでしょう。そうでないと、あなたは投資の機会を失うとともに、結局、支援していた目標がそれほど効果的でなかったということになりかねないからです。
ただし、寄付をすることでより多くを学ぶことができる場合は例外です。これには、あなたが最も優れていると思ういくつかの目標に向けて働いたり、それらの目標に資金を提供したり、あるいはそれらの目標間の比較に資金を提供したりすることが含まれるかもしれません。自分だけでなく、同じような境遇にある他の人たちの役に立つ情報を得ることができるのであれば、この選択肢は特に優れています。この場合、どの目標が最も優れているかについての知識を深めるために、今すぐ寄付をすることが最良の選択であると考えられます。
目標が集めている注目度
先に述べたように、一般に良いことをする機会が減少するのと同様に、特定の目標内においても良いことをする機会は減少します。その結果、ある目標がすでに注目されていればいるほど(調査、労働時間、寄付などの観点において)、追加的な資源の効果は低くなります。
そのため、まだほとんど何も行われていない分野、そして今後急速に発展する可能性のある分野では、今すぐ支援することが特に有効かもしれません。待っていたら、最高の仕事がされてしまうかもしれません。それに対して、すでに確立された分野では、今すぐ支援するのと後で支援するのとでは、あまり大きな違いはないと思われます。
この推薦事項が不明瞭である1つの分野は、費用対効果に焦点を当てたグローバルな貧困への介入策です。開発援助は全体として大きな分野であり、急速に成長しているわけではありませんが、最も費用対効果の高い介入策に向けられた支出の割合は急速に増加しているかもしれません。どちらが参照点としてより適切なのかは不明であり、この場合、今すぐ寄付するのが良いのか、後で寄付するのが良いのか、私たちは確信が持てません。
その他の検討事項
上記で検討した要素は主なものですが、すべてを網羅しているわけではありません。以下は、検討に値するその他のポイントです。
燃え尽きないこと
たとえあなたが後で寄付することに重点を置いていたとしても、燃え尽きたり、良いことをする習慣がなくなったりしないように、今何かしたほうが良い場合があります。良いことをすることは、自分を幸せにし、モチベーションを維持するのに役立ち、また、自分の献身を示すことによって、他の人に協力を促すことができます。
そのため、収入の10%を寄付する、利他的な人々と親しくなる、インパクトの大きなキャリアを歩む意志を公言するなど、少なくとも何らかの形で違いを生み出すことに関与し続けることが望ましいと思われます。同様に、現在あなたが寄付をしている場合でも、個人的な蓄えとしていくらかの投資を保持する価値があるかもしれません。
税金についての検討事項
税制上の優遇措置は今年の所得に対してのみ申告することができるため、今すぐ寄付をすればより多くの税制上の優遇措置を受けることができます。しかしながら、ドナー・アドバイズド・ファンドに資金を預けることによって、この問題を回避することができます。この他にも、税金についての考慮事項があり、どちらかに軍配が上がる可能性があります。